Time is on my side(勧誘という名の説明会ですね)
――北海道苫小牧市・美園町
ピュゥゥゥゥゥゥ
春だというのに風が冷たいのは、北海道あるあるという事で。
地元民でも寒いと思うのが、この【試されまくった大地】、北海道。
でも、この言い回しが嫌いな人って結構いるのですよ。
なんていうか、試されているっていうのが馬鹿にしているって。
その意見については私も賛成でありますが、でも【試される大地】っていう言い回しは嫌いではありません。わかりやすくていいですよね。
「……おおう、まだ肌寒いですねぇ」
「まったくその通りで。それで如月2曹、俺達の目的地はどのあたりで?」
目的地は、例の【修復師】の女子高生が通っている高校。
ええっと、苫小牧市立……じゃない、駒澤大学附属苫小牧高等学校ですね。
超が付くほどの難関校であり、しかもスポーツにも力を入れている、いわゆる文武両道を地で行く高校です。
「あ、その辺りかな? 確か面会の申し込みは終わっているんだよね?」
「ええ。そのあたりは習志野駐屯地の広報課が終わらせてある筈です。本日の担当は出口教諭、面会予定時間は1430《ヒトヨンサンマル》です」
「了解。それじゃあ、そろそろ向かいましょうか」
コンビニの駐車場に『魔法の絨毯』を横付けし、のんびりとコーヒーを飲んでいます。
いえ、コーヒーだけじゃなく肉まんも食べましたよ、写真撮られました。
ついでに通りすがりの小学生に『魔法の絨毯に乗せてください』といわれたので乗せてあげましたよ、ついでに写メも撮りました。
このあたりは広報の一環として、そして地域住民とのふれあいの一環として推奨されています。
まあ、『課業中にコンビニによってコーヒーを飲んでいるとは何事だ』って通報する方も居ますが。
コーヒーぐらい、飲ませろ
この一言です。
あんたらは営業中にコンビニに寄ってコーヒー飲まんのかって文句を言いたくなりますけれど、グッと我慢です。だって、ここでそんな事を叫ぶと『貴様ら公務員の給料がどこから出ているのか知っているのか?』って怒鳴って来ますから。
はい、私たち自衛官の給料は防衛省の予算からです。
決して、自衛官だという事だけで突っかかってくるクレーマー的な市民が払ってくれているわけではありませんので。
あ、その防衛省の財源は税金だろうという言葉はいりませんので、余計話がこんがらがってきますから。
という事で無事に駒大苫小牧に到着し、受付を終えて応接室へ移動です。
「初めまして。駒大苫小牧で現国の教諭を務めています出口巌です。まもなく南雲も来ますので、しばしお待ちください」
「はい。それにしても、まさか教え子にとんでもない能力が眠っているとは出口教諭も思っていなかったのではないですか?」
「まあ、防衛省からご連絡を頂いたときは、そんなに重要な事とは考えていませんでしたが。確かに、細かい説明を受けた時は驚きましたね」
――コンコン
などという、簡単な雑談を行っている内に、扉をコンコンとノックする音が聞こえてきました。
「入りなさい」
「はい、失礼します。南雲皐月、入ります」
そう告げて室内に入ってきたのは、よく言えば『純朴な美少女』、悪く言えば『パッとしない少女』っていうところでしょう。でも、横に座っている大越3曹の鼻の下が伸びているというのは、彼女はそれなりに美少女なのでしょう。
「さて。それではここからですが、私は同席していて大丈夫でしょうか?」
「そうですね。個人的な質問などを行うと思いますので、出来れば席を外していただけると助かります」
「わかりました。では、後程」
そう告げて出口教諭が外に出て行きました。
さて、私の目の前の美少女ちゃんは緊張のせいか目がキョロキョロと、視線が定まっていない様子です。
「あ、あの。七織の魔導師・如月2曹が私のような特に取り柄のない生徒にどのようなご用件でしょうか?」
