Oh, Pretty Woman(さあ、マギ・フォーミュラの実験です)
――1月7日
早朝6時。
いつもより少し早く目を覚まして、私は一路、三重県の鈴鹿サーキットへ。
移動方法は当然、魔法の箒ですよ、今日は急ぐので、魔法の箒Mk-6を使用します。
これは魔法の箒をベースに、強化飛翔用術式と強化魔導スラスターを搭載したバージョンでして、カナート翼も装備しています。
ですがベースが魔法の箒なので、これは航空機ではありません、いいですね?
すでに第1空挺団団長である近藤陸将補にも申請し、正式に許可を得ています。
これ以外にも6つのバージョンの魔法の箒が存在しますが、今日はこれを使用という事で。
「さて。ナンバープレートは民間用の物を装着して。それじゃあいきましょうか!!」
一応、飛行前に丘珠駐屯地の航空管制塔に連絡は入れておきます。
そうすることで、私は非番のときでも自由に空を飛ぶことができますので。
まあ、正確には非番時の飛行用魔導具の使用については、短距離(道内でのみ使用)の場合は連絡を入れる必要はないのですが、万が一のために入れておいた方がいいと言われていますので。
という事で、今から飛んでいけば8時までは楽勝で到着しますよね!!
………
……
…
――三重県・鈴鹿サーキット
「うん、ちょっと早すぎましたか」
時間は午前7時48分。
待ち合わせ場所は、鈴鹿サーキット内、センターハウス。
ここで国際異邦人機関の沢渡さんと待ち合わせです。
「確か待ち合わせは8時だったので、ちょっと早いぐらいなのですけれど……と、来ましたか」
「やあ、相変わらずお早いことで。これも自衛隊員としての訓練の賜物ですか?」
「いえいえ、由緒正しき社会人の30分前行動ですよ。ちなみにそちらの方は……って、ああ、山縣議員ですか。今日は何かあったのでしょうか?」
異邦人機関の沢渡さんとともにやって来たのは、財務省の財務政務次官である山縣百合子議員。
ちなみに私とは犬猿の仲ですが。
詳しく書くと長くなるのですが、彼女は私の保有している魔導具、それも魔法の箒を手に入れたいらしく、あの手この手で私に絡んでくるのです。
アイテムボックスの中に入っているものは全て『課税対象』であるなどどクレームをつけた挙句、財務省として調査を行ったのですから。
ええ、全て私が異世界アルムフレイアから帰還した際に終わった話なのに、何度もぶり返してくるというとんでもない方です。
「いえ、こちらで七織の魔導師であるあなたが、魔法の箒によるレースを行うという話を耳にしまして。安全対策その他について、直接現地で確認しようと思ったまでですわ」
「はぁ、なるほど」
思わずため息が出てしまいますよ。
私の魔法の箒の安全性と財務省がどういう繋がりなのか、まったく見えませんよ。
まあ、国際異邦人機関に天下りしている議員の中に、元財務相の方がいるというのなら話は分かりますけれど。
「まあ、見学ならご自由にどうぞ」
「いえいえ、見学ではなく、この私が直々に魔法の箒に乗って、乗り心地と安全性を見て差し上げますわ」
「はぁ、なるほど」
そんな山縣議員の後ろでは、沢渡さんもややご機嫌斜めの模様ですが。
まあ、彼も巻き込まれたのでしょうから、くどくどと言うつもりはありません。
「さあ、それではさっそく、魔法の箒の試乗を行いましょう!!」
「あの~、山縣さんは、『飛行用魔導具』の免許をお持ちですか?」
「そんなもの所持しているのは、貴方と外国の勇者たちだけでしょう? でも、ここはサーキットなので、免許が無くても自由に乗れるのでしょう?」
「いえ、今回の国際MBグランプリに使用する高機動型魔法の箒は、国際A級ライセンスがないと使えませんけれど?」
「なによ、それ?」
ああっ、山縣議員はそんなことも調べてきていないのですか。
せめて、魔法の箒に乗りたいが為にここまで来たのでしたら、その程度は調べてきてくださいよ。そして諦めてくださいって。
国際MBグランプリの計画書には、しっかりとそのことが記されていましたからね。
「まあ、端的に言いますと、山縣議員は魔法の箒に乗る資格なしというこことです」
「わたくし、日本国政府の財務省所属議員ですわよ?」
「そもそも、なんで財務省の議員が……ああ、もういいです、担当の方が来ましたので『外野の方』は下がっていてください。見学その他についても、ちゃんと許可を取って来てくださいね」
はい、以後は山縣議員は無視です。
そして私たちの元にやって来た方々……今回の国際MBグランプリの発起人であるレッドブル・レーシングのチームリーダーであるクリスチャン・ヴェーラさんと技術主任のマリーダ・ワシェさん、そして通訳の方と……あと一人はどなたですか?
