The Weight(世界各国、特色があるようで)
苫小牧にて、南雲皐月さんとの面会を終えたのち。
私と大越3曹の二人は、彼女が所属している『迷宮探索部』についての調査を始めました。
まあ、基本的に高校の一部活に企業が干渉する事はないので、ここは迷宮探索部の顧問及びその関係者についての調査がメインとなったのですけれど。
「あ~、この顧問についてですが、教育委員会経由で調べてみたところ、外部顧問の可能性が高いですね。一応、名目上の顧問は駒澤大学附属苫小牧高等学校の教員ではありますが、この人は別の部活も兼部で監督していまして。実質は探索者組合から派遣されている人物が監督業務を行っているようです。こちらがそのデータですね」
「どれどれ……名前は後藤晴臣、北海道の重工業メーカー【北洋重工】の社員で、迷宮管理部所属の課長……。勤務内容は国際迷宮管理機関・日本支部の外郭団体である探索者組合に出向し、探索者が回収してきた素材・資源を必要に応じて登録企業に分配する……と。それで、北洋重工に分配されている資源とかの比率は? 後、どの分野の資源が出回っているのか」
私と大越3曹は北千歳駐屯地の【仮設・第1空挺団魔導小隊詰所】にて調査結果を精査している真最中。
本来なら北部方面隊に戻ってやればいい作業なのですが、必要に応じて苫小牧に出向く必要があると予感したので、急遽、北千歳駐屯地内の空き部屋を一室借りて詰所として利用させてもらっています。
ええ、しっかりと北部方面隊司令である畠山陸将の許可を貰い、というか陸将に頼み込んでねじ込んでもらったのですけれどね。
おかげで任務完了後には、北部方面隊用の『二式・魔法絨毯』を急遽作り配備しなくてはならないのです。まあ、取引といいますか、北部方面隊の訓練用という事で制作する事になったのですけれどね。
「主にレアメタル系が多いです。他企業への流出量とは桁が一つ違いますが……ルール的に問題はないようですね。後は一部の発掘魔導具も回収されていますが」
「へぇ、回収魔導具まであったのですか。それで、どこの迷宮から回収されたものなのかしら? 北海道の迷宮ということなら、行ける場所は4か所だけれど。でも、どこも苫小牧からは離れすぎていると思うんだけれど」
地図を広げて、現在の日本国内の迷宮の場所を確認。
ちなみに北海道にある迷宮は全部で4か所、駒澤大学附属苫小牧高等学校の迷宮探索部が校外実習として足を延ばしているのは二か所、【函館五稜郭大空洞】【釧路湿原迷宮】。
それ以外に、今年度は青森の【十和田湖畔迷宮】へ向かう予定が立てられている。
月に一度の校外学習では函館五稜郭大空洞へ、そして半年に一度は釧路湿原迷宮へ向かっている。
南雲皐月の活動はバックアップ、フォワードが使用した武具の修復を行っているのだが彼女の能力では、複雑な装備の修復は不可能。
もっとも、国内迷宮においての銃器および刀剣類の使用許可を得ているのは極僅かの為、大抵は単純武器(木刀や杖といった非刃装備)しか所持していない。
そしてそれらの装備では、迷宮第一層程度でしか調査を行う事が出来ない。
現行、どの迷宮でも第三層に到達したのはごく一部の自衛官や猟友会のメンバーのみ。
尚、非公式記録では、第1空挺団魔導編隊は第十二層に到達、如月2曹は単独で北海道の迷宮全ての最下層まで到達しているという。
「……函館の五稜郭大空洞が鉱物資源の採取可能な迷宮で、第二層でレアメタルが採掘されている。そして大陸の諸国家は迷宮から採取される資源は全て国連で管理するべきと提唱。まあ、自国の売りであるレアメタルがいともたやすく手に入れられるという状況では、そう声高に叫ぶのは無理もないというところですか」
「そんなところでしょうね。それで、表の情報については分かったけれど、裏情報はあるのかしら?」
そう大越3曹に問いかけると、案の定、ニイッと笑って別のファイルを取り出した。
「調別から届けられた情報です。イギリスとアメリカ、中国の秘密機関が暗躍をしているという情報です。イギリスは秘密結社、アメリカは魔族信奉者、そして中国は中央統戦部が動いています。どれも迷宮にて手に入れられる『あるもの』を求めているとかで」
「あるもの? それってなに?」
「迷宮攻略者が手に入れられる『奇跡のオーブ』。それに願いを告げれば、どんな願いも叶えられるとか? それって本当ですか?」
あ~、奇跡のオーブかぁ。
