We Are the Champions(小笠原1尉、三織の魔法使いになる。そして作戦開始です)
事態は最悪。
予想していた幾つものパターンの内、もっとも危険なパターンが発生しています。
「小笠原1尉、勇者チームと作戦会議を行いますので今しばらくの間、お時間を頂きます」
「了解。以後、如月3曹への連絡は全て私に回してください。後は各方面隊の動向について、可能な限り確認を行ってください」
「はいっ!!」
小笠原1尉が、他の隊員に指示を飛ばしています。
それなら後はお任せして、私は勇者チームに念話で連絡を。
『こちら弥生っ。みなさんの状況はどうなっていますか!!』
両こめかみに人差し指を当てて、意識を念話に集中します。
兎にも角にも、日本だけでもあちこちでダンジョンスタンピードが発生している現状、それを押さえるだけの戦力があるかどうかといわれますと、かなり難しい所です。
それにアジア圏でも日本以外で発生している筈ですが、それらについての情報は今だ届いていません。
最悪のパターンとなっているのか、隠蔽しているのか。
インターネットのある現代では、大規模スタンピードなんて隠し通せる筈がないのですが。
ほら、目の前で事故が発生したら、通報よりも先に動画を回し始めるような『非常識』な人達が結構いるじゃないですか。
やれ『撮れ高』だの、『パズる』だの。
あんたらアホかと、バナナかと。
『こちらバチカン市国のヨハンナです。ヨーロッパ方面でのダンジョンについては、マルタ騎士団とイングランドのガーター騎士団が動いたようです。ちなみにマルタ騎士団とガーター騎士団の装備は全て、現法王であるヨハネス・パウロス三世の祝福を得ているので、守りについてはそれなりに戦えると思うわ』
『な、成程……その法皇様の祝福って、何処まで信用していいの?』
『ええっと……神託を聞く事が出来る聖職者ですよ。オードリーウエスト王国の聖人コンラート・リノラさまと同程度……かな?』
ゲゲッ、コンラート卿と同じ程度ですって?
あのフルカステシア大平原でのアンデットの大反乱の際、襲い来る10万のアンデットの群れを全て浄化した、世界屈指の聖者コンラート卿と同程度って……そりゃあ、その騎士団は強いですよねぇ。
『でも、そんなに凄い法皇様が、どうして実力を隠していたんだろう?』
『そもそも、地球ではこれまで、モンスターの反乱なんて起こっていませんから。すでにバチカン市国を中心に、全世界に存在する枢機卿は戦う準備を始めているそうですから。では、私もこれよりミサの準備に入りますので』
うわぁ。
それじゃあ、日本のダンジョンもお任せしていいかなぁ。
確か、日本にも枢機卿はいたはずですよね。
それに、ヨハンナのいうミサが始まるのなら、ヨーロッパ方面のダンジョンスタンピードはある程度緩和されますわね。
ヨハンナを中心とした、大規模な行動力低下術式が歌に乗って各地に広がっていくのですから。
でも、これって彼女がずっと歌い続けなくてはならない為、とんでもない負担がかかるのですよ。
『こちらスマングル。ナイジェリア迷宮は急遽、マナラインの制御術式を展開し、世界各地に流れているダンジョンコアの不活性処理を開始している。以上だ』
『マナラインの制御術式って……ねぇ、スマングル、貴方の闘気と魔力量では、そんな大規模儀式術式を展開して制御できる筈ないじゃない……まさか、使ったの?』
うん、私でも制御する事なんて不可能な大規模儀式術式。
それを使いこなしているっていう事は……。
『スマングル、スティーブだ。まさかとは思うが、使ったのか?』
『ヤヨイから受け取った、トラペスティの結晶体。俺が受け取ったのは大地の神の結晶『ソースァクヴァ』から魔力を開放し、大規模儀式術式に転用した』
『ばっっっっっっっかじゃねーの、お前、死ぬ気かよ』
『死ぬ気など更々ない。むしろ、ソースァクヴァとは友人である。ヤヨイとトラペスティの関係と同じだ、以上……集中するので、しばし聞き取るだけにする』
うわ。
私が持っているトラペスティの耳飾り、これは元々は【神代迷宮】という世界最難易度の迷宮のダンジョンコアの欠片の一つ。
