House of the Rising Sun(まずは、日本とアメリカに迷宮を作りました)
なんだかんだと、国際異邦人機関の沢渡さんも巻き込んでの話し合いは無事に終了。チーム異邦人4名の総意により、私たちは地球在住の闘気使い・魔法使いの育成を開始する事にしました。
政府機関への提出書類については沢渡さんが主導となり、アメリカとナイジェリアの国際異邦人は官と連携を取って共通の書面を作製。
スティーブは一旦沖縄の海兵隊キャンプに戻り、上層部とのすり合わせをする事になりまして。
翌日にはヨハンナはバチカン市国へと向かい、ローマ教皇との謁見が行われるとか。
スマングルはフレンドリー招喚を使ってナイジェリアに戻った後、あちらの異邦人機関責任者と共に大統領と謁見をする事が決まったそうで。
こうして次々と話が進みまして、いよいよ私のターンという事で。
本日は北部方面隊指令である畠山陸将との会談……というか進言に向かった次第でして。
すでに必要な書類は沢渡さんに作って貰ったので、あとは私自ら説明をするだけという事でしたが。
――札幌駐屯地・総監部総監室
「……なるほどなぁ。新宿大空洞、ナイジェリア迷宮、そしてフランス迷宮で起きていた一連の事件の陰に魔族が存在しているというのは、以前の報告書で確認されている。だが、諸外国は魔族の存在については、おおむね危険視していない部分がある。というのも、被害を受けた当該国以外は、静観もしくは魔族と接触し、彼らの持つ魔術などの知識を得るべく情報収集を行っている」
「はい。それらについても報告は受けています。その上で、今すぐに対策を行わない場合、私達異邦人は国際異邦人機関の条例に基づき、地球規模での救助活動を停止するという事も、国連に提出されている筈です」
これは沢渡さんのアイデア。
対魔族シフトを組み、地球全域で魔族対策を行わない場合、異邦人による救助は行わないと。
これは異邦人に与えられている権利であり、いつでもそれを振るうことが出来るというもの。
但し、この権利を行使する場合、最低でも3/4の異邦人の承諾が必要なのですが、今回は私達4人全員の総意という事で決議しました。
「それでも、同意しない国家は存在するだろう。それ程までに、魔術や闘気、精霊の恩恵、迷宮から入手できる資源の魅力は何者にも代えがたい……と、それぞれの国は思っているだろうねぇ」
「まあ、そういうことでしたら、私達は手を差し伸べることはありません。国際異邦人機関権利保護条約に基づき、私たちは国際機関の一員としての活動を開始し、それらの国家など放置しておきます」
「……日本人であり、陸上自衛隊第1空挺団員ではなく、国際異邦人機関の隊員として活動する事も辞さないという事か。その場合、日本はどういう態度を示すだろうねぇ……」
「そうですね。私の全ての権利を剥奪すると脅しかけて来て、私がアメリカに亡命するだけでしょうねぇ……もしくは、全て諦めて私の指示に従うか。二択かと思われます」
ビシッと言い切りました。
ええ、畠山陸将がすっごく楽しそうなので。
「では、後者の線で進めるとして。対策は?」
「トムラウジ迷宮にて回収したダンジョンコア、これを使用して日本の自衛隊員に闘気・魔術修練を実戦形式で行います。短期間になる可能性もありますが、迷宮内での訓練は自動的に体内保有魔力を活性化し、魔法適性を引き上げる事が出来るかと思います。これは、私が異世界アルムフレイアで実践したので、間違いはありません。尚、今回の件で、私はアメリカ海兵隊に迷宮を一つ提供する事が決定しています」
これも、国際異邦人機関を通じての正式な取り決め。
一度でもやってしまうと後々が面倒なので、本当は使いたくはなかったのですけれどね。
一番面倒くさいのが日本政府なので、まずは訓練迷宮の設営についてここにねじ込む必要があるので。
なお、自衛隊統合幕僚監部のトップ、つまり統合幕僚長には以前、それらしい話を振ってありますので自衛隊としてはほぼ総意の上で認可が下りるのは間違いはないと。
「では、この書類一式を習志野駐屯地の第1空挺団団長、近藤陸将補まで届けるよう……」
――ダン!