異世界アルムフレイアでは噂されていたものだけれど、それってつまりは『迷宮核』の事を指すんだよなぁ。
だって、迷宮核を手に入れられれば、その迷宮の支配者になる事が出来る。
つまり、迷宮が生み出す事が出来る者ならばどのようなものも手に入れられるという事で、『奇跡を生み出すオーブ』とか『願望の宝玉』っていう名前で伝わっていたんだよなぁ。
ちなみにだけれど、地球産迷宮を完全攻略して手に入れられるものについては、私は分からないとしか言いようがないんですよ。
どちらにせよ、それを個人ではなく組織が欲している理由ってなんでしょうねぇ。
「本当といえば語弊があるかもしれないけれど。ある程度の願いは叶えられる。ただし、物理的な範疇でね。何でも叶う奇跡なんて、魔術にしか存在しないし、そもそもそれでも不可能な事は結構あるのよ」
「でも、そういった能力が得られる可能性もあるっていう事ですよね? 今の地球産迷宮を攻略すると」
「まあ、天性覚醒で得られる能力に、そういったものがあったとすればの話でしょ? 現時点で公開されている情報では、南雲さんの『修復師』以外だと魔術素養とか闘気素養、後はアルムフレイア式コンバットオプションのようなものぐらいじゃない?」
手元に届けられたリストでは、そういった能力をひとまとめにしたものもある。
特段、気にする必要はないんだけれど、気になったのは『アルムフレイア型の天性覚醒』であって、地球本来の能力覚醒がまだ報告されていないという事。
完全に地球産の迷宮だというのなら、説話や伝承に則った能力に覚醒した人がいてもいいと思うんだけれど。
「それがですね……こっちを見てください」
大越3曹が手渡してくれた極秘資料。
それを見てみると、何かとんでもない能力が書き記されているのですが。
「イギリスの未登録覚醒能力・現代魔術、近代魔術、オカルティズム……はぁ。なんだかイギリスらしい覚醒能力ですよね」
「ええ。それと魔導書の発掘報告も多数。そしてそれを使いこなしている現代の魔術師がいるという噂ですが」
「……現代の魔術師って、ライトノベルでもあるまい……し? はぁ? このアメリカの覚醒能力ってどういうこと?」
発火能力者、念動力、精神感応etc……
「そこに記されている通りですね。アメリカは超能力覚醒者が多数確認されています。そのどれもが、国際迷宮管理機関に報告されていません。すべて探索者組合で確認されているものの、それ以上のデータが秘匿されていたそうです。あ、イギリスのはMI5が、アメリカのはCIAの調査報告だそうで」
「そんな極秘情報、よく入手できたわね……」
「国際異邦人機関経由で、第1空挺団魔導編隊あてに届けられた情報です」
「つまり、『情報はくれてやるから、お前も協力しろ』っていう事ですか。はぁ……めんど」
「それで、中国の覚醒能力は『仙術』としか記載されていなくてですね」
知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
そんなおとぎ話でもあるまいしって言いたいところですけれど、私の存在がもうおとぎ話を通り越して実在する魔導師だからなぁ。
いてもおかしくないのかぁ。
でも仙術っていうことは仙人だよね、その域に達することなく能力が使えるっていう事かぁ。
あたしは詳しくないんだけれど、兄貴ならいろいろと知識は持っているよね。
「もう、おなかがいっぱいだよ。それで、そんな組織が暗躍して、そんな能力者が各国にいて、あとは?」
「その3つの組織の諜報員が、この北海道にて活動しているしているそうで。それも、苫小牧に」
「目的は、南雲さんか。はぁ、使い魔でも召喚して護衛に付けるしかないかぁ」
「そういうことです。こればっかりは、俺たち闘気修練者では無理な案件ですので」
はいはい。
それじゃあ早速、使い魔を召喚しますよ。
とはいえ、召喚術については私も独学でしてね。
契約できる魔導書が遺失されているので、異世界アルムフレイアでも『召喚術』を一つの織として体得している人はいなかったのですよ。
例外はあのわんこ魔王の『ドラゴンサモナー』。
ひょっとしたら、あいつが世界でただ一人の召喚師だったのかもしれませんね。
まったく、ここに来て高難易度な魔術を行使するとは思っていませんでしたよ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





