Like a Rolling Stone(魔導師の休日・リターン)
年末の買い物も無事に終えた翌日からは、私は毎日のようにあちこち連れまわされました。
といっても、基本的には年末年始用の買い物の付き合い、お父さんが車を使うという事らしく、止むを得ず魔法の絨毯を使ってお母さんと買い物に出かけていました。
ええ、それはもう、魔法の絨毯で飛び回っていると注目を集めるのですよ。
日本国内では、私は【自衛隊所属の魔導師】という認識が広まっているので、無茶ぶりされることはありませんけれど、やっぱり魔導師という存在は子供達、とくに女の子にとってはあこがれの職業だったらしく。
お母さんと一緒に買い物に来ているのに、なぜか駄菓子コーナーで子供達に捕まってしましましたよ。
「お姉さんは魔法使いですよね? 私も魔法使いになれますか?」
「う~ん、そうですねぇ」
いいですか、間違っても魔導師になるために自衛隊に入ってはいけませんよ。
私が特別なのですからね。
そもそも資質があるかどうか、ここから始まりますからね。
「……ということで、魔法使いになるためには、魔力があるかどうか測らないといけないのよ」
「お姉さんは、測れますか?」
「ん~、測れるけれどねぇ」
こうなると、子供たちは興味津々。
測って欲しいと迫ってきます。
そしてもしも適性が無いと判ると、落ち込んだり泣いたり。
そして親御さんたちが困り果てる、人によっては怒鳴り散らしてくるといった感じで。
まあ、ブラックな親御さんについては基本的には無視ですよ、無視。
けれど、そうでない親御さんたちには、簡単なアドバイスしかできないのですよ。
「魔力を高める方法はですね……体内に魔力を蓄積している食材を摂取するという方法もあります。ただ、そういうのって、地球ではほとんど手に入らないものばかりなのですよ。まあ、幾つかは入手できますけれど……」
ちなみに、地球で比較的手に入りやすい【魔力を高める食材】は『松の実』『舞茸(天然もの)』『朝鮮人参』『桃』『すもも』の5種類。
逆に、体内から魔力を奪うものは『脂質の高い肉(霜降り牛肉など)』。
私ですら、昔は年に一度とか二度、両親に連れられて『ステーキハウス』にいって霜降りステーキを食べるのが大好きだったのですが、異世界アルムフレイアから戻って来てからは、体が受け付けなくなりましたからね。
「はぁ……それって、このスーパーでも販売していますよね? その程度でいいのですか?」
「まあ、あくまでも体質を魔法適性に近づけるためのものですから。ちなみに毎日とっても駄目ですよ、適度な摂取と瞑想と魔力循環を身に付けなくてはならなくて……うん、まだちっちゃい子は、せいぜい魔力適性体に近づけることぐらいしかできませんけれどね」
そう説明すると、子供たちはいっせいに駄菓子コーナーから飛び出し、食品売り場に走り出します。
それはもう、影でこっそりと聞いていた大人や学生たちも走り出しましたからね。
でも、この冬のシーズンに桃やすもも、天然舞茸なんて手に入るのですかねぇ。
〇 〇 〇 〇 〇
そして年末を無事に乗り越え、正月。
北海道神宮ではなく、近所の小さな神社でお参りしたあとは、自宅に集まって来た親戚達のあしらい。
ええ、いとこや従姪従甥たちの『魔法を見せて』『魔法使いにして』という無理難題をするすると潜り抜け、酔っぱらって潰れている酒癖の悪い親戚には酔い覚ましの魔法薬を飲ませ。
挙句には、従姪達を連れて神社のお参り、再びです。
もう面倒くさいから魔法の絨毯の大型を引っ張り出して、一気に飛んでいきましたよ。
それはもう、実に楽しそうな従姪達でした。
「弥生ねぇちゃん、自分で空を飛びたいから絨毯を貸して!!」
「魔導師しか飛べないから……って、ちょっと待ってて」
はい、否定から入ると泣きそうになる。
そんな目で私を見ないでくださいよ。
「はぁ。それじゃあこれを使って……」
雪降る裏庭で魔法の絨毯を広げます。
