第100話・Eyes On Me(新時代の幕開けへ)
スティーブ達と念話で楽しく情報収集していたのですが。
何やら、不穏当な空気が流れつつあるのですけれど。
『仮称・地球型迷宮の外に、巨大なモノリスが出現した』
『それはこの地球のマナラインに繋がっているのだが、どうやらそれをすべて統制管理している存在があると思われる。俺がナイジェリア地下迷宮で調査しても、その接続先は不明だった、以上だ』
『問題はねぇ……そのモノリスって、対象者に加護を授けるタイプのものなのよ』
「……うん、そこから先は聞きたくないんだけれど。勇者としては聞いておかないと駄目かな?」
『そうだな……』
私の嫌な予感センサーがビンビンに反応しているのよ。
という事で覚悟を決めて話を聞いてみたんだけれど、それはとんでもない代物だったのよ。
【仮称・モノリス】に魔力を流し込むと、その表面に正体不明の文字が浮かびだす。
それは私たち勇者の『自動翻訳機能』で読み取る事が出来たらしく、そこに記されていたものはというと。
【天性覚醒】という文字と、その後ろに表記されるスキルの数々。
つまり、モノリスに魔力もしくは闘気を注ぎ込む事が出来れば、そこに浮かび上がるスキルが覚醒するっていう事。
もっとも、異世界アルムフレイア型のものと酷似しているらしく、表示されるのはあくまでも【天性の才覚】であり、それが覚醒したとしてもすぐに身に付く事とはないという。
ただし、迷宮内部にて研鑽を積む事により、その才覚はしっかりと身に付く。
問題なのは、それがどう考えても【チート系スキル】であるという事。
事実、検証のためにスティーブやスマングル、ヨハンナもモノリスに触れて魔力・闘気を注ぎ込んだ結果、新たな能力が身に付いたらしいのよ、ずるい。
「成程ねぇ。それで、天性の才覚っていったかしら、それについての情報は秘匿状態?」
『天性覚醒だな。残念だが、国際迷宮管理機関の立ち合いの元で検証作業を行った。ゆえに秘匿していると、本国に迷惑が掛かる……というか、隠し通せる状況ではなかった』
『ナイジェリアでも、やはり国際迷宮管理機関が立ち会いの作業だった、以上だ』
『ローマはコロッセオ地下に迷宮が発見されたのよ。私もバチカンの大司教や国際迷宮管理機関の立ち合いで実地検分を手伝うことになったのよ』
「ははぁ。という事は、私の所にも来ますねぇ」
そして詳しい話を聞いた結果、『モノリスに触れた後、天性覚醒を行ったものは迷宮内部での研鑽によりチート能力が身につく』という所までは既に国際迷宮管理機関が公式に発表する予定だと。
但し、モノリスに触れるのと迷宮内部に入る為には、各国の国際迷宮管理機関下部組織である『探索者組合』っていう所に登録する義務があり、無登録の場合は迷宮内部に立ち入る事は許されていないとか。
そして探索者組合は迷宮内部で討伐された魔物の素材や迷宮資源の買取を行っている。
それは国際迷宮管理機関の各国支部にて有効活用する事になっている他、詳細データは国際迷宮管理機関本部のあるスイス・ジュネーブに届けられる事になっていると。
「頭痛いわぁ……つまり、地球にも迷宮が出来て、それを管理運営する冒険者ギルドのようなものがあるっていう事じゃない。それとスマングル、正式名称は探索者組合っていうんだよね、ギルドじゃないよね?」
『ギルドの方が、ヤヨイには分かりやすいだろう?』
「うん、否定はしない。それで、もう地球型迷宮の云々かんぬんについては、国際迷宮管理機関に丸投げなんでしょ? 私達の干渉できる問題じゃなくなっているのよね?」
『その通りだが。我々としては、この地球型迷宮の真実を調査する必要がある。という事で、勇者である我々も探索者組合に登録し、探索者としてこの地球型迷宮の裏に存在する真実を探す必要がある、以上だ』
『スマングルの説明通りね。私達3人は既に、国際迷宮管理機関本部に登録はしてあるのよ。後は弥生ちゃんが登録すれば勇者は全員、登録を完了出来るわけ』
そして私は日本国内の迷宮を調査し、必要ならば破壊しても構わないと。
うん、それなり自衛隊の休暇は迷宮調査に注ぎ込む事にして……と、ああ、アジア圏の迷宮は私が封印してあるんだよね。
ぶっちゃけると、さっきのモノリス関連の情報が出回ると、確実に封印解除を叫ぶ連中が出てくるよねぇ。
でもさ、日本国内ではどう考えても無理じゃない?
