Breakout(はい、もうそっちにお任せしますよ、好きにしてください)
富士演習迷宮とハンセン訓練迷宮が稼働して一か月。
この二つの迷宮については、国内でも様々な噂が後を絶ちません。
というのも、『迷宮で訓練する事により魔術や闘気が身に付く』という事と、『魔物を討伐して資材や宝箱を回収出来る』という話が流れている為、民間でも迷宮に入らせろ、魔法を覚えたいという問い合わせが防衛省に殺到してしまったそうです。
もっとも、そういった事については公式ホームページで事細かく説明をする事で、ある程度の誤解は回避したのですが。不思議なことに自衛官になろうという人が殺到したとかで。
自衛隊に入隊しても、すぐに迷宮には入れないんですけれどねぇ。
最低でも、【野戦特科】【機甲科偵察部隊】といった特殊な部隊でなくては富士演習迷宮を使うことは許されていません。つまり、自衛隊員になったからといって、すぐに迷宮に入れる訳ではありません。
また、回収した資材・資源については第1空挺団魔導編隊預かりとなり、私が主導で魔導具を作成する為に使うことになっています。
尚、宝箱はたまに出るように設定していますが、それについては回収した部隊の拾得物として処理され、3ヶ月後にはその部隊のものとなるように調整しておきました。
ええ、これはボーナスですよ、これぐらいのバックがなければ魔物相手になんて戦える訳ないじゃないですか。正面から命のやり取りをする、実践そのものの演習です。
このやり方については、野党が迷宮管理特別委員会を巻き込んで猛反発。
演習迷宮での実践訓練は憲法違反である、戦闘力を持ってはいけないという日本国憲法を違反している為、速攻で自衛隊は解体し、迷宮は国が管理すべきである……といった具合に。
まあ、それについては、『自衛隊とは、日本の平和と独立を守り、国の安全を保つことを主な任務とする防衛組織である』という信念のもと、外野の言葉は聞かなかった事にして訓練を続けています。
だって、もうやばい所もあるのですからね。
迷宮の活性化については、世界各地のマナラインから魔力が噴き出している場所(レイライン、龍穴など)で活性を開始している可能性だってあるのですから。
さて、話を戻しますが、富士演習迷宮では第一空挺団だけでなく、特殊作戦群や特別警備隊といった特殊部隊も訓練に参加。それなりの成果を上げ始めています。
特に特殊作戦群は闘気修練も行っている為、第三層までの制圧を終了。
第四層へと向かう中ボス部屋の攻略を開始しているものの、そこで魔術攻撃に晒されて撤退。
現在は対魔術戦略の訓練に力を注いでいます。
ちなみに我らが第1空挺団は第五層で足止め状態、死者こそ出ていないものの重軽症者多数という事態に陥り、中ボスであるレッサードラゴン(陸竜系)相手に撤退を余儀なくされました。
そりゃあ、レッサードラゴン相手なら、もっと戦略も考える必要がありますよねぇ。
ちなみにハンセン訓練迷宮についてですが、スティーブの話ではネイビーシールズがやはり第五層まで到着したものの、そこではフィールドエリアが広がっていたそうで。海洋系ダンジョンの広さとそこに棲息するレッサードラゴン(海竜系)に撤退を余儀なくされそうになったとか。
それでも死者は0という、生還については満点というスコアを叩き出したそうですが。
現在は同じネイビーシールズでも別部隊が突入し、攻略作戦を続行中との事です。
ちなみにスマングルからの定期連絡では、南米と北欧付近のマナラインが活性化を開始、ゆっくりとですがダンジョンコアが定着しつつあるそうで。
そちらはヨハンナのマルタ騎士団と、アメリカ海兵隊が担当する事で話は進んでいます。
――富士演習迷宮・魔導編隊詰所
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、もう事務作業なんていやだぁぁぁぁ。迷宮に入りたいよぉ、ダンジョンコアを回収して、また別のダンジョンコアを設置したいよぉぉぉぉ」
連日の事務作業。
ええ、魔導編隊の事務については私と小笠原1尉が主導で動かなくてはなりません。
というのも、富士演習迷宮での訓練希望者が多く、最近は予備自衛官で迷宮訓練を希望する方もいらっしゃいまして。まあ、迷宮に入ってひと稼ぎと思っているようなのですが、そんな簡単に迷宮に入る許可なんて出せる筈がありません。
「はいはい。それはもう聞きましたので、今日の仕事を頑張ってください。こちらが、現時点での『日本国内における迷宮らしき存在』の一覧です。これらの中から問題となりそうな部分をピックアップし、現地調査をよろしくおねがいしますと、統合幕僚長からの通達です」
「鷹木陸将ぅぅぅぅぅ、もっと手加減してくださいよぉぉぉ」
「それは無理じゃないかしら? 現状、日本国内の魔術行使者は『七織の魔導師』である如月3曹と、『二織の魔法使い見習い』の私だけなのですから」
そうなんですよぉ。
無事に小笠原1尉は魔導書契約を行ったので、現在は二織の魔法使い見習いなのですよ。
ちなみに契約した魔導書は『生活魔術』『一般魔術』という、実にスタンダードでオーソドックスな、普通の魔法使いへの道を進んでいます。
というのも、これ以外の【元素魔術】【暗黒魔術】【死霊魔術】【時空魔術】【錬金術】【精霊魔術】【神聖魔術】については、次の三織から修得した方が、伸びが良くなるのですよ。