「初めまして。本田技研の榊原茂夫です。レッドブル・レーシングにエンジンを卸しているメーカーといえば、分かっていただけますか?」
「ああ、なるほど。つまり関係者ということですね。では改めまして。日本国陸上自衛隊第1空挺団魔導編隊所属、如月弥生三等陸曹です。今回の計画のために試作型の魔法の箒を用意してきました。詳細その他については会議室にてご説明しますので」
「ありがとうございます。ちなみにですが、今回ご用意して頂いた魔法の箒ですが、私達のような魔力のない人間でも使えるのでしょうか?」
やっぱり、そこは気になりますよね。
自衛隊広報でも公開されている、『魔法の箒の仕様について』という項目でも、最低保有魔力は150以上、加えて安定して飛行するためには『飛翔術式』を修得していなくてはなりません。
そして今の榊原さんの質問にレッドブル・レーシングの皆さんも不安そうな表情をしています。
ですから、ここでは簡単に説明しておいた方がいいでしょう。
「まず、魔法の箒を使用するために必要な魔力については、魔導バッテリーを用いてサポートできるようにしてあります。また飛翔術式についても、登録したドライバーには簡単なレクチャーへと、それを使うための腕輪型魔導具を貸与します。これで誰でも使うことはできますけれど、あくまでもレース用にチューニングした物であり、民間用に調整したものではありませんので。ということで、まずは会議室へ」
「そうですね、では、そのように」
ということで、レッドブル・レーシングと本田技研の方、そして沢渡さんと共に私達は会議室へ。
ええ、此処から先は関係者以外立ち入り禁止ですので、しっかりと入場パスを受けとりましたよ。
そして私たちは一路、会議室へ。
ちなみにですが、関係者用入り口で山縣議員がなにか叫んでいるようですが、そもそもあなたは関係者ではないので入れません!!
さあ、楽しい魔法の箒の説明を始めましょうか。
〇 〇 〇 〇 〇
――2時間後
国際MBグランプリの計画書をなぞるように説明を聞きつつ、質疑応答を繰り返し。
そしてレースに使用する魔法の箒についての取り扱い等も説明した後で、私達は実際にサーキットを走って貰うためにピットへと向かいました。
ええ、関係者以外は入ることかできないレッドブル・レーシングのピットですよ、スタートラインの近くですよ。
すでにメカニックの方とテストドライバーも待機しているようで、椅子に座って何か歓談している真っ最中です。
「さて、それでは今回用意した、最新型のレース用魔法の箒、正式名称は【マギ・フォーミュラ】をご覧ください」
――シュンッ
アイテムボックスから取り出したのは、4本の魔法の箒。
ええ、今朝方、必死に用意した【レッドブル・レーシング仕様】のカウルも装着してありますよ。
「こちらが、ドライバーの皆さんに『翼を授ける』魔導具です。まずはドライバーの皆さんは、こちらの取り扱い説明書を読んでみてください。それと、マシンごとにドライバーを登録する必要がありますので、先に終わらせてしまいましょうか」
そう説明してから、アイテムボックスより【カード・キー】を取りだします。
これも私が作り出した魔導具の一つ、所持者の魔力を登録することができる水晶結晶板製の、いわば免許証のようなものです。これと所持者、そして指定された魔導具を繋ぐために必要でして、こけさえできれば、実は一般の人でも自由自在に魔法の箒で空を飛ぶことができるようになります。
ええ、すべては私が自由に空を飛ぶため、そのための労力と開発なら惜しみませんよ。
『はは……こんな事が起こるなんて、俺は夢でも見ているのか?』
『全くだ。もしもこの計画が実現したら、俺はどっちのドライバーになればいいんだ?』
楽しそうに話をしているので、まずはざっと登録の手順を説明。
そして自分に割り当てられたマギ・フォーミュラと自身を魔導契約してもらい、早速サーキットに出てもらいます。
まずは、コースアウト……というか、落下しても大丈夫なように、サーキット全体に『柔軟結界』を広げます。
「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に六織の結界を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力10万5千を献上します……柔軟結界っ」
これでよし。
魔術の発動と同時に、コース全体と敷地内が青く光った結界に包まれました。
「あ、あの……今使った魔法はなんですか?」
「ええっと、このサーキットのコースおよび敷地内に『柔軟結界』というものを張り巡らせました。これは、地上から30センチのところに張り巡らされたもので、高度10メートルの高さから落下しても深いダメージを受けるようなことはありません。今は私が施しましたが、そのうち魔導具で張り巡らせることができるようになると思いますので」
そう説明すると、ドライバーの方々もウンウンと頷いています。
そして順番にマギ・フォーミュラに跨ると、ゆっくりと魔力を伝達し始めました。
――キュィィィィィィィィィィン
マギ・フォーミュラが高い金属音を発し始めます。
これも実は、魔力による出力調整用に付けた疑似的な音でして。
ほら、エンジン音によってマシンの調子を見たりするのですよね? そのための指針として設定したのですよ。
『ああ……これが魔導具のエンジン音ですか……』
『なるほど、エフワンマシンというよりは、バイクに近い感覚だな』
ああ、そういう感じですか。
まあ、なんとなく理解できますが、まずはお二人に慣れて貰わなくては。
「では、私が先導しますので、まずは後ろについてきてください。レース仕様ですので最大高度は10mに設定されていますが、くれぐれも落下しませんように。えぇっと、そういえばお名前を伺っていませんでしたよね」
『マクシミリアン・フェルスタッペンです』
『セルジオ・ペレスだ』
「了解しました。では、ついてきてください」
まずは軽く数周、周回します。
ちなみに私の箒は、普段使いの魔法の箒、通称Mk1クーペリア。
兄貴曰く、ゼフィランサスの近縁種とか話していましたけれど、そのゼフィランサスというのが判りません。確か花ですよね、でも兄貴が話しているのですから、きっと裏があるに決まっています。
ということで、まずはテスト飛行の開始です。
さあ、楽しくなってきましたよ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。ええ、実在しそうでもフィクションです!
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