私はそのダンジョンコアを4つに分解し、スマングルとスティープ、ヨハンナに手渡している。
それは、各自でその力を封じるため。
一つ一つにさえ、邪神の核が封じられているのに、それが全て集まるとこの宇宙が消滅しかねないから。
ちなみに私はトラペスティの耳飾りと盟約を結び、力を貸したり借りたりしている。
スマングルも同じような事をしているのでしょう。
彼の所持している『トラペスティ』の神核は大地の神であるソースァクヴァ。
そりゃあ、マナラインの制御だって手を貸してくれるでしょうね。
『り、了解。もしも最悪の事態になったら、私に連絡を頂戴。それでスティーブは今、何をしているところ?』
『単独で迷宮攻略の真っ最中だ。来たアメリカで発生した5か所のうち4か所は、海兵隊のデルタフォースに任せて入り口を封鎖して貰っている。皆、闘気修練を終了しているので、ある程度の対処は可能だからな。という事で、こっちは大丈夫だ、心配するな』
『……すっごく機動力がいね。それじゃあ、そっちは任せておくね。後、他の国でのダンジョンスタンピードについても、海兵隊で動いてくれているの?』
『アジア方面以外はな……後は任せる』
はぁ。
流石は勇者、一人で私達3人分の働きも出来るだけの事はありますね。
あれでどうして女性にモテないのか、本当に不思議でたまりませんよ。
『……それじゃあ、日本を中心とした迷宮については私が動きますので』
『グッド』×3
よし。
三人から『グッド』を貰ったので、私も本気を出させていただきますよ。
これは私がリミッターカットで動く為の許可。
やり過ぎ防止のため、普段は自制しているのです。
「小笠原1尉、勇者チームとの話し合いは完了しました。私は日本を中心としたアジア方面の迷宮攻略に全力を傾けます。という事で、北部方面隊総監部へ行ってきます」
「了解です。では、魔導師として私への任務はありますか?」
「ええっと……総監部に一緒に来ていただけると。そこで詳細を説明しますので」
ここは『二織の魔法使い見習い』である小笠原1尉にも同行して頂きます。
そしてすぐに魔法の箒に飛び乗って防衛省統合幕僚監部に向かい、鷹木陸将への面会を取り付けました。
――統合幕僚監部・統合幕僚長室
「ご苦労さま。如月3曹は、現在の状況についての報告を受けていますか?」
「迷宮から反乱が発生したことについて以外は伺っていません」
「そうですね。では改めて、詳細を説明します」
ということで、現在の迷宮発生ポイントについての詳細な説明を伺いました。
・北部方面隊が要請を受けて出動済み
北海道【神居古潭迷宮】
【大雪山系トムラウジ迷宮Ⅱ】(迷宮跡に新迷宮が構築)
【函館五稜郭大空洞】
【釧路湿原迷宮】(オープンフィールド型)
・東北方面隊が要請を受けて出動済み
青森【十和田湖畔迷宮】(オープンフィールド型)
・東部方面隊が要請を受けて出動済み
東京【日原鍾乳洞迷宮】
長野【黒岩山麓迷宮】
・中部方面隊が要請を受けて出動済み
高知【唐船島隆起海岸海底迷宮】(海底洞窟)
広島【押ケ峠迷宮】
「……最悪を通り越して、いつ日本が消滅してもおかしくない状況です」
「ええ、まったくその通りです。現在は、習志野駐屯地第1空挺団魔導編隊および闘気修練隊員を各地域に派遣し、迷宮から外に出てくる魔物の討伐を行っている所ですが……状況は芳しくありません」
「はい。戦力不足は否めません。よって、私の保有する魔導兵装を各方面隊に放出、及び私と小笠原1尉による『通常兵装の魔導具化』を具申します」
「……ふむ。それはどの程度で可能ですか?」
そう問われたので、アイテムボックスに納めてある魔導兵装、つまりマジックウェポンを確認。
私は魔導師なので、近接兵装や遠距離兵装は所持していますけれど、趣味の範囲。
むしろ、『魔導具化の法印』という魔法陣を作る魔導具を大量に作り、各方面隊に配布して使った方がよっぽと実務的です。
これなら小笠原1尉でも作れるので、二人で手分けして製作した方がよっぽど早いかと思います。
その後私もスティーブのように単騎で迷宮攻略に突入するだけですから。
という事を淡々と説明しますと、畠山陸将が軽く頷いて。