民間人の迷宮調査なんて死にに行くようなものだよ?
無手で恐竜が暴走しているジュラシックパークに行くようなものだよ?
銃刀法がある限り、個人の武装は不可能だからね。
そして、迷宮の魔物は体表面に魔力コートが張られている可能性があるので、実弾兵器もどこまで有効かわからない。
「はぁ。わんこ魔王の魔の手から世界を救ったと思ったら、今度は地球が大ピンチなのね。少なくとも、こんな迷宮が自然発生する状態なんてありえないわよ」
『それも踏まえて、色々と調べる必要がある。すでに諸外国の国際迷宮管理機関・探索者組合は調査という名目で迷宮を一般開放している。そして、回収された資源や素材の調査・研究も行われており、いくつかの迷宮では『レアアース』などの希少素材の代用に耐えうるものまで発見されている』
「うわぁ……それは各国企業が黙ってないわぁ。特に重工業関係とかは」
『後ね、レアアースの輸出のほぼ全てを賄っていたあの国なんて、今後のレアアース取引が大きく揺らぐって大変な状態なのよ。それこそ、各国の迷宮に自国民を派遣して、回収妨害を始めているとか』
『もっとも、国際迷宮管理機関の理念により、Sランク探索者以外は自国の迷宮以外には入る事が出来ない。だから、勝手に侵入して問題を起こしているらしい、以上だ』
成程。
そしてSランク探索者というのは現時点では世界に3人しかいないと。
それが私達勇者の特権であり、国際迷宮管理機関からも『迷宮内部から魔物が氾濫した場合は、速やかに迷宮核を破壊する事』が許されているとか。
この部分は勇者達三人により無理やり条項にねじ込んだそうで、これを認めない場合は『迷宮の氾濫が発生した場合、国際迷宮管理機関の各国の支部にて速やかに解決する事』『勇者はその件には干渉しない』という事になっているらしい。
という事で、国際迷宮管理機関本部はスティーブ達の特権申請を速やかに受理。
私も登録が完了した時点で、自動的にSランク探索者という立場になるらしい。
「……はぁ。自衛隊員と探索者の二足のわらじかぁ。まあ、前よりは気楽かなぁ」
『弥生ちゃんの場合は、意識が戻ったという事でアジア諸国からの吊るし上げが待っているわよ? ただ、弥生ちゃんが張り巡らした結界も徐々に溶け始めているらしいのよ』
『各国の各迷宮核が弥生の結界に干渉を開始しているのは確認できた。後半月もすれば、世界中の迷宮全てが開放される、以上だ』
「ふぅん……まあ、そうなったらそうなったでいいや。私は退院してすぐに、国際迷宮管理機関本部に登録するから」
『それでいいわよ。ただ……何というか、一部の迷宮フリークスは暴走気味だから注意してね』
曰く、迷宮調査に必要な装備を作る技術を寄越せとか、武器を渡せとか、そういった事を叫ぶ輩がどこにでもいるとかで。
スティーブなんて、『アイテムボックス』のスキル習得条件を公開しろとか、マジックウェポンを売れとかいろいろと詰め寄られたらしいわ。
まあ、どれも無理なので断っているらしいけれど。
そもそも魔導装備は『錬金術』の分野で、私は作れるけれどスティーブは作れない。
ヨハンナも出来るんじゃないかなぁ。
ほら、魔石を使って新たな物質を生み出したり、その根幹に眠る力を引き出す技。
【組成変異】っていう魔術を、私は何度か使った事がありますよね。
あれは3織以上の【元素魔術】【一般魔術】【錬金術】のどれかがあれば、使う事だけは出来るのですよ。
後は体内保有魔力と何織まで理解を深めているかで効果は変わってきます。