書類に畠山陸将の判が押されました。
これで所属する方面総監の認可は受けました。
次は第1空挺団部隊長の認可を受けたのち、統合幕僚長の判を貰うだけ。
そして防衛大臣に書類を提出した後、総理大臣の認可を受けて完了……って、長すぎるわぁぁぁぁ。
〇 〇 〇 〇 〇
――二日後・東富士演習場
「……」
沈黙。
先日、一昨日の二日を掛けて、私は近藤陸将補と陸上自衛隊幕僚長である鷹木陸将、防衛大臣の小野寺和正議員からの承認を受けた後、国防のトップである浅生志郎総理大臣に認可も受けました。
ええ、初めて見ましたよ、総理大臣による超法規的措置の発令を。
それであっさりと、静岡県御殿場市の東富士演習場に日本国防衛庁管轄の『訓練迷宮』が設営される運びとなりました。
その地鎮祭が現在執り行われ、これが終わり次第、私が迷宮核であるダンジョンコアを設置。一瞬で訓練用迷宮を起動させる運びとなっています。
「それでは、如月弥生三等陸曹、前へ」
「はっ!!」
鷹木陸将の声で私は前に出ます。
そして迷宮の入り口となる場所に立ち、アイテムボックスから迷宮核を取り出します。
「日本国は守りの要。使う迷宮核は、『地の迷宮帝』。それではトラペスティに請願します……力の開放、地の迷宮帝を開放し、かの地に迷宮を作り出したまえ。そして地の迷宮帝に請願します。我が名は如月弥生、我がダンジョンマスターとなり、かの迷宮を支配するものなり……ダンジョンコアよ、四界の支配者たるトラペスティの名に於いて、今、ここに顕現せよ」
多重詠唱からの、トラペスティの力の開放。
地面に置いた迷宮核が光り輝き、やがて地面がゆっくりと隆起を開始。
10分ほどで巨大な丘陵と、その麓に広がる自然洞の入口が作り出されました。
「以上で、迷宮の設置を完了します。管理者は私、如月弥生が担当、この迷宮は『富士演習迷宮』という名前で解放されました。以後の使用につきましては、統合幕僚長並びに統合幕僚監部、第1空挺団による管理・運営が行われます……以上を持ちまして、迷宮の設置を完了します」
――パチパチパチパチ
地鎮祭および迷宮設置の儀式に参加していた自衛隊所幹部・政府関係者・防衛庁幹部が拍手しています。
その後方で待機していた報道陣も一斉にカメラを回したのち、この後行われる記者会見のために移動を開始。
そしてそれらの中で唯一、ムスッとした表情で拍手をしている迷宮管理特別委員会の議員たち。
ええ、一言言わせてもらうならば『ざまあみろ』です。
これで以後、私に対して無理強いをする事も出来なくなりましたからね。
………
……
…
――一週間後
富士演習迷宮入口はコンクリートによってがっちりと固められ、巨大なゲートまで設置されました。
また、周辺には簡易的ではありますが管理事務所並びに迷宮管理基地の建設も開始。
すっかり迷宮を中心とした基地施設が作られ始めました。
私は第1空挺団からの派遣という事で、この富士演習迷宮施設に専用の事務室が貸与されています。
「……はぁ。やっぱりこうなるわよねぇ」
「はは、小笠原1尉、ここは諦めてください。今回の件で、私も来年度は正式に2尉に昇格が決まってしまいましたので」
ええ、自衛隊規約における、『環境整備並びに訓練についての技術供与』ということで、正式に2尉への昇進が決定しましたよ、ちくせう。
陸曹教育隊での訓練で手を抜けばよかったですよ、真剣に取り組んだ結果、1選抜でしたよ。
ええ、最低人気まで削られましたよ、またしてもやられましたよ。異邦人特選(異邦人における幹部候補生特別選抜)で期間短縮までされましたよ。
同期の大越3曹よりも早い昇任でした、まる。
「まあ、私としては、堂々と魔術訓練が出来るので、それはそれで構いませんけれどね」
「はい、課業の中に、正式に魔術訓練が組み込まれましたので。堂々と出来ますよ。彼らのように」
窓の外では、第1空挺団魔導編隊総勢12名が、課業の真っただ中。
毎日、迷宮に赴いては『迷宮攻略』という実戦形式での戦闘訓練を行っていますから。
ほんと、ここに来てメキメキと実力が上がっています。
私はほら、緊急時対応以外は『魔導幹部候補生』育成という名目で、小笠原1尉の魔術訓練を行っていますので。
