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【ミステリ小説】Purgatory?  作者: 菓子翔太
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第一章 因縁(1)

【第一章】   因縁


          1


二〇〇六年八月十六日の時報新聞朝刊―――。

死者・行方不明者1万2000人超に 隕石落下から1週間

有害物質で被害拡大、捜索続く

 三重県沿岸部に隕石が落下してから1週間。これまでに、落下の衝撃や隕石から漏れ出たとみられる有毒物質により、死者8468人、行方不明者3512人に上った。すでに有害物質は空気中に混ざって消失した可能性があるものの、警察と消防、自衛隊は現在も防護服を着て行方不明者の捜索に当たっている。

警察や消防によると、隕石が落下したのは三重県堀川市弥生町。落下時の衝撃でクレーターができており、衝撃波で落下地点から半径数十メートルの建物が全壊・半壊しているという。隕石からは無色無臭の有害物質が排出されたと推測されており、周辺で亡くなった8000人近くがこの有害物質が死因の可能性がある。有害物質の詳細はいまだ分かっていない。

「まだ何が起こったのか頭の中で消化できないままです」。有害物質を吸って亡くなったとみられる若宮文子さん(当時69)と行方不明となっている武雄さん(当時71)の息子、若宮健太さんは話す。(以下略)


二〇〇六年十月三日の経業新聞朝刊―――。

隕石「ゼログラビティ」、放電機能40年か 有害物質の特定進む 京大の研究で判明

 三重県沿岸部に落下した隕石「ゼログラビティ」は、一定以上の熱に達すると放電する機能を40年以上持ち続けることが分かった。京王大学の研究チームが発見した。

 ゼログラビティは、これまで地球で発見されてきた原子構造とは全く違う鉱物資源となっており、日本は、隕石の一部を米国に提供し、知見を共有しながら研究を進めている。(以下略)


二〇〇九年七月三日の中経新聞朝刊―――。

ゼログラビティ活用の発電研究拠点を整備へ

 特異隕石「ゼログラビティ」の高い放電機能を生かした発電研究拠点が整備されることが分かった。特異隕石発電に向けて電力会社などの出資で作られた株式会社シンアルが国の補助も受けながら整備する。

 同社の長峰昭社長が2日に記者会見を行い、明らかにした。すでに同社は、国の「特異隕石研究開発予算」の補助も受けながら約2年間、京王大学の研究チームと研究を続けてきており、長峰社長は、「次の段階に行けるところまできた。ゼログラビティの平和利用に向け、足を止めることなく進めていきたい」と話している。

 ゼログラビティは一定程度の熱に達することで放電する性質を持っているものの、許容される温度を超えるとひびが入り、破裂する可能性もある。ひびが入ったた場合、裂け目から無色無臭の有毒ガスで一定量吸うと死に至る「PGTガス」が発生。三重県隕石衝突災害の際には、8000人近くの犠牲者を出した。同社は、ゼログラビティがひびの入る温度に達しないよう、冷却する設備も使いながら熱を調整することで有毒ガスの発生を防ぐことができるとしており…(以下略)


二〇十二年三月二十七日の中経新聞朝刊―――。

特異隕石発電の研究拠点が稼働

 シンアルホールディングスは26日、栃木県樫村町で特異隕石「ゼログラビティ」による放電特性を利用した発電研究拠点「ジグラット(ZGRT:ゼログラビティリアクター)」の稼働を開始した。1年間実証運用を行ったうえで、問題がなければ本格運用を始める。

同拠点では、発電だけでなく、京王大学などとともに特異隕石の性質や発電の制御システム、技術の高度化などの研究もおこなわれることとなっており、発電と研究を同時に行う施設となる。

同日に行われた稼働式には、橋田敏夫首相や坂本達也栃木県知事、同社の長峰昭社長らが参加。橋田首相は式で「自然環境にも配慮した新しいエネルギーが日本から羽ばたいていく歴史的な日だ」と述べ、国としても特異隕石発電の推進に注力していく姿勢を示した。(以下略)


