Call Me(マギ・フォーミュラ―と、動き出した迷宮管理特別委員会)
現在、レース仕様の魔法の箒『マギ・フォーミュラー』のテスト飛行を始めたばかりです。
ドライバーが操るマギ・フォーミュラーが、ゆっくりと鈴鹿サーキットの周回を始めます。
ちなみにですが、民間レース用に製作した魔法の箒の限界高度設定は149m、最高速度は時速800キロに設定してあります。
ですが、それは限界ラインとしての設定であり、レース用リミッターは高度20メートル、最高速度500キロ。
なお、エフワンの歴代最高速度は時速312㎞/h。それを上回る速度設定ですが、あくまでもリミッターです。
普通にアクセルを全開にしても、直線での最大加速は時速370キロメートル+α出るかどうか。
この+αが曲者でして、実はマギ・フォーミュラ―のシート下には『魔力感応板』が仕込んであります。これがドライバーの魔力を感じ取り、魔力集積回路と飛行術式にリンク。アクセルの限界幅を引き上げるように設定してあります。
つまり、魔力の高いドライバーと平均魔力のドライバ―では、アクセルを全開にした時の最大加速力が違ってくるのですよ。
これは取扱説明書にも明記してありますが、魔力値を測るための計測器は用意していません。
つまり、実際にマギ・フォーミュラ―に載せて飛ばしてみない事には、最大速度は測ることができないという事です。どうですか、この七織の魔導師謹製の『飛行用魔導具』の性能は。
「……うん、現在の速度は、だいたい時速230キロですか。そして後ろの二人もついてきていますよ……と」
ハンドル基部に装着されている速度計は230キロを指していますし、箒側面に装着されているカウルに設置されているバックミラーでは、後ろの二人もつかず離れずでついてきているのも確認できています。
「それじゃあ……」
右ハンドル基部についているスイッチを入れて、ピットに無線を繋ぎます。
「こちら空挺ハニー、この周回が終わり次第、タイムトライアルに入ってください。私は高度を上げて、二人についていき動きを確認してみます、オーバー」
『ピットより空挺ハニーへ、了解した、オーヴァー』
「よし」
最終ストレートに入ったとき、私は高度を12mに合わせて上昇開始。
そしてピットから『タイムトライアルに入れ』のピットサインボードが提示された瞬間、二人の速度がいきなり加速を始めました。
ええ、これまでの慣らし運転は終わりだ、ここからが本番だといわんばかりに、二人同時に加速開始。限界ぎりぎりを見極めつつ本番さながらのレースが始まりましたよ。
「……うわ、すっごいですねぇ……でも、エフワンマシンと違って、ブレーキは特殊なのによく加速できますよねぇ」
タイヤが接地しているわけではないので、摩擦を使用したブレーキは使えません。
故に、マギ・フォーミュラ―のブレーキシステムは『箒後部の魔導スラスターの逆噴射』と『箒前方柄部分のムーバブルスラスター』による多次元ブレーキです。
ようはブレーキレバーを握りつつ、どのようにマギ・フォーミュラ―を制御するのか脳内でイメージしなくてはなりません。
この理論を思いついたのは、兄貴が友人たちを集めてやっていた『18時間耐久サイバーフーミュラー視聴会』に無理やり参加させられただけでなく、事細かに解説までされたのを思い出したからでしょう。
おかげで今回の開発にも大変役立ちましたとも。
さすがに『機体制御用魔導頭脳』を作るところまでは間に合いませんでしたけれどね。
──フィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
超高音を発しつつ、加速していくマギ・フォーミュラ―。
魔法の箒の後部から、術式分解されて気化した魔力が炎のように吹きだしています。
うんうん、あれって実は魔力ロスなんですけれど、一般の方々の保有魔力では魔力を全て消費することができませんので。
それに、格好いいですよね。
「それにしても……凄いですねぇ」
ええ、流石はプロのエフワン・ドライバーです。
数周の周回だけでコツを掴んだらしく、今は本物のエフワンレースのようなバトルまで始めているじゃないですか。
違うのは、高度という概念があること。
マギ・フォーミュラ―に搭乗して飛行している場合の車高……というか、ドライバーと箒を合わせた高さは、大体100センチ未満。