「まあ、簡単に説明しますと。あなたの能力である『修復術式』に興味があってここまで来ました。まずは、こちらの資料に目を通していただけますか?」
そう告げて彼女に手渡したのは、私の手作りパンフレット。
修復師というものがどういうものなのか、まずはそれを知ってもらう為に作ってきました。
それを真剣に見てもらっているうちに、こちらも色々と準備を開始。
魔力測定用の水晶球、魔力増幅用の魔導具、国選魔術師登録用の書類一式、可能ならばということで自衛隊の手引書、そしてぶっこわれた様々な道具類。
それらを鞄から取り出して机の上に並べ終わった時、ようやく彼女も目の前に並んでいる物品に興味を持ってくれたようで。
「あの、これって魔力測定用の水晶球ですよね? 如月2曹が開発して、現在は国内全ての迷宮の入り口にある探索者組合に設置されているっていう」
「そそ。それじゃあまずは、あなたの魔力を測定します。大越3曹、記録をお願いします」
「イエス・マム」
まあ、大越3曹の返事については保留。
個人的にはそれでもいいとは思いますが、ここで使うのはどうかなぁ。
ちなみに習志野や富士演習場で使うと怒鳴られます、基地内一周走らされます。
その言い方は軍隊式であり、自衛隊では使うなと。
ということで測定を開始しましたが、ちょっと予想外ですね。
――ホワァァァァッ
測定用の水晶球が白く輝いています。
「むう……魔力適性値12.8……」
「はぁ?」
まあ、大越3曹が驚くのも無理はありません。
そして驚かれた南雲さんもびっくりして手を放してしまいました。
「あ、大丈夫、予想外の数字で驚いただけだから。ということで……」
測定結果を示すカードを取り出し、そこに彼女の魔力と魔力適性値を焼き付けます。
「はい、これがあなたの魔力適性値。12.8は日本人としても極僅か、というか、多分だけれど国内で3人目の魔法使い適性者ね、おめでとう」
「え……ええええええええ!!」
まあ、驚くでしょうね。
私が陸上自衛隊に入隊してから、過去何十回と全国各地で魔力適性値の検査を行ってきましたから。
そして過去のデータでは、魔力適性値1.0以上は0人。
小笠原1尉が覚醒して現在は30.0をキープしている状態での、この12.8は天才的な才覚を有しているという事にほかなりません。
そして目の前の南雲さんも、『私も魔術師に……てへへ』とか『将来設計の見直しと進路変更も……』といった具合に盛り上がっています。
「さて。次は貴方の適性について。ちょっと失礼します。七織の魔導師が誓願します。我が目に五織のレンズを遣わせたまえ……我はその代償に、魔力1250を献上します。鑑定眼鏡の発動要請っ」
――シュンッ
一瞬で私の右目に『スチームパンク風片眼鏡』が装着されました。
「では、七織の魔導師として、南雲皐月の鑑定を開始します……」
『ピピピッ……南雲皐月、天性【修復師】、魔法の才覚、圧縮術式、魔力膜、対外魔力循環』
ほほう、ほうほう。
魔法使いの才能、あるじゃないですか。
それじゃあ、とっとと取り込んでしまいましょう。
「あ、あの、どうでしょうか」
「修復師としての才能はあるようですね。ちなみに、この能力に目覚めたのはいつ頃? そもそも迷宮に入るために【探索者組合】に登録する為には若すぎるし。あのモノリスの鑑定は受けたの?」
「はい、私はこの学校の『迷宮探索部』に所属していまして。部活動の一環として迷宮第一層での調査活動の最中に覚醒したのではないかと」
「ふむふむ。では、これを直せるかしら?」
そう告げて渡したのは、割れたマグカップ。
「やってみます……それっ」
――シュウウウウウウウウウウウ
テーブルの上に置いてあるマグカップを包むように手をかざし、魔力を放出しています。
もう、この時点で才覚ありですよ。
しっかりと、彼女の体内を循環している魔力が手のひらから放出されているのを感じます。
そして割れたマグカップは静かに寄り添い、やがて何事もなかったかのように接合しました。
