Sympathy For The Devil(魔族相手に情けは無用。とことんまでやってあげますよ)
――ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
我が家の裏庭はとても広い。
どれぐらい広いかというと、普通にダンジョンの入り口を設置出来る程。
現在は、それっぽい石造りの門のような形のダンジョン入り口を設置し、その中に物置部屋を形成しています、ええ、違法建築でもなんでもありませんよ、入り口の石造りの門についてはご近所の造園業の方に依頼しましたので。
そこから続く地下室についても、しっかりと安全基準をクリアしていますので問題はありませんし、ダンジョン区画については異空間なので日本ではありません。
最近では、そこに私の錬金術用の研究室を設置し、様々な魔導具の作製……主にマギ・フォーミュラの開発を行っています。
――ジュゥゥゥゥゥゥ
「あ、スマングル、そっちのお肉、焼けているよ?」
『これはもう少し焼きたい。ヤヨイこそ、そんなに肉質が赤いのに大丈夫なのか?』
「ん~、牛タンは片面焼きでネギを一杯乗せて食べるのが好きなんですよ」
「ヤヨイちゃん、この空いている所でお野菜を追加していいかしら?」
『ヨハンナ待て、そこには俺が肉を乗せる予定だ!!』
はい、久しぶりの日曜日、つまり私の休みの日。
朝から我が家の裏庭で背は、異邦人による焼き肉パーティーが催されています。
正確には、つい先日のトムラウジ迷宮でのキスリーラとの話し合い、それについて異邦人の間で情報共有をしたいと思っていたのですけれど。
当初は念話のみで終わらせようかと思っていたのですが、ステーィブの提案で全員集まって話をしようということになったのです。
なお、スマングルは私がフレンドリー招喚でここに呼び込みました、スティーブは任務で沖縄の海兵隊キャンプ……えぇっと、沖縄県北中城村にあるキャンプ・バトラーに来ていたらしく、休暇を取って北海道に来ています。
なお、ヨハンナも東京の教会からわざわざ遊びに来てくれました。
「スティーブ、あなたの区画はここからここまで、こっちはヨハンナの場所って決めてあったでしょう!! 分かったら、とっととその牛カルビをどけなさい」
『待て、ここからここまでじゃなかったか? 男性と女性の食べる量をもう少し考慮してくれ』
「却下である!!」
焼き肉奉行をなめるなよぉ。
という感じで焼き肉を突きつつ、そろそろ本題に入ることにしますか。
「それで、さっきの話だけれど……夜魔キスリーラは私達と敵対する意思はないって。ただアルムフレイアに戻るために、召喚主であるわんこ魔王アンドレスを討伐して欲しいだけだってさ」
『……どこまで信用していいものか……ただ、ヤヨイから聞いたキスリーラの計画、この地球に迷宮を作り出し活性化させているという点については、ナイジェリアのダンジョンコアで確認が出来ている、以上だ』
「問題なのは……その迷宮対策よねぇ。スマングルさん、あなたのダンジョンコアで、迷宮の活性化を制御することは可能かしら?」
迷宮を制御する方法、もっとも簡単なのは一つ一つの迷宮を攻略し、ダンジョンコアを掌握すること。
ぶっちゃけるなら、この場の4人の内、ヨハンナ以外なら単独で上位迷宮の討伐は難しくはないはず。
そしてヨハンナの場合、中位迷宮および上位魔族系迷宮なら苦も無く討伐ができる。
問題なのは、それが同時に出現した場合。
あのキスリーラの事だから、魔王アンドレスに対して『私は頑張っているわよん』程度に気合を入れて迷宮を構築している筈。そうなると、さすがに私達四人だけでは手が足りなくなってしまうのは必至。
『非活性型迷宮なら、俺がナイジェリア迷宮から精霊を通じて制御することは可能。だが、あくまでも反乱を食い止める程度。活性型迷宮の場合は、直接干渉しない限りは不可能だ』
「スティーブ、アメリカ海軍のエース部隊って、迷宮攻略は可能?」
『そうだなぁ……デルタフォースが動かせるなら可能。ただ、それでも中位迷宮までだな。日本の第1空挺団ではどうなんだ?』
「う~ん、安心して送り出せる迷宮は下位迷宮ぐらいかなぁ……この前のトムラウジ迷宮でも、恐らくは犠牲者が出ただろうからなぁ……」
『そうなると、全体的な底上げが必要ということになるか』