二〇二二年三月二十七日の経業新聞朝刊―――。

特異隕石発電、仏でも稼働

 フランス東部ベルフォールで、特異隕石発電所が26日、運転を開始した。日本、英国に続き、3例目となる…


 そこまで読んだあたりで、石田はスマートフォンをズボンのポケットにしまった。東京駅の改札で待つ彼に、声をかける者があったからだ。

「元気してた?」

「いや、集合時間5分過ぎてるけど」

「まぁ、許容範囲でしょ」

「お前が言うなお前が」

 栃木に一泊するだけなのに、飛高はリュックに大きなバッグとずいぶんな大荷物だった。服装は、白いバンドカラーシャツに黒い長ズボンとスニーカー。通信社記者時代と違い、仕事服もだいぶラフだ。さすがネットメディアの記者。

「ごめんごめん、まぁただホントは30分寝坊して遅刻しそうなところを、自転車かっとばして25分縮めたぜ」

「『追いつめられたときに力を発揮する』タイプ、だもんな。それにしてもずいぶんテンション上がってるな」

「そりゃそうだろ! ずっと推してた真莉奈と今日近距離で会えるんだぜ。なんなら囲み取材もあるし、もうテンションしか上がらんね」

「そのマリナが誰なんだか俺にはまだ分かってないんだけど、一応言っとくと今日は『今後のエネルギー活用にむけたフォーラム』っていう案件だからな。真莉奈はシンアルのCMに出ている関係で呼ばれたって感じだから」

「知ってるよ、あと、今日はフォーラム前に、黒姫社長やら真莉奈やらと一緒に俺らも取材でジグラットに入れるんだろ? 俺はちゃんとジグラットの中に入ったことないから、それも含めてめちゃくちゃワクワクするんだよなー」

 飛高が目を輝かせて話す。もう30になるにもかかわらず、彼は変わらず純粋な子どもの部分を持ち合わせているようだった。昔から変わっていない、いや成長がないといった方がいいのかもしれない。

 飛高と石田は同業他社ではあったが、かつて宮城で記者として働いていた同期入社組で、その時から6年近くの関係だ。ただ、飛高は東京に異動してから転職してネットメディア「ヴァイス」の記者となり、一方石田は盛岡から東京に異動した後も経業新聞の記者として、経済部のエネルギー担当を務めていた。

「でも、東京にいるエース記者がどうしてこんな土曜日に、フォーラム程度のイベントに参加すんだよ。栃木の記者が行くもんじゃないの?」

 飛高が石田に尋ねると、石田は少し怪訝な顔をして答えた。

「別にエース記者ではないけど…。まあ付き合いってやつだよ。うちの社長と付き合いのある東経信用組合のお偉いさんが今回のフォーラムの協賛を務めてて、ぜひ取材してほしいんだと。フォーラムにはシンアルの黒姫社長も環境省の副大臣も来るから俺もアピール込みで話したかったんで、栃木の記者じゃなくて俺が手を上げて行くことにしたのさ。そんな負担のある取材でもないし、面白い話も聞けそうだったんでね」

「熱心だなぁ。俺だったら東経信用組合との付き合いで土曜日に取材させられる時点で『めんどくさいんで無理です』って断りたいとこだけどね」

「ふっ、お前っぽいわ」

 その後、二人は改札を抜け、東京から宇都宮行きの新幹線に乗った。飛高が「朝ご飯を食べてない」と言って新発売の「てりやき牛鍋弁当」と焼きカレーメロンパンを買うためにレジに並び、あやうく新幹線に乗り遅れるところだったが。ちなみに、そんなカロリーの高そうなものを買っておきながら、現在ダイエット中らしい。

「あっ、そういえばエネルギー記者会に事前に配られたジグラットの資料、見せてもらっていい?」

 飛高が弁当をかきこみながら、石田に頼む。

「はいよ、コピーしておいた」

「あざーす」

「一応、エネルギー記者会所属のメディアだけに配られた資料なんで、フォーラムの時に関係先がいる前で見るようなことするなよ」

 石田が飛高にくぎを刺す。

「ほーい」

 こいつはホントにやらかしかねないからな…。石田は不安を覚えながら、少し眠りにつこうと目を閉じる。弁当の匂いが眠りを阻害してきた。


つづく

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