これは開発中の『魔法の絨毯・量産型』です。
体内保有魔力がなくとも、『魔力バッテリー』と『姿勢制御用の杖』を使うことによって、『誰でも自由に』魔法の絨毯で空を飛ぶことが出来ます。
ええ、国際異邦人機関の沢渡さんに泣きつかれて作った奴ですよ、中東のオイルマネーの溢れまくっているどっかの国の皇子様が、日本国政府に魔法の絨毯を売って欲しいと依頼したっていう案件ですよ。
結局、外交関係で亀裂が入らないようにとか言い含められて研究し、既に一枚を販売しましたよ。
これはその改良型で、趣味で作ったものです。
「こ、これって本当に飛べるの?」
「まあ、飛べるかな? 高度制限2メートルと、うちの敷地内部のみっていう制限は付いているけれど」
そう説明すると、なんとなく納得がいかなさそうな顔をしていますが。
それでも杖を振った瞬間にフワッと絨毯が舞い上がり、ゆっくりと移動を始めるので従姪達も驚いていますよ。
「もっと高くは飛べないの?」
「お外で飛べないの?」
「まあ、そういう気持ちもわかるけれどねぇ」
うんうん、そういう質問がくるのは知っていますよ。
「外で飛ぶのは、免許が必要だからねぇ」
「免許かぁ……」
あ、それで納得するのか。
それならそれで楽なので。
そしてどうや納得してくれたようで、従姪っ子達は、ノンビリと敷地の中を飛び回っていましたよ。雪と寒さは結界で防いでいるし、外で遊ぶ気満々だったらしく厚着もしているので問題なし。
まあ、その従姪っ子達の姿を動画で撮っている親戚一同、出来る事ならTwitterにアップするのは勘弁してください。
ほら、そんなことを話しているうちに、もうTwitterのトレンドにアップされていますよ。
『#魔導師の職権乱用』『#小さな魔法使い』『#魔法の絨毯』
ハッシュタグが色々ついているし、『魔法の絨毯の販売もあるかも』とか変な噂を立てるのはやめてください。
DMでの問い合わせも受け付けていませんよ。
まったく……。
〇 〇 〇 〇 〇
――1月5日
無事に正月三が日も終わり。
私は昨日と今日は特別休暇、明日は日曜日で普通に休日。
ですから、ノンビリとさせてほしいのですが、何故か朝から国際異邦人機関の沢渡さんがやって来ています。
「如月さん、実はお願いがあってやってきたのですが」
「魔法の絨毯なら販売しませんよ? そもそも素材が足りませんので量産が出来ませんから」
まずは先制攻撃。
どうせTwitterに上がっている動画を見て、問い合わせがあったのでしょう。
「え、そうなのですか?」
「そうなのですかもなにもですね……」
アイテムボックスからメモを取り出し、それを沢渡さんに提出します。
そこに記されているのは、魔法の絨毯を作るのに必要な素材の一覧。
どう考えても、地球で入手することは不可能なアルムフレイアの素材がズラッと並んでいます。
「……あの、これって如月さんが魔法で作り出すことは?」
「創造魔術は担当外です。そもそも、それは神の御業であり、錬金神ヘルマイネの加護が無くては不可能。私はその加護を得ていないので無理ですよ」
「れ、錬金術でちょこっとつくるとかも?」
「無理ですねぇ。また、外国のお偉いさんが日本政府に外交圧力をかけてきたのですか? そして異世界対策委員会が安易に引き受けて、沢渡さんに無理難題を押し付けて来たとか?」
まあ、異世界対策委員会については、ほんっっっっっっっっっとうに一言もの申したいところです。
「いえ、あそこは内部分裂していくつかの委員会に解体・再編されましたのでそれはありまぜんね。外務省からです」
「却下!! 私は、私の保有する素材を使って自分の趣味のために魔導具を作ることはあっても、それを他人に強制されて作るなんてまっぴらごめんです。アラブの皇子様の件は特例ですので」
「はぁ。それは仕方がありませんね」
「ええ、その通りです。だから、この件は諦めてください」
「了解しました。では、次の案件ですが」
んんん?
まだ何かあるのですか?