後は、そろそろ潜在魔力が魔法使い適性値まで届きそうな隊員がいますので、彼ら相手に初歩訓練を始めなくてはなりません。
「確かに、私も札幌で話を聞いていた時は耳を疑っていましたけれど、こうして実践訓練を見ていると本当に凄いなぁと実感していますからね」
「そろそろ『二織の魔法使い見習い』に昇格する時期かもしれませんが、どうしますか?」
「そうね、沖縄から戻ってきたら、契約の儀式をお願いします」
「了解です。では、先に沖縄の海兵隊キャンプでのスケジュールの調整を行います」
「よろしく」
ということで、翌日から私は沖縄のキャンプ・シュワブに出向です。
ほんと、これさえ終われば、後は楽が出来る……と思いたいですよ。
スマングルからの定期連絡では、まだ地球内部のマナラインの活性について、活性化の兆候は見られているが暴走状態ではないということだそうで、引き続き監視を強化してくれる事となりました。
〇 〇 〇 〇 〇
――沖縄、キャンプ・ハンセン
日本国内の迷宮設営が完了したので、次はアメリカです。
ちなみに海兵隊員であるスティーブの進言を考慮し、さらに諸事情を鑑みた結果、アメリカ海兵隊用の訓練迷宮は沖縄のキャンプ・ハンセンに設営することとなりました。
これは、スティーブから聞いた話なのですが。
迷宮管理に際して、スティーブが管理責任者になるのは問題はありませんが、万が一のダンジョンスタンビートに対して、アメリカ本土では対処できない可能性を考慮し、沖縄のキャンプ・ハンセンに設置することが決定したそうで。
ちなみにこのキャンプ・ハンセンに設置されるハンセン訓練迷宮(通称マリンコ・ダンジョン)は、日本陸上自衛隊も使用許可が出ています。
どうして許可が出たのかというのは、高度な政治的取引があったそうで私にもわかりません、ええ、分かりませんとも。
『……しっかし、本当に仕事が早いなぁ』
「うっさい。とっととこの迷宮核に魔力と闘気を注ぎ込みなさい。ここの迷宮の管理責任者にはスティーブも登録するのですからね」
『ああ、任せてくれ……っと、これでいいか?』
――キィィィィィィィィィィィィィィィィィン
魔力と闘気の複合波長。
あいかわらず器用と言いますか、私とスマングル、ヨハンナの三人の能力を一人で操れる勇者だけの事はありますね。もうこいつ一人でいいんじゃないかなぁって、何度思わされた事か。
ただ、一般魔術適性があまりにも低いので、闘気と神聖魔術でどうにかねじ伏せているっていう事らしいですけれど、それでどうにか出来るのが凄いですよ。
「ほい、これでオッケーです。では、こいつを地面に設置して……」
やることは富士演習迷宮のときと同じ。
トラペスティの耳飾りの力を借りて活性化し、支配者権限を書き換えるだけ。
ちなみに、ここに設置したのは『水の迷宮公』、スティーブと相性のいい属性で決定しました。
――ゴゴゴゴゴゴゴ
はい、またしても丘陵……かと思いきや、湖が出現。
その中心に小さな島が出現し、そこにぽっかりと入口が開いています。
キャンプ・ハンセンにある公安局、その東にある森が湖に代わったのですから、それは驚くでしょうね。
しかもさらに東には金武ダム湖があったり、すぐ近くに沖縄自動車道があったりと、また近隣住民の非難が轟々と届きそうですが、私は関係ないのでパス。
「それじゃあ、後はよろしくお願いします」
『責任をもって管理する』
私とスティーブががっちりと握手。
これもアメリカの報道関係に生中継されているそうで、今頃アメリカ本土はお祭り騒ぎでしょう。
訓練用とはいえ、迷宮が一つ手に入ったのですから。
ちなみにそれぞれの迷宮から入手できる資源・素材について手はそれぞれの管轄に置いて管理・運用されます。
富士演習迷宮で回収された資源は全て、管理者である私のものですけれど、必要なもの以外は全て防衛庁に譲渡することになっています。
そしてハンセン訓練迷宮で得られた資源は全てアメリカのもの。
これはまあ、そういう事だそうですよ、高度な取引・その2だそうです。
そんな感じで無事に二つの迷宮が国家の管理・運用となったのですら、それはもう、あちこちうるさくなって来るのは当然ですよねぇ。





