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【書籍化】エアボーンウイッチ~異世界帰りの魔導師は、空を飛びたいから第一空挺団に所属しました~  作者: 呑兵衛和尚
Sixth Mission~フランス迷宮は、蟲蟲大行進

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Selfish(夜魔より怖いものはないようです)

 カツカツカツ……


 コンピエーニュ迷宮の入り口付近。

 夜魔キスリーラは迷宮の外に出るべく、入り口近くまでやって来る。

 時間は深夜2時、迷宮入り口外ではフランス陸軍のベースキャンプが警戒態勢のまま次の指示を待っている。

 キスリーラはその様子を透明化して眺めているものの、目の前に広がる結界を越えることが出来ぬまま、どうしようかと思案している真っ最中。


「ふぅん。この結界って、七織の魔導師・ヤヨイの張った奴よねぇ……」


 そう呟きつつ、そっと右手人差し指で結界をつつくと。


――バジッ

 結界に触れた指先に衝撃波が走り、チリチリと指が焼け焦げてしまう。


「う~ん。やっぱり、この結界は厄介よねぇ……どうしても中和できないじゃない」


 如月弥生とヨハンナの知る夜魔キスリーラの能力は、魔術中和能力。

 だが、実際の能力は【術式カウンター】であり、一瞬で対抗魔術を形成し、体表面に展開するというもの。

 それを魔力を一切消費せず、詠唱も行わないで自動的に展開していたので、二人には自分たちが放った魔術が中和・無効化されてしまっていると錯覚している。

 だが、事実はこのように、一旦発生して固定された魔術については、中和どころか無力化すらできない。


「まあ、別に迷宮入り口から出なくても、出口ぐらいなら幾らでも作れるからいいのですけれどね。全く、ヤヨイちゃんの結界術式といい、本当に地球人って色々なことを考えるものよねぇ……さて、そろそろ次の段階に進もうかしら?」


 シュウウウと自らの身体を霧のように変化させると、キスリーラは迷宮最深層へと一瞬で飛んでいく。そして巨大なダンジョンコアの真下に広がる地底湖に立ち寄ると、そこにゆっくりと体を浸していった。


――シュゥゥゥゥゥ

 やがてキスリーラの身体から、彼女固有の魔素が地底湖に浸透。

 それは大地を浸食し地下へと下降していくと、やがてこの地球のマナラインへとたどり着いた。


「うん……いい感じね。それじゃあ、マナラインの活性化でも始めちゃおうかしら? この世界のマナラインってすっごく細くて弱いけれど、時間を掛ければ大丈夫よね……さあ、ヤヨイちゃんの驚く顔が見られそうだわ」


 魔素が浸透した地下水を通じて、キスリーラもまたマナラインから魔力を吸収。

 そして呼吸をするように魔素をマナラインへと送り返すと、それはやがて地球全域へと広がり、ゆっくりとだが着実に魔力瘤に沈殿する。

 そして沈殿した魔素は凝縮し、小さなダンジョンコアの形成を始めた。


 〇 〇 〇 〇 〇


――コンピエーニュ総合病院・仮設ベースキャンプ

 魔導編隊は引き続き、病院敷地内での警備を担当。

 現在入院している患者たちの治療が完了した時点で、私たちの任務は完了し日本へと帰還することになるのですが。

 そもそも、夜魔キスリーラが目と鼻の先に居るというのに、それを放置してむざむざ帰っていいと思っているのですか、はい、帰りたいです。

 一連の報告は有働3佐を通じて日本の防衛省・統合幕僚監部にも届いているものの、現在は作戦行動を維持するようにという一言で終了です。

 ということで私は、有働3佐に進言して【対魅了魔導具】作成のため、駐車場の一角で日々、魔法陣を展開している真っ最中です。


『……それで、今の所どんな感じなの??』

「これが最新型の対魅了魔導具ですけれど。実験したくても、適切な相手がいないのですよ」

『適切ねぇ。それなら、弥生ちゃんの部下とかに頼んでみたら?』

「直属の部下はいないのですよ……皆さん同期ばかりですから」


 せっかく完成した魔導具、その実験をしたいのですけれど。

 モルモッ……もとい協力者がいないというのが、問題なのです。

 