そしてサーキットコースの高度設定は、今は慣らしで高度10メートルに設定。
つまり、上手に飛ばせば、縦に10人並ぶことが出来ます。
「うーん。高度については、要コース設定というところでしょうねぇ。まあ、私は専門ではないので、そっち方面については専門家にお願いすることにしましょうか。ただ平面なコースを周回するのもいいですけれど、立体的なコース設定もありといえばありでしょうから」
むしろ、そっちの方が魔法の箒のレースっていう感じがしてきませんか。
そんなことを考えているうちにも、気が付くとすでに5周目に突入。
「はぁ……一周の平均タイムが1分44秒ですか……」
ピットから出ているボードに、周回タイムが表示されています。
そちらをちらっと見て、二人はさらに加速を始めましたが。
どうやら問題はないようですので、あと10周でテストは終了することにしましょう。
どうせ、このあとは取材陣からの質問攻めがあるに決まっています。
コースのあちこちでは、取材許可証を持った人達がカメラを回しているのですからね。
「はぁ……どこまで説明してよいものでしょうかねぇ」
飛んでいるときは楽しいのですけれど、そういった事務仕事については慣れていませんので、頭が痛くなってきますよ。とほほ。
〇 〇 〇 〇 〇
──記者会見室
特別に用意された記者会見室。
そこには、撮影を終えた記者たちが集まっています。
そして会見室前方には、今回の【国際マギ・フォーミュラ―】の企画立案を行った国際自動車連盟の人とか、チーム・レッドブルの方々、本田技研の榊原さんとドライバーのマクシミリアン・フェルスタッペン、セルジオ・ペレスが座って待っています。
はい、私は前の方に座って、静かにしていますよ。
どうせ質疑応答までは、私の出番はないのですから。
「それでは、これより記者会見を始めます。まず、今回、此処で行われた国際マギ・フォーミュラ―についての簡単な説明から……」
私が最初に受け取った資料、その概略が説明されています。
そのあとは実機であるマギ・フォーミュラ―が会場に登場、榊原さんが主体となり、説明が始まりました。
それはもう、淡々と、そして的確な説明が。
取材陣が興味を引いたのは、『魔法使いでなくても乗れる』という部分。
その為には国際ライセンスを必要としますが、規定その他は今後の課題ということになっています。ええ、だから取材陣に上手く紛れ込んで、最後尾でこっちを睨んでいる山縣議員、何をいっても無駄ですよ……って、どうやってここに入り込んだのですか。
そのあとはコースの説明と安全性について、マギ・フォーミュラ―のカスタマイズの可能性と限界についてなど、かなり技術的な面についても説明が行われまして。
「では、これより質疑応答とします。なにかありましたら挙手をお願いします」
──ササササッ
次々と挙手されていますが、司会の方が上手く捌いてくれています。
「如月3曹に質問です。このマギ・フォーミュラ―の製作費用は、一騎につきどれ程かかるのでしょうか?」
「さぁ? 現実的に買える部品その他だけでしたら、多分50万円程度だと思います。ただ、非現実的な素材については、地球では入手不可能ですので、私を始めとした勇者チームが迷宮で回収してくるしかありません。よって、プライスレスです」
「なるほど……ありがとうございました」
ええ、ミスリルなどの魔導鉱石などついては、ナイジェリア迷宮で回収可能ですが、ドラゴンを始めとした生体素材については迷宮に潜るしかありませんからね。
「このマギ・フォーミュラ―の技術を応用して、民間用の魔法の箒を販売することは可能でしょうか? 」
「そうですね。まず、日本では法整備が必要となるでしょう。その上で、専用の飛行免許と普通自動車第一種免許は必要になるかと。ほら、飛んでいるという事実以外は、四輪と同じ扱いになりますから。でも、市販車は作れないと思いますよ、それは先程の説明の通りですから」
「ああ、それは残念です……ありがとうございます!」
「では、次の方……」
その後も、子供用に安全なカートレースのようなものは作らないのかとか、荒れ地を走る世界ラリー選手権(WRC)のようなレースは可能なのかとか。
兎にも角にも、世界初の事となるため、皆さんの興味は尽きないようで。
そして巧みに、山縣議員が挙手しているのを無視し続けている司会さんグッジョブです。
