Thriller(凍りつくように 麻痺してください)
リビングデッドに乗っ取られ、私たちを攻撃して来たイギリス陸軍の主力戦車・チャレンジャー2。
それが、まさかまさかの攻撃を開始、私たちの搭乗しているの96式装輪装甲車に向かって砲撃を開始しました。
ええ、まったくの想定外でしたよ、こんなことが起こるだなんて、一体誰が予想をしますか!!
いくらリビングデッドは生前の知識を有している、それらを使って戦術的な動きが行えるとは分かっていましたけれど、それは異世界での話。
地球で発生したリビングデッドが、まさかここまで科学兵装を自在に操ってくるだなんて、考えてもみませんでしたよ。
「七織の魔導師が誓願して魔導積層装甲っっっっ」
――ガッギィィィィィン
主砲の直撃など受けて堪るものですか。
普段の防御結界ではなく、装輪装甲車の周囲に展開する魔力と闘気の積層装甲です。
これで対魔法、対闘気二つの防御力を持つだけでなく、衝撃、炎、雷撃の3属性に対しての完全耐性を得ることが出来ます。
「有働3佐、ここはお任せします!」
「待て如月3曹、どうするつもりだ!」
「あの戦車を止めます!」
そう叫んだ後、私は装輪装甲車の上部ハッチから外に出てアイテムボックスより魔法の箒を取り出します。
空挺ハニーモードではなく、純粋にパワー勝負。
ええ、いくら敵対勢力が使おうが、リビングデッドが操っていようが、私たちは戦車に向かって『近代兵器での攻撃』を行うなんてことはしません。
人道支援こそが、今回の派遣任務。
敵性存在によって囚われている民間人の救出、それが任務。
だから、リビングデッドは攻撃してよい……って、良い訳がないです。
「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に二織の雷雲を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力2800を献上します……麻痺雲っっ」
――ビシャァァァァ
こちらに向かって走って来るチャレンジャー2を包むように、麻痺雲を召喚。
これでリビングデッドの運動神経を麻痺させることが出来ればよし。
全身に浸透する麻痺の雷撃、それは疑似魔導器官まで到達すると、その術式を一時的に麻痺させることができるのです。
「あのカンターレ領の惨劇から、私たちは学んで来たのですから……ええ、これであなたたちのは動くことはできません」
この麻痺雲、実は威力の調整が効かず、人間などの生命体に使用した場合は心臓が停止したり脳神経が焼き切れたりするというトンデモない術式なのです。そもそも、暴走した巨大魔獣制圧用の攻撃術式であり、人間大の生物には使うなと師匠からも厳命されていました。
でも、あの惨劇の場では、使わざるを得なかったのです。
そして、その結果、疑似魔導器官を麻痺させることに成功したのですよ。
麻痺雲の雷撃は、疑似魔導器官に対して指向性を持つだなんて、だれが想像できるものですか。
だから、今は使います、周りに人がいないから。
もしも要救助者が近くにいようものなら、使える訳がありません。
それに……。
――ドッゴォォォォォォォッ
「七織の魔導師が誓願して魔導積層装甲っ」
麻痺雲により停止したのは二台だけ。
残り一台はレジストしたらしく、再び砲撃を開始しました。
「やっばり、金属部分に吸収されて威力が落ちていますよね。でも、それならそれで!!」
エルダースタッフを構えて、再び詠唱開始。
「七織の魔導師が誓願します。我が手の前に二織の雷雲を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力3500を献上します……麻痺雲っっ」
先ほどより魔力を上乗せして、残りの一台に向かって麻痺雲を発動。
こんどは効果があったらしく、チャレンジャー2も停止しました。
うん、電装系まで焼き切ってしまったようですね、最初からこの威力で打てばよかったですよ。
「ふう……こちら空挺ハニー、暴走戦車三台は戦闘停止状態。引き続き指示をお願いします」
胸元の無線で有働3佐に通信。
すでに建物の方角からは銃撃音は聞こえてきません。
無事に内部制圧し、要救助者を確保していたら良いのですが。
『シキツウより空挺ハニー、イギリス陸軍より施設敷地内に展開しているリビングデッドの掃討および生存している隊員の救助依頼がある。いけるか?』
「りょ!!」
いちいち了解だなんて言っていられません。
了、もしくはりょ、で十分です。
時間にして一秒も変わりませんが、任務によってはそのわずかな時間すら惜しいことがあるのです。
ええ、今がまさにそのタイミンクですから。
まだ北方ゲート付近では交戦状態が続いています。
そちらの制圧からやってしまいますか、ええ、ここからは手加減なんてできませんからね。
………
……
…
――北方ゲート付近
基地施設内の明かりの下。
幾多のリビングデッドが徘徊しています。
その手には必死に抵抗を続けているイギリス陸軍隊員姿や、すでにこと切れて首筋から血を流している隊員の姿まで見えています。
「や、やばいっ!! こちら空挺ハニー、北方ゲート付近の交戦状態に突入、一部リビングデッドは基地施設外にあふれ出た模様……そちらを優先して行動不能状態にします」
『シキツウより空挺ハニー。民間人の安全を第一に活動を』
「りょ……ということで七織の魔導師が誓願します。我が手の前に四織の積乱雲を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力12500を献上します……雷撃雲っっ」
先ほどの麻痺雲の強化版を発動。
頭上に大きく召喚した積乱雲より、北方ゲート付近に展開しているリビングデッドめがけて雷撃を叩き込みます。ええ一時的な行動不能ではなく、最悪は永久に行動不能になってもらいます。
ちなみにこれはターゲッティングが可能なので、イギリス軍兵士が捕まっている奴はノーマーク。
「続いて七織の魔導師が誓願します。我が前に一織の魔法の矢を遣わせたまえ……我はその代償に、魔力250を献上します……束の矢っっ」
――シュシュシュンッ
私の目の前に展開した無数の矢、それを視線誘導で兵士を捉えているリビングデッドの心臓よこめがけて飛ばします。これも麻痺効果を持ちまして、筋肉繊維を直接麻痺させる魔法です。
まあ、どの魔法も一長一短、これは視線誘導型なので私が見たターゲットにしか飛ばせません。
でも、今の状態ならこれは有効。
「よし、これでゲート付近の制圧は完了……と、つぎっ!!」
魔法の箒をゲート外に向かわせて、街道に広がりつつあるリビングデッドの頭上を追い越し、彼らの前に回り込んで着地。
「市街地……電線あり。雷撃系魔術は使えません、そもそも、広範囲魔法は使用禁止……ということは、使える手は限られてきますよね」
そう呟いた瞬間、リビングデッドたちが私に向かって高速移動を始めました。
ええ、彼らの欲している『濃厚な魔力』、それは私から最も発していますからね。
でも、そうくるのも想定内です。
――スッ
両手にナックルガード付きサバイバルナイフを構え、体内から発している魔力を闘気に変換。
「さて。それじゃあ久しぶりに、近接戦でお相手しますよ……」
サバイバルナイフが青白く輝くと、彼らの視線もそちらに釘付けになりました。
それじゃあ、掛かってきなさい!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





