2 狐のお面
「神社での窃盗なんて、罰当たりな犯人ですね」
小林の説明を聞いた中村が怒った顔で言った。小林が頷く。
「ああ、しかも2回連続で起きていてな」
小林が捜査ファイルに綴られている資料をめくりながら話す。
「王子駅から王子北署に行く途中の路地にある小さな稲荷神社なんだが、先週10月2日の月曜日の朝、その社殿の扉に飾られていた『狐のお面』がなくなっていることが分かってな」
「そして、きのう月曜の朝、新たに飾った『狐のお面』もなくなっていたらしい。被害額こそ小さいが、初めての事態で、かつ連続して起きていることから、近隣住民の動揺も大きく、急ぎ対応することになったそうだ」
「近隣の防犯カメラのデータを確認したところ、怪しい人影が映っていた。先週月曜の午前1時半頃だ。ただ、性別や表情は分からず、その後の足取りは追えていない」
小林は、捜査ファイルから防犯カメラの動画を印刷した資料を開き、明智と中村に見せた。
資料には、神社から出てくる黒いパーカーに黒いズボンの人物が映っていた。パーカーのフードを頭からかぶり、マスクをしていて、表情は分からない。
次のページには、その人物が神社から少し離れたところに置いてある白いワゴン車に乗る姿が映っていた。カメラの解像度に限界があり、ナンバーは判読できない。
「昨日の防犯カメラのデータは取り寄せ中だが、王子北署によると、昨日月曜の午前2時頃に先週と同じような人物と車が映っているらしい。同一犯の可能性が高いようだ」
「ということは……」
「二度あることは三度あるということですね、係長」
小林の説明に、明智と中村が同じ感想を抱いたようだ。小林は頷くと、明智に話しかけた。
「その可能性は高いなあ。3回目は何とかして食い止める必要がある。さて明智くん、どのように進めよう?」
明智が悩みながら答える。
「そうですね……1回目、2回目ともに、日曜日から月曜日にかけての深夜に盗まれているみたいですね。偶然かもしれませんが、被疑者には、リスク承知でこの曜日のこの時間帯に動きたい何らかの理由があるのかもしれませんね」
「地域課に深夜の巡回を強化してもらいつつ、次の日曜日から月曜日は現場の張り込みをすることにして、地道に現場周辺の聞き込みと防犯カメラのデータ収集・分析をするという感じでしょうか」
小林が明智の話を聞いて頷いた。
「そうだな。日曜日の夜から月曜日の朝は、重点的に張り込みをしてみるか。まあ、いずれにせよ、一度現場を見に行ってみようか」
「現場百遍ですね。承知しました」
「現場百遍、百万遍!」
小林の提案に、明智と中村がそれぞれ答えた。
† † †
「小さいですが、いい雰囲気の神社ですね」
神社の前に立った中村がそう言った。小林と明智も頷く。
稲荷神社は、大通りから一本入った路地の角地にひっそりと佇んでいる。無人の神社だが綺麗に掃除されていて、お参りする人も多い。
人がギリギリすれ違えるくらいの赤い鳥居をくぐったすぐ正面に賽銭箱と小さな社殿があり、社殿正面の赤い扉に新しい狐のお面が飾られていた。心なしか、狐のお面が悲しんでいるように感じる。
社殿前の左右には一対の狐の石像が置かれている。しなやかな細身の狐で、今にも動き出しそうな造形だ。左の狐が玉を、右の狐が鍵らしきものを口にくわえている。
3人は、社殿の狐のお面の前で参拝すると、他の参拝客の迷惑にならないよう、神社の外へ出て、少し離れた路上で立ち話することにした。
「神社の入り口は、正面と左の2カ所みたいだな。場所取りが意外に難しいかもしれんな」
「被疑者は車で来ているようですし、そこも考慮する必要がありそうですね」
小林と明智が話していると、突然神社から子どもの大声が聞こえた。
「狐の神様のバカー!」
その直後、サッカーのユニフォームの上下を着た10歳くらいの男の子が、鳥居から飛び出してきた。神社一つ向こうの交差点から左折して入ってきた原付が、神社前に向かって走ってくる。
「あぶない!!」
小林の大声に、男の子がびっくりして鳥居を出たすぐのところで止まった。原付は男の子に気づいて、その横を徐行して通り過ぎていった。
小林が男の子のところへ走っていった。明智と中村が小林を追いかけた。




