Purple Haze(共闘? それとも同盟? どっちもあり得ないのですが)
トムラウシ迷宮中層を楽々突破して、いよいよ下層へ。
ええ、自然型迷宮ではなく、人工迷宮であるここには、当然ですが各階層ごとにボス部屋が設置されていましたよ。
ちなみにテーマというか、迷宮の系統は『亜人種・魔物系』でした。
加えて下級魔族であるレッサーデーモンまで徘徊していました。
ちなみにですが、レッサーデーモンは魔族によって使役されている事もありまして、野良レッサーデーモンが単独で出現する確率はほんの僅か。
彼らは知性を持ち、文化や風習を尊ぶ種族ですが、『奉仕種族』と呼ばれている通り、上位悪魔族によって使役されている、つまり契約隷属を行っている者が大半なのです。
ええ、魂レベルでの契約隷属ゆえ、いくら代を重ねたとしても悪魔族に反抗する事は出来ません。
ちなみにですが、魔族と悪魔族は違います、似て異なるものですよ。
魔族は『魔力を糧とし、力とし、魂とする亜人種』でありまして。
悪魔族は『堕天した神の作りし存在、堕ちた御使い』なのです。
どっちが怖いかですって? 悪魔に決まっているじゃないですか。
だからこそ、種族的には魔族ではなく悪魔族に準じている夜魔キスリーラは強敵なのですよ。
「……さて、下層最初のお客さんは……やっぱり来ましたか」
これまでとは通路の幅・高さが全く異なっている下層。
幅は大体20メートル、高さは30メートルはあります。
その回廊の向こうから姿を現わしたのは、全身に炎を纏っている亜人。
火の悪魔とも呼ばれていますが悪魔じゃない。
そんな存在……ええ、固有名詞はないのですよ、敢えて言うなら炎の亜人。
それが、手に巨大な剣を構え、ゆっくりと近づいてきます。
「これが神話の世界でしたら、『出たなムスペッル』とでも叫んでいたのでしょうけれど」
右手に構えた杖を伸ばし、さらに魔力により刃を形成します。
確殺の刃のような長巻スタイルではなく、こちらは薙刀スタイル。
「七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の翼を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力二万五千を献上します……滅殺の刃っっっっ」
――シュンッ
これぞ、確殺の刃の術式を大幅に改良した、廉価版・確殺の刃です。
利点は一度斬りつけても刃が消えないこと、威力は確殺程ではありませんが、対象者の魂をゆっくりと削ぎ落していくという効果があります。
まあ、全て削いだら確殺なのですが、そこまでの持続力は……まだ開発段階なのでなんとも。
そして私が滅殺の刃を構えたのと同時に、炎の亜人も剣を肩に担いで走ってきました……。
え、なんですかその構えは、薩摩武士ですか?
