第二話・ご愁傷さまじゃのぉ!
「ーーこれにて、今回の会議は終了とします。皆様ご苦労さまでした」
槐花がそう言うと全員が会議室から退出していく。
結局会議は約数時間ほど続きこれからの方針が決まりました、しばらくの期間は下手に動かずここ一体のみの情報の収集。人との遭遇もしくは我々の存在がバレた際には即座に戦闘態勢を摂りすぐさま拘束をする、抵抗する様であれば処分し即座に本部へと帰還すること。もしも人里を発見したとしても安易近付かず報告のみをする、という事に決まりました。
そして外の調査を行うための新たな部隊が編成されました、部隊の名前は[デスペア]、隊長は亮仙に任せました。最初は嫌だなんだと言っていましたが無理矢理にでも隊長にしてやるという私の誠意が伝わったのか、最終的には快く引き受けてくれました。副隊長にはクレイ君が着き、情報管理をこと細かくさせる為に槐花さんを、参謀は戦略機甲部隊総隊長である楼赫霊さんという名前の女性が、当初はクレイ君が居るので赫霊さんはいいのでは?という話がありましたが、一応という事で決まりました。最後にレティシア=ソロモンさんですね、彼女は二時間以内であれば深手どころか蘇生すら可能な力を持っているのでもしもの時の為に同行してもらう事にりました。たった五人だけかと思うかもしれませんが、この五名が本気を出せば世界政府の支部のひとつやふたつ軽く滅ぼすことは可能な程ですので心配はいりません。
先程の遊撃隊タナトスには二日後に帰還するように指示を出し、朱雀君には出来るだけ戦闘を控えるように、とも指示を出しておきました。無駄に体力を消耗するよりも、戦闘を控え体力を温存して置いた方がいざと言う時のために対応が出来ますし、朱雀君の能力は亮仙やクレイ君と違い種がわかってしまえば通用する可能性が下がる。それらを考えるのならば戦闘をせずの帰還が一番です。
「おい那月、少しええか?」
「なんですか?」
「デスぺアの件や。俺が隊長を務めるのとクレイが居るんはわかるが、何もレティシアを連れてく事は無いやろ」
「ええ、確かにあなた達は実力があります。神をも滅する程の力を持っているでしょう、しかしこの世界は前の世界とは違うのです。先程も会議の中で何度も言った言葉ですが、この世界は未知なのです。私たちは知らないことが多すぎる、私たち以上の化け物がいるかもしれないです」
「…お前がそう言うならそうなんやろうな。まぁいざとなれば本気を出せばええだけやけどな」
「はぁ、頼みましたよ?亮仙」
「ああ任せとけや、全部完璧にこなしたるわ」
…不安です、とても不安です…絶対に問題を起こしますよこの人。
本部や各支部には戦闘ルームが幾つも搭載されており、その中でも化け物たちの戦闘に耐えられる特別ルーム、[タルタロス]が存在しています。さすがに私と亮仙の戦闘には耐えられませんが、クレイ君やレオン君の戦闘には耐える事が可能です…多分…試してないので分かりません…。
あぁすみません、レオン君の紹介をしていませんでしたね。レオン=ギルドバード、彼もクレイ君と似たように実力で幹部の上位までに登り詰めた武闘派の人間です。金髪に白スーツと黒いコートを羽織った筋肉男です、彼の戦闘方法は主に素手での戦闘です...見たまんまですね。
では話を戻しましょう、今タルタロスには六名の人物がいます。私、亮仙、クレイ君、レオン君、ローリエさん、それから鳴治さんが居ます。ローリエさんについては後々お話すると致しますが一応一言だけ、ある男の嫁です。さてなぜ今この六名がここにいるかと言う話ですが、事の発端は私の一言でした。正直なぜ言ってしまったのかと後悔をしています。
時を遡ること約二時間ほど前のこと、会議が終了し亮仙とデスペアについて話し終わった十数分後の事でした…ほんとに後悔してます。
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ふむ、もしもこの世界で安全に暮らして行けるとするのならば、あの計画もきっと成功する筈です。その為にはやはり情報が必要です、先の会議で大方のことは決定しましたが細かのところまでは決定していません。ですがその前に確認しなければいけないことがありますね、その為には一度タルタロスに行かなくては…いえ、この際外で暴れても問題ないのでは?別段問題もないでしょう、この先の計画的にも辺りを平地にしておいた方が良さそうですし。これこそ一石二鳥と言うやつですね。
「亮仙、私は少々外で運動をしてきますが、あなたはどうしますか?」
そう、この一言が問題だったのです…
私の仕事部屋にあるソファーに座り端末を弄りながら珈琲を飲んでいる亮仙に問う。すると亮仙は珈琲の無くなったカップを行き良いよく起き立ち上がる。
「行くに決まっとるやろ?そんで何をやるんや?俺と組手でもするんか?」
「いえいえ、運動ですよ運動…それにあなたと私が組手なんかしたら、この辺り一体がタダじゃ済みませんよ」
「…異能が使えるかの確認やったら別に俺らや無くてもええんちゃうか?」
「…え?」
そんなの嫌ですよ?加減を知らない者たちが殺り合ったらそれこそタダじゃ済みません…確かに特殊戦闘ルームを使用すれば死ぬ事はありませんが、それだとエネルギーの消費量がバカになりませんよHAHAHA!
