What A Feeling(魔法の箒・量産計画)
――1月6日
本日は、特別休暇です。
つい先日、国際異邦人機関の沢渡さんがやって来て、国際FBGP、つまり【空飛ぶ箒のレース】についての概要書を置いて行かれました。
まあ、いつもの無茶ぶりとは違って、私の魔法技術を平和に使って貰えるというのなら……という建前ですが、要は民間への魔法の箒のライセンスの正式な実用化のために、協力をするということになりました。
尚、その為には魔法の箒が必要。
手持ちの素材ではちょっと足りないものがありますので、ここは心を鬼にして、実家の裏庭に資源採取用の迷宮を作る事にしました。というか、作りました。
資源採掘用の迷宮を作るコツは一つ。
ダンジョンを構築するための魔法陣を作り出すとき、そこに【出現させたい魔物の素材】を添えておくこと。
そうすることで、ダンジョンコアは魔物を魔力素から作り出すのです。
ちなみにですが、魔物を作り出すために必要な魔力素は、迷宮地下のマナラインからちょっとだけ失敬します。
ナイジェリアのスマングル曰く、ここ最近になってマナラインが活発になっているので、少し減らした方がいいということだそうで。
ナイジェリアでは、スマングルが迷宮産の資源の種類を増やして対応しているそうなので、私もそうすることにしました。ええ、アメリカのスティーブからも、簡単に管理できる迷宮を作ってほしいと言われましたので、近日中にアメリカに行って、彼専用の迷宮は作ってあげようと思っていますよ。
海外に行ければの話ですけれど。
ということで、無事にダンジョン精製用の魔法陣も起動し、ダンジョンコアが地下へと浸透していきました。
「さて。それじゃあ行きますかねぇ……局地戦闘用魔導装備に換装っ」
――シュンッ
私が普段身に着けている魔導師の装備を纏めて装着。
アイテムボックスの中に収めてある装備については、登録さえ済ませておけば一瞬で装備できるので大変便利です。ええ、この能力と空帝の称号で、空帝ハニーと笑われていましたからね、スティーブには。
「さて……と。ダンジョンコアの定着位置は地下4層。そこまではただひたすらに回廊が伸びているだけ。新宿ジオフロント最下層の【如月迷宮】とほぼ同じ構造ですけれど、ダンジョンコアまでたどり着くのが大変そうですよねぇ」
如月迷宮と異なるのは一つ。
宝箱はでませんし、回廊は広く大きい。
そして魔物が大量に徘徊しています。
ということで迷宮に入ってすぐに入り口を閉じ、魔法による鍵も施しました。
まあ、外から見たら、裏庭に凱旋門のようなオブジェが発生しているように見えますが、別に個人の家の庭なのですから、何が置いてあったとしても別に構わないですよね。
「さて、それじゃあ早速始めますか……」
まず最初のターゲットは、目の前でこちらを睨みつけている赤竜。
サイズ的にはレッサー種という、竜族の先兵的な……まあ、チンピラですね。
それが二体、翼を広げてこちらに向かって滑空してきましたので。
「最初の回収物、赤竜の血と翼膜、そして爪と牙と魔石ですね。全て置いていって下さいね」
杖を構えて詠唱開始。
「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に四織の黒雲を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力2450を献上します。雷霆槍っ」
――バリバリバリバリ
目の前に出現した黒雲から、4本の雷を発生させました。
それは一瞬で赤竜の頭に突き刺さりますと、その全身にくまなく浸透していきました。
ええ、一撃で感電死です。
しかも、赤竜の背後で待っていたらしい、赤竜のグレーター種にまで飛んでいき、一瞬で命を刈り取ってしまっていますよ。
「……さ、流石は雷神の武器ですか。それじゃあ、ありがたくいただきます」
赤竜の死体に両手を合わせてから、アイテムボックスに収納。
あとは自動で解体作業を行ってしまいます。
「さてと。まさかグレーター種もいたとは予想外ですけれど。次はええっと……ミスリルですから、ミスリルゴーレムがどこかにいるはずですよねぇ……」
魔法の箒をアイテムボックスから取り出し、次の遭遇地点へと飛んでいくことにしました。
さあ、とっとと出てきてください、私は急いで魔法の箒を作らなくてはならないのですから!!