もっとも、【精霊魔術】についてはスマングルから、【神聖魔術】についてはヨハンナから承認を受けなくてはならないので、今はそれ以外の五織から契約を行わなくてはなりません。
だって、私じゃ無理なんですよ、その二つについてはマスター資格を所有していませんし、そもそも魔導書と契約していないのですから。
魔導書は持っていますよ、でも小笠原1尉は私の弟子なので、私の修得している魔術としか契約できません。それ以外との契約については、先程の説明の通りという事で。
「はぁ。そろそろ弟子をもう一人増やして、事務を任せてもいいかなぁと思いますよ」
「そこまで魔力値が高い自衛隊員って、今の所皆無なのでしょう?」
「魔導編隊は闘気修練者達ばかりですからねぇ。今、迷宮に入って訓練をしている自衛官から見繕ってもいいのですけれど……どうしても適性が闘気に偏ってしまうのですよ。戦闘向けですからねぇ」
「それじゃあ、今暫くは我慢ね。という事で、ここの調査をお願いします」
そう告げて渡された書類。
調査場所は『鳴沢氷穴』、山梨県南都留郡鳴沢村に立地する溶岩洞で、ここ最近になって、この鳴沢氷結付近で謎の行方不明が相次いでいるとか。
獣のような足跡が付近に散乱しているため、当初は熊の被害でもという噂があったので調査を行う事になりました。
そもそも鳴沢氷穴のある場所は青木ヶ原樹海の東。
広大な森林の中にひっそりと存在している為、ツキノワグマの繁殖期には注意が必要でして。
後2ケ月もすれば山野でツキノワグマと遭遇する可能性もあり、たまたま季節外れに姿を現わした熊による被害ではないかという話が出ているそうで。
「では、如月3曹、これより山梨県の鳴沢氷穴付近の調査に向かいます」
「よろしくお願いします」
という事で一型魔導兵装(鍔広帽子、魔導スーツ、ローブ、発動仗)を装着し、魔法の箒一号機『クーペリア』に搭乗して移動開始。
目的地は、鳴沢氷穴入口、そこで現地の自衛官と合流し、周辺調査を行う事になっていますので。
まあ、山梨県の自衛隊ということは【北富士駐屯地】、つまり精鋭無比の東部方面特科連隊が待っているということ。
何かあっても大丈夫でしょう、万が一迷宮の兆候があったとしても、私が対処すればいいだけですから。
さあ、ツキノワクマでも、ゴブリンでもかかってきなさい。
………
……
…
――山梨県・鳴沢氷穴付近
鳴沢氷穴入り口付近、管理している建物と氷穴に入るための受付などがあり、小さいながらも駐車場もあります。
すでに連絡を受けていた東部方面隊特科連隊の部隊が、96式双輪装甲車二台で待機しています。
その姿を見て一気に降下を開始、部隊長に挨拶しようと思っていましたら。
「……また自衛隊員かと思ったら、如月3曹か」
「げえっ、五ノ井議員。どうしてあなたが此処にいるのですか」
まさかとは思いましたが。
衆議院迷宮対策特別委員会の委員長である五井和利議員が、他の議員数名と共に部隊長らしき方と話をしている真っ最中。
そして部隊長が私に気が付き、こちらにやってきました。
「ご苦労様です。今回の鳴沢氷穴付近の調査任務を仰せつかっています、東部方面隊特科連隊の逸見義則1等陸尉です。以下、特科連隊より派遣されて来た24名がこちらで任務を開始しますが……」
「はっ、第1空挺団魔導編隊第一分隊長補佐を務めます、如月3等陸曹です。よろしくお願いします。では、さっそく調査を開始しましょう」
「待ち給え……ここは迷宮管理特別委員会の管理下で調査を行っている所だ。自衛隊の干渉する事ではない。君たちは、この周辺で確認されている熊の調査でもしていたまえ」
ああ、五ノ井議員が何か呟いています。
よく見ると、鳴沢氷穴の入り口周辺は封鎖されていますし、関係者以外立ち入り禁止っていう看板も下がっていますよ。
つまりは、そういうことなのでしょう。
「五ノ井議員……鳴沢氷穴に迷宮の予兆があったのですね」
「それを君たちに教える義務はない。私は、山梨県知事から直接連絡を受けて、ここに来ているのだ。迷宮管理特別委員会として、正式に依頼を受けてね」
つまりは、ここが迷宮の可能性があると考えた山梨県知事が、迷宮から回収できる資源を目的に、迷宮管理特別委員会に調査を依頼したと。
そして私達自衛隊は迷宮を確認した時点で廃棄処分するので、調査をさせないと。
「ふぅん……では、そちらはそちらの管轄でよろしくお願いします。私どもは、自衛隊としての任務を行いますので。逸見1尉、周辺の森の調査を開始しましょう。鳴沢氷穴の内部については、彼らに好き勝手やらせておいても大丈夫です。そもそも鳴沢氷穴は天然記念物指定されているので、迷宮だったとしても迷宮管理特別委員会は手を出すことも出来ませんので」
「ああ、そういうことか。では作戦を開始する。各部隊ごとに分かれて、指定された区画の調査を開始する……」
さて、特科連隊のみなさんについては逸見1尉にお任せしましょう。
私は、この場で戦闘聖域を展開し、マジックアイで鳴沢氷穴の内部調査でも開始しますか。
マジックアイを透明化させておけば、五ノ井議員にも見つかる事はありませんからね。
それに、さっきの会話については、実はこっそりと録音してありますので。
ま、あれだけの啖呵を切ったのです、後は自己責任という事で処理して頂きましょう。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