そう考えていると、何やら分厚い書類を取り出してテーブルの上に置きましたよ。
表紙部分には『国際FBグランプリ』と書かれています。
「これは?」
「はい。魔法の箒による国際レース、その概要書です。FB、すなわち『Flying Broom』、エフワンマシンでコースを爆走する国際F1GPのように、魔法の箒でレースをするということでして。そのためにですね、魔法の箒を生産できる錬金術師の育成機関を作りたいという各国からの要望が届きまして」
「はぁ……」
これはまたびっくり。
先日、従姪っ子達を乗せた魔法の絨毯、あの理論を使えば確かに一般人でも自在の魔法の箒に乗って空を飛ぶことは可能ですが。
ただ、それはつまり、誰でも乗れるということなので一律に同じスペックでのレースになりますよ?
箒の『魔力受信帯』に余剰魔力を注ぎ込んで、急加速を行ったりとかはできませんよ?
そう思って、書類を手に取ってさっと目を通しますが。
今までの無茶ぶりとは違い、理路整然と概要が書き連ねてあります。
「そうですね……不可能か可能かということについては、『限りなく不可能だけど不可能ではない』ということになりますが」
「それは、どういう事でしょうか?」
「この書類では、私が錬金術および飛翔術式の講師となり、大勢の人たちに講義を行うように記されていますが。私、自衛隊員ですよ? 『一般人の魔導具による飛行ライセンス』については、まだ法整備が終わっていないので。自衛隊を辞めると恐らく、私は飛行許可を失います。ということで、私の平和のためにこれは不可能です」
惜しい、実に惜しい。
もしもこれがアメリカなら、今の環境のままでこの案件を受けられたかもしれませんけれど。
残念ですが、ここは日本なんですよねぇ
「なるほど。では、魔法の箒の限定販売はいかがでしょうか?」
「このFBグランプリレースのためにですか? そもそも飛行許可は……ってああ、サーキット限定飛行ですか。私有地扱いで空を飛べる、高度制限も150m以下でてすか?」
「はい、その程度でしたら、可能ではないかと思いますが」
「う~ん……」
ぶっちゃけると、この一件でうまくいけば、法整備も進むかもしれません。
それなら、ここはちょっとだけでも協力的になってみるのもいいかもしれませんね。
「それではですね……明後日までに、テスト用に魔法の箒を作成してみます。それを実地でテストしてみましょう……ただ、あくまでもレンタルのみで販売はしません。場所は国際自動車連盟公認のサーキット……鈴鹿サーキットで、テストドライバーもプロを用意してください。くれぐれもどこかの議員に忖度して素人を用意しないように……国際ライセンス……そう、FIA国際Aライセンス保持者のみ、魔法の箒によるレースのテストを許可します!!」
どやぁ。
無理難題を押し付けているのは重々承知。
でも、国際レースにするというのなら、これぐらいは当たり前。
あ、オートバイの国際ライセンスもありですよね、どっちかというとそっちの方が近いかも。
ということで、そのあたりも補足しますと、沢渡さんは何故かウキウキ顔。
「畏まりました。では明後日の朝……10時に、鈴鹿サーキットでお待ちしています」
「え……あの、サーキットの使用許可とか、スーパーライセンス保有ドライバーの手配とかは」
「すでに協力して頂けるチームとは連絡はしてあるのですよ。では、よろしくお願いします」
――ドタドタドタッ
大慌てで帰っていく沢渡局長。
「あ、あれれ……今回は嵌められましたか? 嘘でしょ?」
無理難題をあっさりと引き受けられた件は……ああ、アルムフレイアでは何度かありましたね。
そもそも冒険者ギルドの郊外訓練場に簡易迷宮を作った時も、今回のように無茶な頼みをしたはずがあっさりと聞き入れられてしまいましたから。
それも、契約の精霊を立てての正式な契約です、後から断れる筈がないじゃないですか。
はぁ……簡易型魔法の箒、作りますかぁ。
そのためには、材料を集める必要がありますよね……。
裏庭に迷宮を作って、攻略するしかありませんか。
はぁ、上位レア素材の収集かぁ。
ドラゴンの巣系迷宮じゃないと無理なんですよねぇ。
できるかなぁ……。





