A Hard Day’s Night(最終決戦にはまだ早い……って始まったぁぁぁぁぁぁぁ)
苦節……5時間程。
私と小笠原1尉の二人掛かりで、各方面隊に配布する【魔導具化の法印】を製作しました。
その数、実に48個。
5つの方面隊総勢、7師団8個旅団基幹に配布する為の準備も完了です。
残り3つの内一つは小笠原1尉に預けておき、この富士駐屯地で対応して貰う事にしました。
そして残りの二つは私が予備で持っている事にします、何かあった時の保険ですよ、ええ。
という事で、外で待機している大型輸送ヘリコプターCH-47J/JAチヌークで各方面隊総監部へ移送、あとは現地で待機している第1空挺団魔導編隊の団員に託します。
使い方などは全て書き出してるので、それを参考にして貰いますよ、ええ。
――プルルルルルッ
そんな感じで移送が完了した時、内線に連絡が届きました。
「如月3曹、総監部からです」
「ありがとうございます、如月弥生三等陸曹です」
受話器を受け取ってそう返答を返しますと。
『初めまして、外務省外務大臣政務官を務めています梨音・アルフォードです。実は、つい先ほど外務省へ外国より救援要請が届きました。現場は中国上海郊外。沖合1200メートル地点に巨大な魚影が多数出現したそうで、同時に海底を進む異形の化け物が確認されているとの事。中国海軍も出動しているのですが、余りにも数が多いのと一部の魔物に対しては実弾が全く効果がないという報告が届いています。現在、物理的効果は発生しているので、直撃させれば後方に吹っ飛ばす事は出来るという報告も届いており、今はそれで時間稼ぎをしているとの事です』
「成程……それは大変ですね。では、頑張ってくださいと伝えて頂けますか」
『ちょっと待ってください。如月弥生三等陸曹は、急ぎ中国に向かい迷宮攻略をお願いしたいのです』
ええ、やだぁ。
そもそも日本国内が危ないっていうのに、そんな遠くまで手が届く筈ありませんよ。
自国民の生命を守ることが第一ですから。
「誠に申し訳ありません。私は国内の迷宮攻略で手一杯です、物理的対処が可能でしたらそれでお願いしますと伝えてください。それ以上の事については……まあ、運を天に任せてという事で」
『そんな無責任な!』
「そもそも、私はまず国内の迷宮の対処を始めます。それが終わり次第でしたら可能ですけれど……と、問い合わせてください」
――プルルルルルッ
ああっ、また別の内線が届いているぅぅぅぅ。
それを受け取った小笠原1尉が、渋い顔をしています。
『ちょ、ちょっと待ちなさい。国内は魔導編隊で対処可能じゃない、貴方は手が空いているのよね』
「空いている訳ないです。という事で失礼します」
――ガチャッ
そっと優しく受話器を置きます。
そして小笠原1尉に内線を繋げて貰いましたが、やはり似たような案件でした。
日本の西、アジア方面の諸外国から、日本国への救援要請です。
それも直接来て魔物だけを退治して欲しいとか、ダンジョンコアは残し、こちらの担当に管理権限を譲って欲しいとか。
まあ、ありていにいうと『あんた魔導師なんだろ、とっとと魔物を退治しろ迷宮攻略しろダンジョンコアと迷宮資源の権利は我が国のものだからな』という事らしいです。
なお、一件だけ、迷宮管理特別委員会の議員さんからも、同じような意見が届けられました。
だから全て丁寧にお断りを入れてガチャ切りしましたよ。
外務省外務大臣政務官って、暇なんですかねぇと思ったのですが。
そもそも外交交渉や国際協力、国際機関の仕事や文化交流が仕事なのですから、このようにヘルプが届くのも理解出来ますよ、ええ。
だからと言って、日本国を捨てて手伝えというのはどうかと思います。
せめて防衛省を通して来いと。
特に、外務大臣時直々の電話については最後は受話器を叩きつけるように切ってやりましたよ。
「はぁ。ほんと、こういう時に限って手が足りないのですよねぇ」
「ちなみに如月3曹、貴方が救援に向かわなかった場合の諸外国の被害については、どれぐらいと試算していますか?」
「そうですね。電話を寄越してきた国については、政治中枢機能のマヒで済めば御の字。最悪は、その国が消滅するんじゃないかなぁ……」
「ああ、成程ね」
ほら、小笠原1尉も納得していますよ。
ほんと、今回の世界一斉迷宮出現については、あのわんこ魔王にしてはいい作戦だと思いますよ。
これが異世界アルムフレイアでしたら、魔法で対処可能なのでいくらでも防衛手段はあったのですから。これを地球で行ったというのが、実にいやらしいじゃありませんか。
あのわんこ魔王は。