う~ん。
やっぱり、そうなるかぁ。
でも、今から自衛隊員やアメリカ海兵隊員を対魔物戦の実践に導入するとなると、やっぱり人為的に迷宮を作り出すしかない。
以前、アルムフレイアの冒険者ギルドに依頼されて作った、『冒険者訓練用迷宮』、あのどぎついバージョンをこの日本とアメリカに構築しないとならないのかぁ。
「弥生ちゃん、訓練迷宮を作るのかしら?」
「それしかないような気がしてきたのですけれど……でも、許可が取れるかなぁ……場所の問題もあるし……いっそ、沖縄の米軍キャンプの敷地内にでも作ってみた方がいいかも」
『おそらくだが、アメリカ国防総省はすぐに許可を出すと思うぞ。それも、海兵空陸機動部隊(MAGTF・マグタフ)レベルでの実践訓練を開始できるとなれば、諸手を上げて許可が取れるだろうさ』
「う~ん、それもありかぁ。そして海兵隊基地で訓練迷宮を作るとなると、日本の防衛省も黙っていないだろうから同じものをもう一つ作ってしまえばいい。場所は……広くて万が一のときに大型火器をぶっ放せる場所……静岡県御殿場市の、東富士演習場が無難かぁ」
あそこなら毎年、富士総合火力演習が行われているので大丈夫でしょう。
問題は、キスリーラの話した魔族の侵攻について、どこまで説明すればいいか。
まあ、隠していても始まらないので、このあたりは防衛大臣と統合幕僚長に包み隠さず説明すればいいかぁ。
「それじゃあ、私の方からも打診をしてみますわね。地球の危機、異世界の魔物の侵攻が本格化すると説明すれば、きっと組織を動かしてくれるでしょうから」
「へ? ヨハンナの知り合いに、そんな部隊を所持している組織があるの?」
「あるわよ。とりあえずは、ローマ教皇にお伺いを立てる必要があるので、それからだとは思うけれど」
ローマ教皇にお伺いって。
あの、まさかとは思うけれど……。
『そうか……マルタ騎士団が、本来の任務のために活動を再開する、そういうことか』
「待って待って、そのマルタ騎士団ってさ、確か国際慈善活動を行う機関だよね? 国連のオブザーバーだよね?」
「ええ。でもね、異教徒との戦いという事になると、彼らはいつでも剣を構えるわ。今でもその訓練は密かに続けられているし、病院騎士としての力も保持しているのよ……それに、私自ら、彼らを祝福した事があるのよ?」
『現代の聖女の加護を受けた、聖なる騎士……それは心強い、以上だ』
うっそでしょ?
そんなの魔族ぶっころす騎士団待った無しじゃない。
うわぁ、だんだんと地球が物騒になって来るよぉ。
と嘆きたいところだけれど、そもそも魔王アンドレスが暗躍している時点で物騒な事この上ないので、今更だよなぁと諦めるしかないかぁ。
『それじゃあ、明日、俺は海兵隊基地で事の次第を報告する。ついでに国際異邦人機関にも全てを洗いざらい説明し、魔王アンドレス戦についての実態その他も暴露させてもらうか』
「ずっと、裏で暗躍してこっそりと収拾をつけたかったのですけれどねぇ。ちなみにスマングルは動けないわよね」
『俺はナイジェリア迷宮を使い、アフリカ方面の部隊の強化活動も並行して行う。最悪でもアフリカに出現する迷宮については、こっちで抑えられるようにする、以上だ』
『アメリカは海兵隊を基幹として活動を開始する。幸いなことに、この地球上のある程度の場所へは、海兵隊は直接向かうことができるのでね』
「ヨーロッパ圏については、バチカン市国とローマ教皇が主導で活動を開始出来るように進言しておきますわ」
「アジアは日本が主導……って……うはぁ、アジアっていう事は、一番利権がらみで面倒くさい場所じゃない。そんな所を私一人でどうにかしろっていうの? はいはいやりますよ」
どうせやりなさいって言われるのは分かっているから、ここは諦める事にします。
そして細かい打ち合わせを行いつつ、焼き肉パーティーは続いたのでした。
なお、午後一番で異邦人機関の沢渡さんが飛んで来たので、ついでに巻き込む事にしました。
ええ、私たちの午前中の話し合いの内容について事細かく説明しましたよ、明日の朝一番で国連本部に打診してくれる事になりましたよ。
こうなったらもうやるっきゃないですよぉ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





