Good Vibrations(勝利者などいませんよ!!)
迷宮攻略の許可を得るべく、マルソー少佐の通信の結果をじっと待っています。
訂正、じっとなんて待っていられませんので、魔導兵装をタイプAからタイプCに変更です。
ちなみにタイプAは、私が普段愛用している汎用型。
魔導スーツとローブ、帽子のセット装備です。
タイプBは近接戦も考慮したアサルト型、 ローブの変わりに、全身の各部位に魔導装甲を装着したタイプです。ちなみに対海魔戦で装着していたのがタイプBです。
そして今装着しているのはタイプC、見た目にはタイプAと変わりませんが、ローブの各部位に魔力増幅の宝石と抵抗力強化の術式がミスリル糸により刺繍されています。
また、私の魔力を感知し、常時魔力膜を形成していますので、そんじょそこらの攻撃程度は軽くはじき返します。
ええ、これは対術師用強襲型装備です。
相手がキスリーラなのですから、手加減なんて一切無用。
有視界に入った瞬間に、確殺の刃を叩き込んでも構いませんよね、っていうか叩き込みます。油断=貞操の危機なのですから。
『……はい、ミッションをサードセクションに移行します……サージェント・キサラギ、ボナパルト大統領よりダンジョン攻略の許可が出た!!』
「迷宮攻略作戦開始っ!!」
「りょ!!」
マルソー少佐の連絡、その直後の有働3佐の作戦開始命令。
これで怖いものはありません、何人たりとも、私を止めることはできませんよ、ええ。
「七織の魔導師が誓願します。我が手の杖に六織の刃を与えたまえ……我はその代償に、魔力一万二千五百を献上します。魔力刃っっっっっ」
――ヒュンッ
私の左手に握られている魔導杖、その表面に魔力よって刃が形成されます。
魔導師の数少ない近接戦闘用魔術、これを使って露払いをしつつ、最下層のキスリーラまで特攻します。
「如月弥生3曹、行きます!!」
――ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
地図は頭の中にある、それなら最下層までは自動運転で一気に飛んでいきます。
その間、私は杖を構えて襲い掛かる魔蟲の始末。
強度三程度の魔蟲は魔力膜にはじかれ、それ以上の強度を持つ魔蟲は魔力刃を振り回して大切斬、切断ではなく切斬です。
もうね、第二階層あたりからは急速進化した人型魔蟲も出現してきましたよ、それだけあのダンジョンコアが活性化しているっていう事でしょう。
『キュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!』
「うっさい!!」
――ズッバァァァァァァァァァァァァァッ
一撃で頭部や胴体を吹き飛ばす。
傷口から噴き出す体液が魔力膜に飛び散り、シュウシュウと音と煙を立てています。
「酸性体液……ふう、これって中級魔蟲……いえ、中級蟲人じゃないですか。あっのどスケベ魔族、人間をここまで改造するとはいい根性です!!」
人型魔蟲ではなく、人に産ませた魔蟲。
魔蟲が進化したのではなく、人として肉体を持って生み出された蟲。
それをキスリーラが作り出し、操り、そして私を襲ってくる。
蟲人は魔力濃度が高い人間を新たな苗床として求める。
つまり、私がここで求め得られる最適解っていうことでしょうね。
「それに……うん、ダンジョンコアとの繋がりもある。つまり、母体がダンジョンコアに取り込まれ、そこから生み出されて……って、あの樹になっているのはダンジョンコアじゃなく、蟲人の卵ですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
――ズッパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
目の前から飛んでくる巨大ムカデ、それを次々と惨殺して私は一気に第三階層へ。
そして中心に高くそびえたつ水晶のような樹木型ダンジョンコアと、そこにしなをつくってもたれ掛かっている夜魔キスリーラ。
『あらぁ、随分と早いですねぇ……あなたも苗床になる?』
「だ、れ、が、なるものですか。それよりも捕らわれている女性を開放しなさい、っていうか開放します、ついでに貴方もここでお別れです、ぐっばい夜魔ですわ……」
そう叫んでから、杖を両手に構えて詠唱開始。
「七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上します……確殺の刃っっっっ」
やがて魔導杖に死神の鎌のような刃が形成されると、私は魔法の箒で一気に間合いを詰め、キスリーラに向かって一撃を叩き込みます。
『あらぁ。いきなり必殺技なのぉ? でも、それって弱点があるのよねぇ』
キスリーラは私に向かって右手を向けると、クイッと指先を天井に向かって動かす。
その瞬間、彼女の目の前に『ヘラクレスオオカブトムシ』型蟲人が出現すると、その頭部の角で死神の刃を受け止めます!