「それで、如月3曹としては、全てを丸く収めるだけの手段があるのでしょう?」
「まあ、無いといえば嘘になります。日本国内で最も深度が深い迷宮の最下層で、地球のマナラインにアクセスします。要は、ナイジェリアでスマングルが行っていることを、私が東京を中心としてアジア圏まで広げるだけですから」
ようは、マナラインに干渉してアジア圏の迷宮全てを不活性化させるだけ。
でも、既に発生してしまったスタンピードを止める事は出来ないので、今溢れている魔物については独自にな対処して貰う必要はあります。
後はダンジョンコアを私が遠隔で掌握するだけ。
ただ、これを行っている間は、私は制御に意識を傾けなくてはならないので完全な無防備になってしまうのですよ。
という事を懇切丁寧に小笠原1尉に説明します。
当初は一つ一つ、私が虱潰しにダンジョンコアを破壊してしまおうかと思ったのですけれど。
さすがに、そんな余裕はないようですし。
「問題は……鷹木陸将に報告しなくてはならないという事かしら」
「はい。当初の作戦を大幅に見直す必要がありますから」
ここに来て作戦変更を余儀なくされるとは。
まあ、アジアの平和を守る為なら、鷹木陸将は納得してくれるでしょう。
ただし、最優先は日本国内迷宮の制圧です、ここは譲れません。
という事で急ぎ新しい作戦立案書を作成し、再び統合幕僚監部へ。
既に諸外国からの『謎の圧力』が防衛省にも届いているらしく、どのように対策を講じるべきか頭を悩ませている最中でした。
ですから、新たな作戦立案書を提出し、鷹木陸将の判断を待ちます。
「……この作戦の問題点は?」
「はっ。万が一にも、方面隊でダンジョンスタンピードの対応が不可能となった場合。そのエリアは壊滅的打撃を受けるという事です。その際、私はマナラインと意識を繋いでいる為、対応する事は出来ません。アジア全域の平和を取るか、日本国内の安全を最優先するかという事です」
そう伝えると、鷹木陸将も渋い表情。
だって、私の問いかけは、結果が見えているのですから。
「私たち日本国自衛隊の任務は、自国民の安全を確保すること。その為には脅威となるものを全て排除する必要があります。ゆえに……ここはアジアと日本、どちらも守っていただけますか?」
「そうなりますか。第1空挺団魔導編隊に魔導兵装を貸与しますので、余程の事が無い限りはダンジョンスタンピードが外に漏れる事は無いかと思います。では、全て纏めて面倒みます」
「では、そのように。ああ、外務省については、こちらから手を回しておきますので」
あ、なんか嫌な予感がして来ました。
では作戦開始という事で。もう一度富士駐屯地へと帰還です。
もう、これだからお役所仕事は嫌なんですよ。
………
……
…
――富士駐屯地・富士演習迷宮最下層
既に作戦は始まっています。
私はこれから、この富士演習迷宮を起点として、国内で最も深度のある迷宮を捜さなくてはなりません。
「まずは……ダンジョンコアにアクセスし、ここの地下に流れるマナラインに接続。そしてマナライン経由でアジア圏の迷宮分布を掌握します……七織の魔導師が誓願します。我が目の前に七織の魔力球を与えたまえ……我はその代償に、魔力十二万五千を献上します……赫奕たる世界っ」
――シュンッ
目の前のダンジョンコアが、一枚の巨大なモニターに変化します。
そこには日本とその西部、アジア圏の地図が浮かび上がりました。
「ふむ。国内迷宮の最深は、この富士演習迷宮ですか。まあ、私が作った迷宮ですから、深度なんていくらでも作り変えられますからねぇ……と」
――ピッピッピピッピッ
アジア圏の地図のあちこちが光り輝く。
それは迷宮の発生している地点であり、光の強さと色合いで危険度を示しています。
「日本国内の迷宮すべてがパターン・ブルー。つまり、現状の対策で防衛可能……と。問題は中国の四か所がパターン・イエロー。大氾濫一歩手前で、韓国の一つとロシアの二つがパターン・レッド。すでに大氾濫が発生中。各国器の軍隊でどうにか市街地への侵攻は抑えているけれど、これは時間の問題。ただ、急ぎ対処する必要があるのが中国の上海沖合ですか」
上海沖合はオープンフィールド型、つまり海が迷宮化しています。
そして海洋型の魔物が周辺海域へと向かう可能性を考えると、急ぎ対処する必要がありますか。
「それじゃあ、こっちも切り札を使いますか……折角溜めていた魔力なのですが、出し惜しみは禁止ですよね……」
トラペスティの耳飾りを装着し、魔導兵装に換装。
「タイプA……いえ、タイプCですね」
本来なら、迷宮操作ならタイプAでいいのですが。
