6 聞き込み①
「はあ、手がかりゼロですね。やる気なくなっちゃう」
羽柴君と稲荷神社で出会った日の翌日、水曜日のお昼、稲荷神社近くの中華料理店。4人がけの席に座ってゴマ味噌ラーメンを食べていた中村が愚痴を言った。その隣でワンタン麺を上品に食べていた明智が続く。
「根気のいる地道な仕事になりそうですね。ですが、近隣住民の皆さんがあんなに協力的でホッとしました。訪問すると嫌な顔をされるんじゃないかとドキドキでしたよ」
あそこまで協力されると研修にならんなあ、と2人の向かいに座ってチャーシュー麺を食べていた小林は思ったが、口には出さなかった。
小林たちは、朝から稲荷神社周辺での聞き込みを行っていた。研修の一環として、主に明智に対応してもらったが、明智が爽やかな笑顔で少し恥ずかしがりながら挨拶すると、特に女性は年齢問わず協力、いや、むしろ積極的に情報提供してくれた。
今回の事件に関係するものはなかったが、いくつかの情報は後で王子北署の担当部署に共有する予定だ。
この情報収集能力は各部の垂涎の的だろうが、明智本人はその自身の能力にまったく気づいていないようだ。
小林は、中村がラーメンを食べながら膝に抱えている、いつもと違う少し大きめのバッグについて、朝から気になっていたこともあり、中村に聞いた。
「その中に、昨日言ってた子どもたちへのプレゼントが入ってるのか?」
中村がニヤニヤしながら答えた。
「えへへ、そうです。中身は夕方までのお楽しみ♪ 昨日、明智キュン、もとい明智警部補殿にも手伝ってもらいました。2人の愛の共同作業です」
中村が話の最後で何か変なことを言ったような気がしたが、店員の声でよく聞き取れなかったので、小林はスルーした。
† † †
昼食後、小林たちは引き続き近隣での聞き込みを行った後、3丁目公園へ向かった。
公園では、幼稚園生から小学生までくらいの子どもたちが、鬼ごっこをして遊んでいた。その1人の羽柴君が、小林たちに気づき、大声を上げて走ってきた。
「あ、お巡りさん! 本当に来てくれたんだね!」
その声を聞いた子ども達が一斉に小林たちのところへ集まってきた。
「おじさん、本当にお巡りさんなの?」
「ねえねえ、キイちゃん見つかった?」
「ねえ、どうしてお姉さんだけ制服着ているの?」
「お兄さんもお巡りさんなの? 何歳なの?」
「うわーん! シュンペイくんが蹴ったー」
子どもたちのパワーに小林と明智はタジタジとなったが、中村が慣れた様子で子どもたちに話しかけた。
「はーい、注目! そこ喧嘩しない! えー、今日お巡りさんたちは、みんなが『さんちょこ』で安心して遊べるように見回りに来ました。ところで、大友くんやキイちゃんのお友達はいるかな? いたら手を挙げてね!」
中村の質問に、羽柴君を含めて4人の子どもが手を挙げた。
「はい、分かりました! 今日は大友くんはいないのかな?」
「さっきまで一緒に遊んでたけど、帰っちゃった」
羽柴君が答えた。中村が続ける。
「分かったわ。それじゃあ、いま手を挙げた子は、ちょっとここに残ってね。ほかのみんなは、遊んできてね!」
「はーい!」
子ども達が元気よく答えた。
† † †
小林たちと残った子どもたちは、公園の隅に移動した。羽柴君が残った子ども達を紹介してくれた。
「えっと、この子が桂くん。ボクと同じクラス」
襟付きシャツに長ズボン、坊ちゃん刈りでオットリした顔立ちの男の子がペコリと頭を下げた。
「で、こっちが篠崎くん。隣のクラス」
「篠崎です」
Tシャツに短パン、短髪丸顔で体の大きい男の子が挨拶した。
「あと、こっちが花崎さん。学校は違うけど、よく一緒に遊んでる」
「花崎です」
ワンピース姿で長い髪を三つ編みにしている可愛らしい女の子が、お辞儀をした。
続いて中村が自己紹介をする。
「ありがとう! 私は赤羽南警察署の中村巡査。ナッチーお姉さんって呼んでね。で、こっちのベリーキュートで超かっこいいお兄さんが、名探偵の明智警部補よ。探偵さんって呼んでね。あと、こちらのおじさんが、名探偵の助手で刑事の小林中年よ。おじさんでいいわ。今日はよろしくね」
中村が一気にそう言うと、明智に声をかけた。
「はい! では探偵さん、是非子どもたちに質問してくださいませ」
突然の無茶振りに、明智が目を丸くした。