13 疾走
明智と中村が3丁目公園へ向かって全速力で走っていると、向こうから羽柴君が走ってくるのが見えた。羽柴君もこっちに気づき叫ぶ。
「探偵さん! ナッチーお姉さん! 大友くんが、大友くんが!」
中村が叫ぶ。
「任せて! 羽柴くんは王子北署へ!」
どうか間に合って……
全力疾走のまま羽柴君とすれ違う。後ろを振り返ると、小林と波越兄もこっちに向かって走っていた。
明智と中村が東側の入口から公園に駆け込む。黒っぽい服を着た短髪の大男が手足をバタバタさせている男の子を脇に抱えて西側の階段を下りているところだった。周りに大人はいない。子どもがワーワー言っているが、大男は意に介さない。
明智がありったけの声で叫ぶ。
「その子を離せ!!」
大男が振り返った。30代くらいだろうか。中村の制服姿を見て驚き、足早に階段下の白いワゴン車に向かった。リアゲートが開けられている。
車内は運転席と助手席以外に座席はなく、荷台として使えるようになっている。後部の窓には濃いスモークフィルムが貼られていて、中を見ることができない。
車外にもう1人の男が立っていた。若い。20代くらいでTシャツにジーンズ姿だ。明智たちを見て慌てている。
大男が男の子を抱えたまま荷台に乗り込んだちょうどその時、明智と中村が追いついた。車外に立っていた男を振り払い、荷台に飛び込んだ。その直後、車外の男がリアゲートを乱暴に閉めた。
「何してるんだ!」
大男が叫ぶ。車外にいた男が助手席に慌てて乗り込んできて言った。
「向こうから更に来やがった!」
車外では子どもたちの叫ぶ声が聞こえる。何かを車に投げつけているようで、カン、カン、と物が当たる音がする。
「くそガキどもめ」
そう言うと、運転席に座っていた50代くらいの黒いパーカーを着た男がアクセルを踏んだ。
† † †
「車を停めなさい!」
荷台後方から前方に向かって、中村が叫ぶ。運転席の後ろで、後方を向いて胡座をかいている大男が笑った。男の子を脇に抱えたままだ。
「停めるわけないだろ、婦警さん。少しでも変な真似してみろ、この子が血だらけになるぞ」
大男は、ポケットからナイフを取り出すと、脇に抱えた男の子の首元に近づけた。男の子は長髪で顔がよく見えない。見た限り、怪我はなさそうだ。
「分かった! 大人しくする。だからナイフを下ろせ」
明智が言った。大男はナイフを男の子の首元から離した。
助手席に座っていたTシャツ男が養生テープとタオルを持って荷台に移動してきた。中村と明智の手首を後ろ手に養生テープでグルグル巻きにして、口を養生テープで塞ぎ、タオルで目隠しをした。ポケットからスマホや警察手帳を取り上げる。
車は夕方の混雑に溶け込んでいった。




