8 探偵団バッジ
キイちゃんを連れ去った者は2名で男女。その内容に驚きつつ、明智は引き続き子どもたちに優しく質問した。
「その男の人は何か言ってたかな?」
「うん。車の近くまで行ったボクたちに『大友くんはいる?』って聞いてきたよ。『どこかへ行っちゃった』って言ったら、車で行っちゃった」
「その男の人や女の人は、ほかに何か言ってたかな?」
羽柴君が答える。
「分かんない。でも、大友くんがいないと聞いたら、男の人は怒ってたよ」
明智は、小林と中村の顔を見た。小林が男の子たちに聞く。
「キイちゃんを連れていった男の人と女の人は、おじちゃんより大きかった?」
「うん、男の人は、もっともっと大きかったよ。女の人は同じくらい」
「女の人は、みんなのお母さんより若かった?」
「同じくらいかな」
「もっとキレイで若かった」
「男の人は、みんなのお父さんより若かった?」
「うーん、同じくらいかな」
「強そうだった」
「男の人と女の人は、ここに来たときに何か手に持ってたかな?」
「ううん、何も持ってなかった」
「男の人はタバコを吸ってたよ。車を出すときに捨てていったよ。ダメだよね」
「確かにそれはダメだね。後で拾っておくね。大友くんは、今日『さんちょこ』に戻ってくるかな?」
「分かんない」
小林は、中村の方を見た。中村がカバンをゴソゴソしながら言った。
「みんな、今日は本当にありがとう! お礼にいいものを持ってきたわよ」
そういって、中村がカバンから取り出したのは10センチほどの丸い缶バッジだった。
表面は白銀の反射シートが貼られていて、横書きで上部の縁に沿って「MPD」、下部の縁に沿って「さんちょこ」とそれぞれオレンジ色の蛍光ペンで手書きされている。
中央にはネコのような動物の顔のシルエットをかたどった黄色の反射シートが貼られていて、何やら可愛らしい動物の顔の絵が描かれていた。
缶バッジの裏側は、安全ピンとマグネットが付けられている。
中村が得意げに子ども達へ説明した。
「じゃーん! 警視庁赤羽南警察署交通課交通総務係員公認、さんちょこ探偵団バッジでーす! 服やカバンに付けてもいいし、自転車に引っ付けてもOK! キラキラ輝いて、みんなを守ってくれるわよ。あと、普段はポケットに入れておいて、もし悪い人が来たら、これを投げつけて、悪い人が驚いた隙に逃げることも出来るかも。使い方は無限大よ」
「ありがとう!!」
小林は、子どもたちが喜んでくれるか少し心配になったが、子どもたちは、小林の予想に反して素直に喜んでくれた。周りで遊んでいた子どもたちも寄ってきて、中村が缶バッジをどんどん渡していった。
そんな子どもたちの姿をニコニコ見ている明智に、小林が話しかけた。
「あんなに子どもたちに喜んでもらえて良かったなあ。ちなみに真ん中のネコの絵は誰が描いたんだ? 可愛い絵だな。一つ一つ大変だったろう」
「あ、あれは僕です……すみません、あれ、キツネです」
明智が顔を真っ赤にして俯いた。
「あ、き、キツネね……うん、確かによく見ると可愛いキツネだ!」
小林が慌てて訂正した。