割れ跡もなにもない、完璧な修復術式です。
「さて、もう一度確認して……ああ、魔力枯渇一歩手前ですか」
彼女の場合、体内の魔力のみで修復を行っているのですから、そりゃあ魔力枯渇状態になるわけですよ。
「すみません、もう頭の中がフラフラで」
「ですよね。では、こちらをお飲みください」
そう告げて渡したのは魔法薬の小瓶。
魔力回復薬が入っていまして、これ一本で彼女の体内魔力なら一発で回復します。
「はい……では失礼して」
グビッグビッと飲み干した途端、彼女の表情がシャッキリとしました。
後二日は徹夜出来る、そんな廃ゲーマーのような気合も感じます。
「こ、これ、すごいです。私はいつも、修復魔法を使ったらぐったりして保健室で休んでいるのですよ」
「まあ、そうでしょうね。そうならないための方法とかもありますけれど、まずは防衛省所属陸上自衛隊第1空挺団魔導編隊副隊長として、あなたを魔導編隊に勧誘したいところですが」
「……えええええええええええええええ」
また、そんなに驚かなくても。
と思いましたけれど、今の魔導編隊ってとんでもなく人気が高い部署なのですよ。
そもそもここに所属出来れば、日本国内の全ての迷宮に入る為のライセンスを手に入れる事が出来ます。
という事で、国内の様々な企業が、魔導編隊所属の自衛官を勧誘しているそうですよ。
『自衛隊を辞めて、わが社に入りませんか?』って。
そうなると自衛隊予備役として登録できるので、実質銃器を取り扱う事も出来ますから、企業としては喉から手が出る程欲しい人材なのでしょう。
「ま、まあ、今日はすぐに返答をしなくていいわよ。では、本日の用事の一つ目。こちらが『国選魔術師』の登録申請書なので、これに必要事項を記入してポストに投函してちょうだい。これは貴方のみを守るための、国のお墨付きみたいなもの。推薦人は私、『七織の魔導師・如月弥生』が行いますので」
「は、は、はいっ、末永くよろしくお願いします」
「あはは……」
嫁取りじゃないんだから、その言い方はやめなさいって。
「二つ目ですが、これは自衛隊への勧誘なので、まずはパンフレットに目を通すだけでも。さすがに入隊してすぐに魔導編隊所属という事にはならないと思うけれど、そこは努力と根性で頑張ってくれると嬉しいかな」
「ま、前向きに検討します」
「そして三つ目、七織の魔導師・如月弥生が、あなたを新たな弟子として育成したいと思っています。これはまあ、私が非番の時にでも色々と教えてあげる程度だけれど、どうしますか?」
南雲さんは、まさかこの場で『魔導師の弟子』として勧誘されるだなんて思ってもいなかったのでしょう。
ブワッと顔中に汗が噴き出し、口元からは『はわわはわわ』といった言葉が零れています。
「まあ、すぐに返事を貰うなんて思っていないわ。まあ、検討してくれると助かります」
「わ、わかりました、前向きに検討します」
「それじゃあ、これ、私の名刺なのでいつでも連絡してきて」
そう告げて名刺を手渡します。
この名刺もまた特殊なもので、実は魔石の粉末を魔法的に同化させてもので、私と対象の魔力を登録できるのです。そして登録された人以外には、私のアドレスは見えないようになっているのです。
私の名刺を悪用されないようにというセキュリティのようなもので、実は魔導編隊の闘気隊員のみなさんも同じような処理をした名刺を持っています。
ええ、当然『勧誘』の為ですよ。
「さて、長々とお邪魔しました。それでは私たちは北部方面隊に戻りますので、何かありましたらいつでも連絡してきてください。基本、課業の最中には返事は返せませんけれど、その後でよかったらこちらから連絡しますので」
「はいっ、全てまとめて、前向きに頑張ります」
そこは検討します、じゃないのかなぁと思いつつ、私と大越3曹は札幌へと戻る事にしました。
それにしても、女子高生かぁ。
私があの歳ぐらいの時は……もう異世界アルムフレイアですよ、こんちくしょう。