『それじゃあ、私がなってあげようか?』

「いやいや、ヨハンナさんでテストしたとして、もしも魔導具が上手く作動しなかったら、その時は誰が魅了を解除できるのですか? 私は無理ですよ、神聖魔法適性皆無ですから」

『そうよねぇ』


 そうため息混じりに呟いたとき。

 ちょうど目の前を、大越3曹が歩いていました。

 うん、この際だから大越3曹でもいいか。


「大越3曹、ちょっと魔導具の実験に付き合ってくれませんか? はい、ありがとうございます」

「ちょっと待てや、まだ返事も何もしていないんだけれど? まあ、いいけどよ……」


 ということで実験体一号をゲットです。

 一通りの説明を行った後、ブレスレット型の魔導具を大越3曹の右手首に装着。

 そして万が一があっては大変なので、椅子に座って貰い手錠で手足を拘束しました。


「はぁ……なんで俺は、フランスまで来て椅子に座らされた挙句、両手足を拘束されているのやら……」

「如月3曹の魔導具実験なのだろう? 頑張り給え」

「了解です!!」


 いつの間にやら、噂を聞いて有働3佐も来ました。

 では概要だけ説明して改めて許可を取ったのち、いよいよ実験です。


「では行きます……暗黒魔術の書(グロウ・ソトホース)を召喚。そして七織の魔導師が、暗黒魔術の書(グロウ・ソトホース)に誓願します。我が前のものの心を奪い、使役させ給え……我はその代償に、魔力113000を献上します。魅了の熱視線っっ」


――キィィィン

 私の体内の魔力が、暗黒魔術の書によって書き換えられていきます。

 やがてそれが両目に集まり、そして再び全身に広がっていきます。

 瞳孔は縦長に細くなり、口元には犬歯がゆっくりと伸び始めました。

 全身のバランスもいつものボン、チッョトキュッ、ボンからバボン、キュキュッ、ボムッと変化し、背中から翼が、腰から尻尾が形成しました。

 ええ、この魔術は暗黒魔術の書により、自らの肉体を【サキュバス】へと変貌させる魔術です。


「それじゃあ、大越3曹、覚悟してくださいね……魅了の吐息(チャーム・パーソン)っっっ」


――チュッ

 軽く投げキッス。

 その瞬間、大越3曹の右手首のブレスレットが、一瞬で砕け散りました。

 

「はい、ヨハンナさん、よろしく~」

『偉大なる創造神ゲネシスよ、その力の一端を、私にお貸しください……解呪(ディスペル)っ』


――バッギィィィィン

 ブレスレットが砕け散り、私に対して欲望の目を目けてウガウガと椅子に座って暴れていた大越3曹。ですが、ヨハンナの魔術により、私が仕掛けた魅了が解除されました。


「ハッ、俺は一体なにを……って、うわ、如月3曹、すっげぇエロいんだけれど」

「やかましいわ……はいはい、解除解除」

「ちっ」


 ん、今、わたしが解除するって話した瞬間、舌打ちした人がいましたよね、どこの隊員ですか?

 闘気修練仕掛けますよ?