――ガギィィィィィィィィン
炎の亜神と私の滅殺の刃が、音を立ててぶち当たります。
ですが、私の一撃で炎の亜人の剣は真っ二つに切断。
まさかの事態に炎の亜人が驚いているようですが、その隙を見逃すほど私は甘くありませんからね。
――ズバァァァァァァァァァァァァッ
そのまま動揺している炎の亜人めがけて、滅殺の刃を横一閃。
胴体と下半身を分断し、そのまま消滅させました。
「……魔人核を一撃で破壊できましたか。運が良かったですよ……と、急がなくては」
滅殺の刃を消し、ふたたび魔法の箒に飛び乗って先を進みます。
途中途中で見える魔物には遠距離からの雷撃波を飛ばして迎撃。
そののち魔人核や魔石を回収し、さらに先に進みます。
そうして次々とボス部屋を制圧し、いよいよ最下層に到着。
ええ、何もない空間、その中心に直径1mほどの、ダイヤモンド型のダンジョンコアが浮いています。
そしてその横に、ロッキングチェア―を広げワイン片手に寛いでいる夜魔キスリーラの姿がありました。
「……はぁ、最悪」
『あのねぇ、ハニーちゃん。いきなり人の顔を見て、最悪っていうのはないと思うわよぉ♡ ここにいたのが私じゃなく、ヤンとかリビングテイラーだったら、問答無用で戦闘になっていたと思わない?』
「まあ、そうですよね。それで、一つ教えてください。ここで、何を企んでいるのですか?」
もう、諦めました。
実力行使でいえば、他の四天王はまだごり押しでいけたかもしれませんが。
相手がキスリーラなら、私の魔術は全て中和されてしまいます。
つまり、敗北確定。
闘気を使って迎撃は可能ですけれど、私のはなんちゃって闘気ですから対処されるに決まって……。
「ってキスリーラ、貴方、このまえ私が放った確殺の刃、わざと受け止めたでしょう!! 普通に考えたら、中和能力を持っている貴方があれで倒されるはずがないわよね!!」
『わぁ、すっごーい。よくできましたぁ』
にこやかに笑いつつ、手をパチパチと叩いているキスリーラ。
本当、ここから帰りたいです。
任務じゃなかったら、とっくに帰っていましたよ、ええ。
「……それで、ここで私を待っていたっていうことは、決着をつけるっていう事なの?」
『まっさかぁ。ここは私の作った迷宮の一つ。つまり、何人たりとも干渉することはできないわ。あの魔王アンドレスでさえ、私が作った迷宮の中を覗くことはできないのよ……ということで、ここからは、私と貴方だけの秘密』
「秘密……ねぇ。それで、私に何を聞きたいのかしら? いえ、何をさせたいの?」
そう問いかけると、キスリーラが立ち上がってダンジョンコアにそっと触れる。
『私はね……アルムフレイアに帰りたいのよ。ここは危険なの、アンドレスちゃんが魔界へのパスを偶然ですけれど繋いでしまったの。いずれは、この地に魔界の襲撃があるかもしれないわ……だから、こんな危ない所から、とっとと帰りたいのよ』
「それじゃあ、帰ればいいじゃない」
『それが出来ないのよねぇ。私は、アンドレスちゃんに召喚されたから、勝手に帰ることはできないのよ……っていうか、帰るための道を作れないの。それが出来れば、とっとと先に帰って、アルムフレイアでのんびりおかしく生きたいのですから』
淡々と呟いているけれど。
え、魔界とパスが繋がったっていいました?
それってあれですよね、普通の住人たちが魔王の1000倍も強い世界ですよね?
そんなところのパスが開いたとしたら、地球なんて一瞬で消滅しませんか?
「魔界の襲撃って……いつ頃、発生するの?」
『さぁ? 少なくとも、1000年ぐらい先じゃないかしら? そもそも襲撃してくる理由がないので、来る筈もないけれど?』
「でも、貴方はここから逃げたい……魔界が繋がるから……ってそうか、貴方自身は夜魔で、不老不死だからですか」
『そうよぉ。1000年なんて、昼寝していたらすぐなんだから。ということで、ハニーちゃんにお願い。アンドレスちゃんを殺して♡』
はぁ。
何でしょうねぇ、この、男性に媚びるような言い方は。
今は抵抗強化しているので効果はありませんけれど、あまり長時間、ここにいると危険です。
ぶっちゃけますと、このキスリーラの身体から常時発している淫靡な魔力、これを吸い込むのではなくその身に受けているだけで発情案件ですからね。
薄い本がさらに薄くなるって、兄貴なら笑っているでしょう、ええ。