「では、小笠原1尉と如月3曹は、ただちに『魔導具化の法印』の製作を開始してください。それが完成次第、各方面隊に順次実装します。取り扱いについては、闘気修練隊員でも可能ですか?」
「はい、闘気修練隊員で使えるように作成しますし、取り扱い説明書も合わせて用意します」
「よろしい。では、直ちに作戦を開始してください。作戦コードは『魔導具実装作戦』とし、全体にいきわたった時点で、如月3曹は迷宮攻略に向かうよう。その際は、すべての魔術の使用を許可します」
「「了解です!!」」
さあ、鷹木陸将の許可も貰ったので、一旦富士駐屯地に戻り、魔導具を作成するとしましょう。
そして超高速で富士駐屯地に戻ってきてから、小笠原1尉に一冊の魔導書を手渡します。
「如月3曹、嫌な予感しかしないのですが」
「はい、小笠原1尉にはこれより『錬金術の書』と契約を行って貰います。これが成功すれば『三織の魔法使い』となり、一人前の魔法使いとしての活動が許可されます。ええ、判っていますね、私には時期尚早といいたいのですよわね、でも今は一人でも多く錬金術師が必要なのです」
「判りました、もう覚悟は決めました……」
「では、契約の儀式開始します」
――ブゥン
事務室の中、ちょっと広い談話スペースに魔法陣を展開します。
その中に小笠原1尉と錬金術の書を置き、私が儀式を開始。
「七織の魔導師が許諾します。我が弟子である小笠原祥子に、【錬金術の書】を授け、叡智を継承したまえ……っていうか、とっとと契約して!!」
――パラパラパラパラッ
私の魔力に呼応して、【錬金術の書】が自動的に捲られ、光り輝きます。
「小笠原1尉、魔導書を手に取ってください。そして宣誓を」
「はい……我が名は小笠原祥子……錬金術の書よ、我が力となり、我が魂の護符と結びつき給え……ってうぇぇ」
――スッ
なんということでしょう。
宣誓中にも関わらず、錬金術の書が小笠原1尉の胸元にスッと吸い込まれていきます。
そして10分後に、同じ場所から錬金術の書が排出されたかと思うと、それは私の手元に帰ってきました。これで儀式は完了です。
契約が成されているのなら、この魔導書を通じて小笠原1尉の魂に内容が転写されたことになるので、小笠原1尉は自身の魔導書として【錬金術の書】を召喚する事が出来ます。
「小笠原1尉、魔導書の召喚を」
「錬金術の書よ、我が名、小笠原祥子により召喚されたまえ」
――シュンッ
はい、小笠原1尉の詠唱と同時に、手元に【錬金術の書】が生み出されました。
「はいっ、これで無事に、小笠原1尉は【三織の魔法使い】に昇格です。では、私から『魔法使いの杖』を差し上げましょう。これは師匠から弟子へと受け渡される見習い卒業証書ですので」
「あら、随分と大きな杖で……ああ、なるほど、大きさは自由に変更できるのですね」
「はい、それと『魔法使いのローブ』と『知識の帽子』『アイテム鞄』も渡します。これで後は自己鍛錬ですので……訓練用の杖は返してください」
「はい、ありがとうございました」
これで晴れて見習いは卒業。
私は次の弟子を取れるようになりました。
なお、小笠原1尉が魔法使いとしての実績を納め、さらなる昇華を求めてきたら、私が審査をして【四織の魔法使い】の審査を行う事が出来ます。
「それじゃあ、さっそく始めましょうか。錬金術の書125ページ、『物質の魔導具化』『魔導法印』の実践を開始します」
「ふぁ、い、いきなり難易度が高いものを……ってあら、これ、判りますね」
「はい。それが三織の魔法使いです。今までよりも高難易度の魔法も使えますが……小笠原1尉は、攻撃魔法の適性が無いのですよねぇ……まあ、今は一つでも多くの魔導具を作る事に注力しましょう」
次々と私のアイテムボックスから素材を取り出し、二人がかりで法印を製作。
さあ、ここからは時間との勝負です、そして今だ謎のベールに隠されているアジア圏諸外国のみなさん、自国が消滅したくなければ、とっとと国際異邦人機関を通じて救援要請を行ってくださいね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