どうにも嫌な予感がするのでタイプCに変更しておきます。
まあ、魔力の出力はこっちの方が上ですので、応用は聞くかと思いますので。
「それじゃあ……受諾せよ、我が名は如月弥生、第七階位の魔導師にして、異界の神を従えしもの……我が問いかけに、星よ答えたまえ。我が西方に走る星の伊吹よ、全て我に従え……」
――キィィィィィィィィィィィィィィィィン
私の全身が輝くと同時に、目の前のパネルに記されていた迷宮の危険度が、ゆっくりと塗り替えられて行きます。
それは私の脚元から伸びる魔力の奔流。
やがてマナラインへとたどり着いた私の魔力は細い糸のように伸び、アジア圏のダンジョン最下層へと向かうと、そのままダイレクトにダンジョンコアの支配権を塗り替えていきます。
「ぐっ……ダンジョンマスターの存在しない迷宮……いえ、生まれる前に大氾濫を引き起こしたという事ですか」
すべてのダンジョンコアには【狂歌盛衰】という術式が刻まれており、これによりダンジョンコアは星のマナを吸収し、半狂乱と化した魔物たちを生むためのシステムに作り変えられています。
私はその一つ一つに接触し、術式を解除した後、主導権を一時的にではありますが、私の耳についているトラペスティさんに書き換えている真っ最中。
ええ、今は一つでも多くの支配権を手に入れて、迷宮の入口を封じなくてはなりません。
「さ、流石にダンジョンコアを吸収する事は出来ませんか……」
『それは無茶だな。そもそも、直接的に接触しないと、書き換え自体も無理な筈なのに……こんなに無理をしやがって』
――ポタッ……ポタッ……
私の脚がけいれんを始めました。
頬を伝っているのは、目から噴き出した血液でしょう。
アジア圏で確認できた、活性化迷宮はおよそ39か所。
その全てとアクセスし術式を解除且つ書き換えしているのですから、体だけじゃなく精神、そして魂に負荷がかかっているのは理解しています。
でも、こうする事で、少なくともアジア圏はどうにか出来る。
ええ、このまま何事も起こらずに、全てが終わってくれれば。
『七織の魔導師が誓願する。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上する……確殺の刃っ」
突如、私の背後で詠唱が聞こえました。
しかも圧縮術式、わずか0.268秒の超高速圧縮詠唱ですっ。
「嘘ッ」
『輝けるトラペスティの名において、術式破壊っ』
――バッギィィィィィィィィィィィッ
私の脳天目掛けて振り下ろされた確殺の刃。
それは耳元でトラペスティさんが圧縮詠唱してくれた術式破壊により、対消滅しました。
「ふん。この程度で死ぬとは思っていなかったが、やはりしぶといな、空帝ハニーよ」
今の私は指一つ動かすことが出来ません。
ええ、幾つものダンジョンコアの書き換えを行っているのです、つまり手を止める事なんて出来ません。
『ああ、やはり不死王リビングテイラーですか。わざわざこんな辺鄙な所まで来るとは、まさか最終決戦、なんて冗談を告げに来たのですか?』
「チッ。トラペスティか。ああ、その通りだよ。既にナイジェリアのスマングルの元にはヤンが、そして勇者スティーブの元には魔王アンドレスさまが直々に出向いている。それにだ、聖女の妨害が起こらないように、ヨーロッパには夜魔キスリーラが向かっている……そして妹弟子の如月弥生、貴様がダンジョンコアにダイレクト接続して書き換えを行う事も、アンドレス様は読んでいた。だからこそ、ここで貴様の息の根を止めに来た」
ふぅん。
まあ、そう来ることは可能性の一つとして予測はしていましたが。
でも、それは最も最悪のパターンであり、出来れば起きて欲しくなかったのですけれど。
「トラペスティさん……任せていいですか?」
『そうだな。まあ、11分だけ、手を貸そう』
「では、輝けるトラペスティに宿りし、神の一片よ……一時解放を許可します」
そう告げた瞬間、耳元のトラペスティが砕け散り、黒い霧が噴き出します。
それはやがて一人姿を形成し、みるみるうちに黒衣の修道服を身に付けた神父の姿に変貌しました。
『ああ、実に久しぶりだ……この姿で現界に降臨したのは』
「……全く、シャレになっていませんねぇ……」
『そうだな、愚かなりし不死王よ。今日こそ汝に、神の鉄槌を与えよう』
ふぅ。
背後ではトラペスティさんとリビングテイラーの戦いが始まったようです。
では、そちらは本当に任せておいて、こっちに意識を集中しましょう。
書き換えが終わる前に意識が分散したら、最悪は私の魔力を吸い取ってダンジョンコアが完全覚醒してしまいそうですからね。





