Take Me Home, Country Roads(よし、作戦完了です)
コンピエーニュ迷宮攻略戦。
最下層のダンジョンコアまで到達し、そこで夜魔キスリーラと邂逅。
なんだかんだとキスリーラを倒したと思ったら、まんまと逃げられましたよ。
確殺の刃の弱点である『命中した対象の現実体と精神体を破壊する』という部分を突いた的確な対応。
加えてそれを教えたらしい不死王リビングテイラーの存在。
現時点では、私は彼らの上をいかなくてはならず、今後はそれについての研究が必要なのだなぁと切実に思いましたよ、ええ。
「ふぅ……これで最後です。七織の魔導師が誓願します。我が手に四織の魔力膜を与えたまえ……我はその代償に、魔力1250を献上します。魔力膜っ」
――シュウウウウ
樹状のダンジョンコアに取り込まれた女性を魔力膜で包み込み、ゆっくりとコアから引き剥がしていきます。
その最中は私は無防備となるので、周囲を魔導編隊第一分隊の隊員でがっちりとカバー。
ええ、周辺に転がっていたダンジョンコアの欠片とか、蟲人の卵などは全て回収済みです。
こんな物騒なもの、フランス政府に渡せるはずがないじゃないですか。
ちなみにそのフランス陸軍の皆さんはといいますと、マルソー少佐の指示で周辺警戒と、最下層の調査を始めています。
また、医療スタッフにも連絡をして貰っていたので、私がダンジョンコアから救出した女性たちは次々と担架に乗せられて、フランス陸軍の護衛に護られながらダンジョンの外へ。
――ズルッ
そして最後の一人を救出したので、後始末を開始しますか。
『はいっ、彼女も急いでダンジョンの外へ。ヨハンナの元に連れて行っていただければ、あとは彼女が処置してくれますので』
『サー・イエッサー!!』
きびきびと救助者を運んでいく隊員たち。
そして私はアイテムボックスよりトラペスティの耳飾りを装着し、樹状に変化したダンジョンコアに触れます。
「如月3曹、これよりダンジョンコアの分解および除去作業を開始します」
「了解!!」
有働3佐に作業開始の旨を伝えてからも、いっきに魔力を練り上げます。
さて、有働3佐曰く、フランス政府からもサンプルの提出を頼まれているという事なので、今回は出血大サービスですよ、ええ。
「七織の魔導師が誓願します。我が前のダンジョンコアと、大地の繋がりを断つために、七織の光を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力150000を献上します」
両手に光を宿し、詠唱を続けます。
魔導編隊の隊員はナイジェリアで見たことがありますよね、この光景は。
でも、今回は譲渡対象を指定しない、無登録結晶を作り出す必要があります。
「力の継承。光を4筋。一つは私、如月弥生。残り3筋は無登録のまま、新たな核として生まれたまえ……ダンジョンコアよ、その形を変え、4つの核へと姿を変えよ……」
――キィィィィィン
樹状ダンジョンコアが光り輝き、4つの水晶柱に変化します。
そのうちの一つは綺麗なピンクいるに輝いていますが、残りの三つは無登録・無活性型のダンジョンコアです。
これを活性化させて新たなダンジョンを作り出すには、かなりの魔力を必要とします。
「ふう。二つは私が回収します。有働3佐、残りの内一つは日本政府へ、もう一つはフランス政府へ譲渡をお願いします」
『了解。では、こちらは我々が責任を持って、フランス大統領にお渡しします。それでよろしいですね』
有働3佐がマルソー少佐に進言します。
既に話は付いているので、マルソー少佐も静かに頷いています。
ということで私は有働3佐に二つの無活性ダンジョンコアを手渡すと、私はさらに床に手を当てて魔力瘤を確認します。
――ドクン……ドクン……
「あっちゃあ。予想通りとはいえ、これは早急に対処しないとなりませんかぁ」
うん、予想通り、魔力瘤が活性化しています。
このまま放置すると、ここからマナラインが伸びで新たなダンジョンコアを生み出す可能性がありますので、このまま魔力瘤も切除してしまいましょうか。