「なんですって!!」
『だってぇ……リビングテイラーから聞いたのよぉ。確殺の刃は、命中した者の肉体も精神も破壊するって、そして一度ですべての魔力を失うので、囮を用意すれば恐るるに足りずってねぇ』
「あんのリッチめぇぇぇ、そんな遺言をのこして、最後まで迷惑かけるのですかぁぁぁぁ」
そう思わず叫んでしまいます。
するとキスリーラはニコニコと笑って。
『んんん~、リビングテイラーちゃんは生きているわよぉ、残念ねぇ』
「嘘でしょ? どうやって生き延びて……って、魔人核だけ逃がしていたのかぁぁぁ、ああ、失態、大失態ですよぉ」
――ズッバァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
一撃でヘラクレスオオカブトムシ君の頭部を分断、そこから勢いに任せて腰まで真っ二つに。
そして体液をまき散らして蒸発するヘラクレス君を飛び越えて、私はすかさずキスリーラに向かってドロップキック!
まあ、それはあっさりと躱されるのは分かっていましたけれどね。
『ふふふ……もう魔力はないでしょお? この後の手は残っているのかしらぁ?』
クイックイッと手招きしているので、今のうちにトラペスティの耳飾りを装着。
そして小さな声で、詠唱を開始します。
「七織の魔導師が誓願します。我が杖に、死の影を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力五万五千を献上します……確殺の刃」
ええ、さっきの詠唱はフェイク。
その証拠に、私の津にした魔導杖の先端から、長巻のような銀色の刀身が形成されます。
その瞬間に魔力を両足に集め、さらに全身に付与されている魔力増幅の宝石から魔力をバーニアのように噴射っ!!
――ドッゴォォォォォォォォォォッ
『え? それはなにかしらぁ?』
超高速で、確殺の刃を構えて飛んでくる私を見て、キスリーラの頬が引き攣っています。
よし、この間合いなら邪魔は入らないっ。
「さっきのはただの魔法刃ですよ~だ。詠唱だけで判断するのは魔族の弱点よねぇ……それじゃあ!!」
――ズッバァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ
一撃でキスリーラの首を吹き飛ばす。
その瞬間、まず下半身が霧のように散っていきました。
『あらあらあら……これは参ったわねぇ』
「……参ったもなにもないわよ、とっとと成仏して頂戴」
確殺の刃は消滅。
トラペスティの耳飾りをアイテムボックスに収納しつつ、足元に転がっているキスリーラの頭に向かってそう呟きましたが。
『そうねぇ。これで一勝一敗ってところかしら? 次は負けないからねぇ』
――パフォッ
そう笑いなから呟くと、霧のように散っていきます。
その散り方は紛れもなく肉体の消滅、そしてさっきの呟きから察するのは。
「ああっ、魔人核をどっかに置いてきたのかぁぁぁぁ。これだから夜魔はいやなのよ、いくら実体を用意しているっていうのよ」
魔力によって生み出された自身の複製体、そこに魔人核もコピーし、私の相手をさせていたっていうところでしょう。
もっとも、確殺の刃は複製体の魔人核から本体に伸びる魔力糸を伝って威力が伝達しているはずなので、本体も無事ではないはず。
最低でも肉体の崩壊は確定でしょう。
「はぁ。リビングテイラーは生きているし、キスリーラの本体もどっかにあるし……最悪だぁ」
トボトボとダンジョンコアに近寄りと、そこに触れて魔力を注ぎます。
そこの中に囚われている女性の数は六名、その一人一人の身体を魔力で包み込み、ダンジョンコアから引き剥がさなくてはなりません。
「……ふぅ、これは一人じゃ危ないですか。術式に集中する必要があるので、一旦、有働3佐たちにもここまで来てもらわないとなりませんね……」
急ぎ無線機のスイッチを入れると、有働3佐に連絡。
そして一時間後、この空洞まで魔導編隊第一分隊とマルソー少佐率いる特殊部隊が到着するのを待ってから、さっそくダンジョンコアから女性の引き剥がし作業を開始します。
はぁ、勝ったと思ったのに引き分けですよ、これは。