まあ、超難易度である錬金術を修めている小笠原1尉でも使えるとは思いますけれど。
「……という事で、作れるのは私と小笠原1尉、あとはヨハンナも組成変異は使えるよね?」
『私の場合は、神聖魔術関連のものを作り出す方が成功率が高いのですけれどね。特に魔法薬関係でしたら、かなり上位のものまで作れますわ』
『その魔法薬についても、各国の製薬メーカーがレシピが欲しいと国際迷宮管理機関に打診している。とにもかくにも、迷宮の一般開放により、地球の文明が一つ進んだ事になる』
『その結果、迷宮の恩恵を受けられない国家は迷宮保有国家にすり寄らなくてはならない。特に日本は、地球型迷宮が9、ヤヨイの作り出した迷宮が4の合計13個の迷宮を保有している。それが全て解放された場合、各国から調査団という名目で迷宮内に入ろうとする国家が次々と現れるだろう』
そして数多くの生贄を得た迷宮は更なる力を身に着けて、地上へ侵攻を開始する。
異世界アルムフレイアで起こった、『ロード・トラバーナの人工迷宮氾濫事件』と同じことが発生しますか。
数多くの生贄により活性化した迷宮が大氾濫を開始。
同時に迷宮口がどんどん広がり始め、最後は一つの都市全てが迷宮に飲み込まれたという。
あれは凄かったなぁ。
私達でも攻略出来なかったから、入口を空間隔絶結界で閉ざしたんですよ。
あれは酷かったなぁ。
「ま、まあ、各国で色々な事が起きているのは理解した。そして迷宮の管理というものが私達勇者の手を離れたという事も。その上で、私達勇者は何をすればいいと思う?」
『時間のある時に迷宮を一つ攻略し、迷宮核の回収。そして今現在、地球に何が起きているのかを調査する必要がある』
『その結果、この事象が自然発生のものであるなら、俺達は成り行きを見守ればいい。以上だ』
『そして人為的なものなら、迷宮発生で何をするのかを調査。最悪は迷宮の完全排除……という所かしら』
「いずれにしても、時間のある時に調査っていう事かぁ。まあ、みんなも各国に出現してる迷宮対策で忙しいから、今回は個人戦っていう所かな?」
そして危険が発生したら友人召喚で呼び出してくれればいい。
これで話は解決した。
後は国際迷宮管理機関と綿密に連携を取りつつ、世界の動向を見守る。
勇者とは、率先して戦う者ではない。
要所要所で危機を救える存在でいればいいのです。
そんな感じで話し合いは終わり。
皆、それぞれの時間へと戻って行く。
そして私は一か月の検査入院の後、退院。
第1空挺団魔導編隊に原隊復帰した後、国内で新たに発見された与那国駐屯地内迷宮の調査に向かう事になりまして。
まあ、来年の春には昇進が決まり、私も3曹から2曹になります。
とはいえ、私の周囲の環境は変化する事なく……っていうか、2曹って何?
仕事が増えただけじゃないのよ。
はぁ。
国内の迷宮の結界も溶け始めたので、そちらの調査も率先して行わないとならないのに。
もっと魔術師が増えて欲しいですよ……とほほ。
……第一部・魔王侵攻編、完
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
これで、【エアボーンウイッチ~異世界帰りの魔導師は、空を飛びたいから第一空挺団に所属しました~】の第一部は完結です。
少し間をおいて、第二部【地球迷宮編】がスタートしますが、ストーリーの再構築と練り込みのため、今しばらくお待ちください。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。