〇 〇 〇 〇 〇
夕方。
最後の試練であるダンジョンマスターの討伐も成功。
いくら私が作った迷宮とはいえ、素材の入手難易度がそのまま迷宮の難易度になるのですから、無傷で帰ってくることなんて不可能ですから。
「えへ、えへへ……ちょっとだけ育ったダンジョンコアの回収も成功。古代竜の肝と血、眼球、魔石、鱗も集まりましたし、アルムフレイアから持ち帰って来た資材の七割は回復しましたか」
あとは自然発生型資源と、魔導資材と言われている錬成素材の回収ですが、それは今は急がないので大丈夫です。
ということで、疲れを癒すためにエリクシールを一気飲み。
当然、腰に手を当てて飲むのです、グイッと一気に。
「ぷっは。さて、お風呂に入ってご飯を食べて、それから魔法の箒の生産を始めますかねぇ」
今回作成する魔法の箒は、いわゆる【民生化】が絶対条件。
そのためにも、魔導バッテリーを搭載したものを作り出す必要があります。
これについてはまあ、錬成魔法陣を起動させて素材を放り込んだのち、量産化の術式を起動させておけば一時間っていうところです。
「問題なのは、基本となる素体を作る事、乗り手のパフォーマンスに合わせて性能に差が出る事。あとは外見などを自在に変えられること……でしょうかねぇ」
作り出す魔法の箒の素体は、私が普段使っているものではなく【オーソドックススタイル】と呼ばれているもの。
これは低魔力で自在に飛ぶことができるもので、主に貴族や王家に強請られて提供したものです。
どれだけ頑張っても高度10メートルよりも高く飛ぶことはできない、速度も時速40キロ程度。
それ以上高く、そして早く飛ぶものを作ろうものなら、軍事利用されるに決まっていますから。
だから、【遊戯用】として作って提供しました。
まあ、術式の解析などを行い、それをコピーして使用しても同じものは作れません。
独特な術式構文であり、それの意味をしつかりと読み取り理解しなくてはコピーはできませんからね。
「……とまあ、色々と考えているうちに、手慰み程度に作れてしまうのは私が七織の魔導師だからということで……ここからどう、改良しますかねぇ」
まずは箒の基部であるソルガムと杖部分の付け根にシートを装着。
このシートの中には『ミスリル』により魔力感応板をセットします。
そして杖部分には竜の血を遠心分離して術式処理し『シーラムコート』という処理を行いました。
次はハンドル部分の装着。
オートバイのようなハンドルを搭載し、アクセルとブレーキにもミスリルを使用。
それらを全て『精神感応糸』で『魔導起動術式』に接続しなくてはならないのですが、この精神感応糸はとても柔らかいのですが切れることがありますので、魔鋼繊維を結束して作ったワイヤーで包み込みます。
「うん、アクセルとブレーキもしっかりと反応する。あとは魔導起動術式から魔力放出素子であるソルガム部分を接続して……うむ、廉価版とはいえ、いい感じですねぇ」
箒の掃く部分、この場合はソルガムというのですが、これもシーラムコートを施してあります。
これにより魔導バッテリーで生み出された魔力が魔導起動術式に流れていき、ソルガムから放出されて飛行することができるのですよ。
ちなみに魔導バッテリーの装着部分はハンドル基部の下に装着し、ついでに誰でも使えるようでは危険なので【個人登録認証システム】も組み込みます。
これは【魔力波長は個人で異なる】という特徴を使ったもので、形状はカードキー。
最初に登録したもののみが、この箒を起動できます。
あとは、メンテナンス用のカードも用意しておけば完璧。
「……でも、これだと形がねぇ……どう見ても魔法の箒だから、違うよねぇ」
こうなりますと、私の作った最新型・魔法の箒シリーズのようにカウルなどのカバーを付けられるようにしてあげた方が親切ですよね。
――バン!