「如月3曹より有働3佐に進言します。このままでは新たなダンジョンコアが発生するので、その元凶を破壊します」
「フランス政府の許可は得ている、思う存分にやるように」
「りょ!!」
それじゃあ、トラペスティの耳飾りに意識を集中。
そこから細い魔力線を地下まで伸ばし、耳飾りと魔力瘤を接続します。
「七織の魔導師が申請します。トラペスティの耳飾りよ、かの魔力瘤を切除し吸収したまえ」
『拝命』
頭の中にトラペスティの意志が響きます。
その瞬間、耳飾りが虹色に輝くと、魔力瘤を全て吸収。
やがて輝きが収まるのを待ってから、耳飾りはアイテムボックスへ。
「有働3佐に進言します。作戦行動は全て終了、数日後にはこのコンピエーニュ迷宮は消滅します」
「了解。魔導編隊第一分隊はこれより地上へ帰投する。マルソー少佐、魔導編隊の任務はこれで終了です、後日改めて、フランス大統領府に向かい、回収したダンジョンコアを譲渡します」
――ビシッ
有働3佐とマルソー少佐がお互いに敬礼。
さて、これで任務は終わりですので、地上へ帰るとしますか。
それにしても……夜魔キスリーラ、これで諦めるとは思えませんけれど、まだ何か一波乱ありそうですよね。
〇 〇 〇 〇 〇
――メソポタミア・位相空間内パンデモニウム
巨大な王城、その謁見の間で、夜魔キスリーラは魔王アンドレスの前で跪いている。
「ご報告します。フランスという国での活動は全て完了。私が心血を注いで作り出した迷宮は空帝ハニーによって破壊されました」
にこやかに報告するキスリーラに、錬金術師ヤンと不死王リビングテイラーは頭を抱えそうになっている。
作戦が失敗した、それを笑顔で告げるなどあってはならないこと。
これから始まるであろう魔王の怒りがどれほどの者か、想像するに恐怖しかない。
だが、魔王アンドレスはキスリーラの方を見て、静かに話しかける。
「作戦失敗……ではないのだな?」
「はい。フランスのコンピエーニュ迷宮地下層において、迷宮核の量産は成功。第一次収穫物はすでにあの地のマナラインに放出してあります。あとはそうですね、この星のマナラインが細いので成長にどれほど時間が掛かるか分かりませんけれど、少なくとも100、この世界に迷宮が出現しますわ」
キスリーラの作戦は、実はすでに完了している。
第一次作戦である『迷宮核の大量生産と放出』は完了し、第二次作戦が空帝ハニーこと如月弥生に阻止されたのである。
だが、キスリーラはいかにも『第二次作戦がメインであった』かのように振る舞い、如月弥生にミスリードを促した。
その結果、樹状ダンジョンコアと蟲人の母体となった女性に意識が集中するように仕向けると、自身はやられたようにふるまいつつ、彼女を煽って冷静さを欠くように促したのである。
「な、なるほど……キスリーラの真の目的は、この世界のダンジョンの活性化でしたか」
「ヤンのいう通りですけれど、それだけじゃないのよねぇ」
懐から小さな卵を取り出すと、それをヤンに向かって放り投げる。
「うおっと、これは一体なんですか?」
「蟲人の卵ってところかしら、それもクインビーのね。あの迷宮でこっそりと育てていたのですけれど、巣が出来る前に突入されちゃったので、女王蜂だけ卵に封印して持ってきたのよ。繁殖力が凄いのはご存じよね?」
つまり、それをうまく使いなさいとキスリーラがヤンに促している。
その本意を理解したのか、ヤンも卵を懐に納めると、魔王の言葉をじっと待つ。
「では、しばし時の流れに身を任せるとしよう。キスリーラよ、迷宮が活性化したら、ただちにダンジョンスタンビートを誘発するよう。勇者といえどたかが4名、世界各地に同時に発生するダンジョンスタンビートを収める事などできまい!! ヤンよ、クインビーを繁殖させて手駒を増やせ。リビングテイラーよ、世界各地の死体を目覚めさせるがいい。この世界を、我が魔族の世界へと作り替えるのだ!」
「「「全ては魔王アンドレスさまのために!!」」」
四天王のうち3人が叫び、そして謁見の間から出ていく。
そしてこの場に居ない一人の元にも連絡が届けられたのち、いよいよ魔王軍の世界侵略作戦の火蓋が切って落されるのであった。





