4 男の子の訴え②
「なるほど『3丁目公園』略して『さんちょこ』か」
小林たちは、羽柴君に案内されて、王子北署から北へ5分ほど歩いた先の公園に辿り着いた。公園東側にある入口の小さなプレートに「3丁目公園」と書いている。東西に長い長方形の公園で、滑り台や雲梯、ブランコ、砂場等が設けられている。
公園の東側は王子北署に続く片側1車線の道路に出られるようになっていて、西側は少し階段を下がった先で1車線の一方通行の生活道路に出られるようになっている。南北には垣根が設けられている。
もう帰る時間なのか、たまたまなのか、遊んでいる子どもたちはほとんどいなかった。
「ここで遊んでいたときに、キイちゃんが怖い人に連れて行かれたんだ」
羽柴君が、公園西側の階段下を指差した。中村が聞く。
「そのときは羽柴くんの他に誰かいたの?」
「うん、僕と、大友くんと、桂くんと、篠崎くんがいたよ。よくこの公園で一緒に遊んでるんだ。カッパ公園やロボット公園で遊ぶこともあるよ……あ、そうだ、キイちゃんが連れて行かれたときは、大友くんはロボット公園に行ってて、いなかったんだ」
「大人の人はいたの?」
「ううん、いなかった」
小林たちと羽柴君は、公園を東から西に通り抜けると、階段を下りて生活道路に出た。生活道路から更に西の大通りへ繋がる細道を進む。
「この先のマンションがボクの家だよ」
羽柴君が、少し先の大通り沿いにあるマンションを指差した。
マンションの羽柴君のお宅まで送ると、母親が在宅していた。中村が簡単に状況を説明する。
母親は玄関前でひとしきりお礼と謝罪の言葉を述べた後、中村に笑いながら言った。
「キイちゃんの話、ほんとすみません。多分帰るのが遅くてその子のお父さんが連れて帰ったんだと思うんですけどね」
そう言うと、母親は後ろを振り返って羽柴君の頭をなでた。
「うちの直貴が嘘を言ってるとは思わないんですが……そのキイちゃんという子も、大友くんというお兄ちゃんも、わたし見たことがないんですよ。直貴の学校の生徒でもないようですし。一体どこの子なのかなと……」
「嘘じゃないよ! ねえ、お巡りさん、明日の夕方『さんちょこ』に来てよ。明日なら他の友達も来るし、大友くんも来るかも」
「こら、直貴、お巡りさんは忙しいの!」
中村の後ろに立っていた小林が、笑いながら羽柴君と母親に話す。
「ははは、お母さん、お気になさらず。羽柴くんや他のお子さんを安心させるためにも、明日の夕方、3丁目公園に顔を出しておきますよ」
そういって小林が目の前の中村と横に立っている明智の方を向いた。2人が笑顔で頷いた。
† † †
「すまんな、ちょっと色々と脱線してしまったが……」
羽柴君のマンションから王子北署への帰り道、小林が後ろを並んで歩く明智と中村に振り返って謝った。
「いえいえ、稲荷神社の神様も、神様の使いの狐も、きっと喜ばれると思いますよ。それにしても何があったんでしょうね」
明智が不思議そうに言った。小林が首を傾げながら話す。
「うーん、確かに羽柴くんのお母さんが言うように、単に父親が連れて帰っただけなのかもしれんが、それならお兄ちゃんの大友くんが何か言うと思うんだよなあ。しかもまだ帰って来てないって言ってるらしいし」
中村も同調する。
「そうですよ。子どもは意外と人を見ていますからね。警察に言いに行くってことは、よっぽどのことがあったんですよ」
「よし、王子北署の刑事課と生活安全課に俺の知り合いがいるから、帰る前に何か情報が入ってないか聞いてみるか」
王子北署に着いた小林たちは、まず刑事課に向かったが、非常にバタバタしていて、こちらでは分からないということだった。
次に小林たちは、生活安全課の防犯係の席へ向かった。小林が話しかけた相手の姿を見て、明智と中村はびっくりした。
でっぷりと太った体に愛嬌のある顔。つい先日の交通課の研修で色々と助けてくれた、本庁公安部の波越警部と思われる者がそこに座っていた。