「それでは、まだまだ質問はあるかと思いますが、そろそろ時間ですので本日はこれにて終了とさせていただきます。なお、国際マギ・フォーミュラ―についての資料をお求めの際は、最初にお渡しした資料に記されている事務局にご連絡いただければ、改めてこちらから送らせていただきますので。それでは、本日はありがとうございました」
この一言ですべてが終了。
そして私は関係者たちと一緒に、ピットへ。
ええ、私にとっては、ここからもメインなのですから。
………
……
…
「では、マギ・フォーミュラ―の機体部分の『弄ってはいけない場所』について説明します」
ここからはマシンメンテナンスとカスタムについて。
ぶっちゃけますと、カウルを取り付けるために追加した金具などは、いくらでも取り付けて構いません。
ただ、ブラックボックスである魔法の箒の柄部分とハンドル基部、シート下にある魔導制御システムについては弄ることができません。
「……ということで、最後に魔力のチャージについて。私達魔導師は、乗っているだけで自動的に魔力が放出されているのでほぼ無限に飛行することが出来ます。ですが、皆さんは規定魔力未満のため、飛行術式と魔導制御システムを起動するためには外部から魔力を送らなくてはなれません。それが、このシート後方に設置されている『魔導バッテリー』です」
──カチャッ
はい、ボタン一つで簡単に外れます。
あとはこれを専用のバッテリーチャージャーにセットして、コンセントを差して出来上がり。
「ち、ちょっと待ってください……電力を魔力に変換するというのですか?」
「はい、その通りです。ちなみにこれはブラックボックス、解析することも改造することも許可しません。ということで、こちらのマギ・フォーミュラ―2騎と専用魔導バッテリーを予備も含めて4つ、そしてバッテリーチャージャーを一台、国際マギ・フォーミュラ―事務局に期限付きで貸与します」
そう告げると、待ってましたと国際異邦人機関の沢渡さんが立ち上がり、契約書を取り出しました。
「では、ここからは私が……」
はい、事務的な部分はお任せです。
そしてさっきからずっと、マギ・フォーミュラ―に跨って写真を撮っているマクシミリアンさんとセルジセオさん。実に楽しそうなのですが。
「実際に飛んでみて、どうでしたか?」
『早く国際レースとして認可されることを期待していますよ……ただ、私たちはフォーミュラ・ワンのドライバーです。マギ・フォーミュラ―と兼業できるかどうかはわかりません』
『全くです。もしも兼業が駄目でしたら、私はマギ・フォーミュラ―に移籍しますよ』
『待て、セルジオ、それだけはまってくれ!!』
『せっかくチームに戻ってきて、ようやくこれからだというのに!』
ああっ、レッドブル・レーシングのスタッフが必死に止めていますよ。
まあ、そうなりますよねぇ。
そして沢渡さんの説明と契約が完了した時点で、私は全ての魔導具をレッドブル・レーシングに引き渡します。ここからの管理はよろしくお願いしますということで。
「それでは、失礼します。また私の力が必要になったりアドバイスを求める場合は、国際異邦人機関を通していただけると助かります。それでは失礼します」
「はい、本日はありがとうございました」
さて、これで私の休暇は終了。
明日からは通常任務、北部方面隊に戻らなくてはなりません。
「うん、実に有意義な、好き放題できる休暇でした。めでたしめでたしです」
そう笑いつつ自宅に帰って。
翌日朝、北部方面隊札幌駐屯地に出勤したとき、最初に小笠原1尉に告げられたのは、とんでもない話でした。
「如月3曹、明日午後1時より、衆議院議会にて質疑応答がありますので」
「質疑応答……ですか? 私、なにかやらかしましたか?」
「特別休暇中に自宅の庭に迷宮を構築、資源回収を行った件について。迷宮管理特別委員会が、越権行為であると異議申し立てを行ったそうですよ、アホみたいですね」
「はぁ……自宅の庭で、私しか入ることが出来ず中からは許可した者以外は出る事が出来ない迷宮ですよ。どうして越権行為なのでしょうかねぇ」
まったく何を考えているのか知りませんけれど、小笠原1尉が迷宮管理特別委員会の資料を渡してくれたので、今日はそれを読み込むことにしましょう……午後からですけれどね。
はぁ、頭が痛いですよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