 とまあ、そんな感じで私の変身も解除。

 そもそも暗黒魔術って、自らの体内の魔力を変換し、様々な種族に変化し力を行使する秘術です。

 正確には、『暗黒魔術を行使するために適切な種族に進化する秘術』であり、より自容易に変化する場合は、あらかじめ解除キーワードを設定する必要がありまして。

 なお、サキュバスモードになってしまうと、その時点で私は夜魔キスリーラの配下になってしまうので彼女相手にはこの手は一切使えません。


「ということで、空挺ハニーは元の人間に戻りましたよ……と、やっぱり魔石の強度問題ですかぁ」

『そうみたいね。でも、そうなるとやっぱり、ダンジョンコアを核につかって魔導具を作るしかないわよ?』

「やっばりそれしかないですよねぇ。ダンジョンコアから削り出して核に使うとなりますと、制御が大変なのですけれど……背に腹は代えられませんか」


 はぁ。

 またダンジョンコアのストックが減りますよ。

 それに地球産のダンジョンコアですと、含有魔力が乏しくて幾つも融合させないとなりませんからねぇ。かといって、自分のコレクションは使いたくないし……はぁ。

 悩ましいですねぇ。


 〇 〇 〇 〇 〇


――フランス政府機関

 フランス大統領、フェリックス・ボナパルトは執務室で頭を抱えていた。

 コンピエーニュ迷宮と命名された迷宮、その周辺地域の調査及び魔蟲の殲滅を日本の魔導編隊に依頼した結果、予想以上に早く殲滅が完了したのである。

 そののち魔導編隊は魔蟲によってもたらされた伝染病の隔離病院周辺の警備に移行、コンピエーニュ迷宮の調査が再開されることとなったのだが。


 届けられた報告では、フランス陸軍の迷宮突撃部隊が全滅。


 幸いなことに迷宮入り口は七織の魔導師により結界が施され、外部に魔蟲などが出てくることは無かったのだが。内部は魔蟲がどんどん増えており、いつスタンピードが発生するかわからないという 報告まで届いていた。


「……やはり、国際異邦人機関に依頼し、迷宮最下層のダンジョンコアを破壊して貰った方が良いのではないでしょうか。もしくは、ナイジェリアでのダンジョンコアの書き換えをおこなうか、どちらかです」


 秘書のオーギュスト・デオンはグイッと眼鏡の位置を治しつつ、淡々と説明を続けた。


「破壊なら簡単だろう、彼らはその道のプロなのだからな。だが、書き換えとなると、異邦人の力を借りなくてはならない。もしもそうなった場合、迷宮から得られる利権・資源を報酬として支払うことになる……ああ、迷宮など、できなければよかった……」

 

 コンピエーニュ迷宮が出現したときは、もろ手を挙げて喜んでいたボナパルト大統領。

 だが、今となっては迷宮を破壊しておいた方が被害は少なかったと、後悔していた。

 

「大統領、ものは考えようです。資源を支払うのは、別に構わないのではないでしょうか。迷宮管理についての協定書を、国際異邦人機関に提出すればよいのです。そして適時、報酬を支払うことにより異邦人機関にて管理を行って貰う。迷宮の独占ではなく寡占。異邦人ではない魔導師、確かイギリスにはそれらの研究機関があったかと思われますが」

「……ふざけるな。今更、イギリスに尻尾を振れというのか」


 怒り心頭、秘書の言葉はボナパルト大統領の逆鱗に触れた。

 だが、それでも動揺することなく、クイッと眼鏡を上げてオーギュストは話を続ける。

 

「尻尾を振る、違います。尻尾を振らせるのです。『迷宮を共同管理してほしい』ではなく、『管理の一端をやらせてほしいか?』です。立場は迷宮を所持している私たちが上、そのうえで……迷宮という無限に資源を生み出す金の卵を使えばよいかと」

「要は、考え方……か」

「もしくは、勇者にダンジョンコアを破壊して貰うか……では、わたしからの提案はこれまでという事で。失礼します」

  

 一礼して部屋から出るオーギュスト。

 そして秘書室へと戻ると、椅子に座って意識を失っている『本物』のオーギュストの額に口づけする。


「……うん、これでよし。さっきの話の内容は全て貴方がおこなったこと。そのうえで、次のステップに進んで頂戴……そうね、時間を引き延ばして。世界各地にダンジョンの芽が芽吹くまで。だいたい一年ぐらいでいいわ……それまでは、ダンジョンは破壊しないこと」


 そう告げて、オーギュストの姿は夜魔キスリーラへと変化する。

 別に、迷宮の入り口から出入りする必要はない。

 彼女はマナラインへと自らを溶け込ませ、また別の場所で噴き出して体を再構成しただけ。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。


・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。



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