「ちなみにだけど、私がアンドレスを殺したら、貴方は帰ることができるの?」
『召喚主が死ぬので、契約は不履行になるわよん。ということで、アンドレスちゃんを殺してくれるのなら、いい事を教えてあげる』
「まあ……元々倒す予定だったので、それは別に構わないけれど……いい事ってなに?」
『あのね……私、この地球の全域に、迷宮作っちゃった(てへ♡)』
「……はぁ?」
てへ、じゃないわよ。
なによその、迷宮作っちゃいましたって。
それも地球全域ですって? 一つ一つ順番に潰すだけじゃ対処が間に合わないじゃないですか。
『ほらぁ、フランスのコンピエーニュ迷宮があったでしょ? あの地下でね、ダンジョンコアを栽培していたのよ。それで全て収穫したので、この星のマナラインに流してあげちゃったの。そろそろ世界各地で迷宮が活性化すると思うわ。ちなみに一番最初に活性化したのは、こ・こ』
「な、な、な、なんて事するのですかぁぁぁぁ、いくらあなたが悪魔の眷属だからと言って、やっていい事と悪いことがあるでしょう?」
『でも、私の計画のおかげで、他の四天王は別の事に夢中で動けなくなっているのよ。だから、今がチャンス。ちなみにだけれど、魔王アンドレスの居城は、この世界のどこかの位相空間にあるわよ、もう城塞も都市も作ってあるんだから』
「……はぁ、やる事が多すぎて、どうしていいか分からないわよ……。それで、貴方はその情報を私に寄越して、これからどうするのかしら?」
そう問いかけると、ちょっと困った顔をしてから一言。
『イタリアっていう国で、男漁りかしら? そろそろ精気を補充したいのよ……だから、私はしばらくは何もしないわ、だから頑張ってね……迷宮は全部で100個あるから』
「と、とっととイタリアでも何処へでも行ってしまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
そう叫ぶと、キスリーラがポヒュッと消滅した。
だから急ぎ、トラペスティの耳飾りを装着し、ダンジョンコアの支配権を書き換える事にしましょう。
「それではトラペスティに請願します……力の継承、光を四筋。全ての支配権は私に、そして並列思考による疑似人格を形成してください。ダンジョンコアよ、四界の支配者たるトラペスティの名に於いて、その形を変え、四つの核へと姿を変えよ……」
――キィィィィィィィィィィィン
私が詠唱を終えると同時に、ダイヤモンド型のダンジョンコアは4つの小結晶体へと姿を変えました。
一つは『水の迷宮公』
一つは『火の迷宮姫』
一つは『地の迷宮帝』
一つは『風の迷宮卿』
合計四つの、疑似人格を有するダンジョンコアを生み出すことに成功したのです。
『して弥生よ……4つの疑似人格、何を企んでいる?』
「いやいや、なにも企んでいませんよ。流石に世界中に迷宮が出来上がったというのでしたら、私一人では対処不可能でしょ? それにスティーブ達の手を借りても、どうしようもなく人手が足りないっていうのはトラペスティさんでも理解できるよね?」
『それは……確かに』
「だから、いっそ自衛官の魔力を底上げする為の迷宮を作って、そこで実地訓練して貰おうかなぁと」
そう、アルムフレイアでやったことがある、『冒険者ギルド訓練場迷宮』、それをこの地球でも作るっていう事。
ちなみに管理権限は全て私が保持しているので、あのうさん臭い迷宮管理特別委員会が出しゃばって来たとしても、何もさせる気はありません。
それに、もしも無理やりにでも法律を捻じ曲げて迷宮の管理権限を持って行ったとすると、私はアメリカに渡ってそこで迷宮施設を作ってもいいと考えています。
もうね、くっだらない政治の世界に巻き込まれるのはうんざりなのですよ。
政治家との喧嘩上等、こちとらアルムフレイアで侯爵家当主をフルボッコにした経験がありますからね。そのあとで貴族院の裁判で負けた時も、堂々とその国から出ていってやりましたとも。
国外追放、全然オッケーでしたよ。
その直後に魔族侵攻があって、国が半分滅んだそうですけれど知ったことではありませんでしたからね。罪なき民については変装してこっそりと避難誘導していましたけれど。
「うん、いい感じに迷宮が崩壊を始めたので、とっとと地上に戻ることにしましょう」
あとは旭川駐屯地で報告を行った後、札幌に戻ることにします。
事は重要、一分一秒でも時間が惜しいですから。