「妹よ。話は聞かせて貰った!!」
突然、部屋の度が開いたかと思ったら、久しぶりに太蔵兄さんが部屋に入ってきました。
ええ、お正月には自宅に居なかった兄が。
年末恒例の同人誌即売会に向かい、そこから更に聖地を巡るとか言って全国各地の神社に参拝して今朝方帰って来た兄です。
「はぁ、どこで何の話を聞いてきたのですか?」
「いやいや、魔法の箒によるグランプリレースが始まるという噂を聞いてな。ちなみに情報の提供先は、鈴鹿サーキットに勤めている知人からだ。明日、そこで練習走行があるのだろう?」
「……まあ、どうせ取材とかも来るのでしょうから隠す必要はないですよねぇ。でも、兄貴はアニメと特撮には詳しいけれど、ロードレースにつていは詳しくはないんじゃないの?」
アニメ・特撮のオタクであるとは聞いていますけれど、というか嫌になるぐらい見せられましたけれど。でも、ロードレースも載ってそんなに……あるのかなぁ。
兄貴の好きそうなもの……ばくおん?
「大丈夫だ、漫画ではそういったレースものが存在する。このバリバ○伝説や二人鷹とかは、最高にアツい……と、なるほど。今の問題点は空力的な改造か。そのためにカウルなどを装着したいと……それなら、いいものがある、ちょっと待っていろ、今から購入してくる。お礼は魔法の箒一本でいい」
それだけを告げて、どこかに飛び出していきましたよ。
さすが、自称・機動力のあるオタク。
恐ろしいほどのフットワークですよ。
「はぁ。結局、兄貴用も作らないとならないのかぁ……ま、資材はあるから一本ぐらい増えても大丈夫ですけれどねぇ」
そのまましばし待つこと40分。
兄貴が息を切らせて持って来てくれたのは、魔法の箒の柄の部分に装着する固定金具と、バイクのカウルを固定するためのパーツ一式、そしてカウルそのもの。
「……あの、これ、何処で調達してきたの?」
「知り合いのバイク屋だが? ほら、このカウルにステッカーが貼ってあるだろう?」
「あ、ほんとだ……って、まるでスポンサーみたいだよねぇ……あ、そういうことか」
「ああ、本格的にレースが始まるとすれば、ワークス・チームやスポンサーのステッカーが張り付けられるだろう?」
なるほどねぇ。
それじゃあ早速つけてみますか。
ということで、サイズや長さの調整をしつつ、兄貴監修でどうにかカウルの取り付けにも成功。
ついでにどこから持ってきたのか【成田山】って書いてあるステッカーも張り付けているけれど、これはなんのステッカーなのでしょうか?
カウルも真っ赤に塗られていますよ、こんなのが出てくるアニメってありましたっけ?
「まあまあ……かな?」
「うむ。では、俺専用の魔法の箒が出来るのを楽しみに待っているぞ」
「はいはい。ちゃんとお礼はしますので……でも、公道は乗れないからね?」
「レースサーキットで乗るから大丈夫だ!!」
はぁ。
素人でも貸してくれるサーキットもあるのですか。
まあ、とりあえず気を取り直して、この完成形を記録の宝珠に記録させてから、急ぎ明日必要な分を量産化で増やしておきますか。
はぁ、自衛隊で戦うよりも、こういうののほうが性にあっているような気がしますけれどねぇ。
いっそ、陸自専用の資源採集用迷宮でも作って、そこで採れる資源で『陸自用自衛隊用二式魔法の箒』とか量産します?
でも航空徽章がないと乗っちゃ駄目ですからね。