…というか私がなぜ異能を使えるかの確認に行くことを知っているのでしょう?
「それやったらクレイとレオンにやらせりゃええやろ?修復はローリエにさせて蘇生はレティシアかスズハに任せればどうにかなるやろ、それとチームの奴らも呼ぼうや」
「……確かにその三名の協力を得られれば良いのですが…まぁローリエさんは手伝ってくれるでしょうが、レティシアさんは…」
「あ〜確かに手伝ってくれ無さそうやな…けど少なくともスズハの奴は面白そう言うて手貸すやろうし!そっちをどうにか言い組めれば…」
「くっ…い、いやそれでも彼女は手伝ってくれないと思いますよ?」
「な、なんや?えらく頑固やな…そんなにアイツらを戦わせたくないんか?」
「…ええそれはもう心の底から」
だって後処理めんどくさいですし、そもそもあの二人がリミッターを外さないとは限りませんし…最悪タルタロスが吹き飛ぶ可能性すら……何故か亮仙が満面の笑みをしているのですが一体…
「ん"ん"…那月、俺は用事を思い出した、ほなまたな」
勢い良く扉を開け、悪い事を考えているような笑顔をして亮仙が部屋から出ていく。
「…は?え?……ちょっと待ってください!あなた何考えてるんですか!?馬鹿な事はよしてください!私がストレスでえぇ!」
不味いこのままでは確実に面倒くさくなってしまいます!どうにかして止めなくては!でなければ私の平穏なスローライフ計画が破綻していまう!
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この後、私は必死の思いで彼を止めようと奮闘しました、ですが私の努力は報われず数々の障害に会いあと一歩の所で間に合いませんでした…その結果が今に繋がります…彼がどのようにして鳴治さんを言いくるめたのかは分かりませんが、蘇生と修復にエネルギーを使わなくて済んだ分良しとして置かなくては……私のスローライフはいつ来るのでしょうね…ははは……はぁ、泣きたい…。
「しゃあおらぁ、二人とも準備はええか?」
「あぁ、俺の方は問題ない」
「俺は…ちょっと待て……よしオーケーだ」
「ほな始めるで、クレイ=ハウザードVSレオン=ギルドバードのバトルを始める!両者構えて…初め!」
合図と共にクレイが行き良いよく突っ込み右腰にある刀を抜き攻撃をする、その攻撃に対しレオンはその場から動かずに右手だけで刃を受け止めると余波が起きタルタロス全体にヒビが入る。レオンは右手で刀を掴み左手でクレイの頭目掛けて拳を振り下ろすが、クレイは体を少しだけ動かし避ける。
空ぶった拳は衝撃で地面に着くよりも早く巨大なクレーターを作りだした。
「軽く振ってこれか…相変わらずバケモンだな、堅物クソゴリラ」
「お前とて同じだろ?馬鹿脳筋戦闘狂」
…お願いですからタルタロスを吹き飛ばさないで下さいね?本当にお願いですから…近くにいる者たちにも被害が出てしまう可能性があるんですから………
「なんやオロオロしすぎやろ、少しは落ち着けて…」
「そうそう、この私とローリエが居るのだ!問題は無いと思うぞ?多分な!ハハハ!」
「…はぁ、それはそうですけど…私が心配なのはもっと別のことで…」
そして戦闘は数分ほど続き見事タルタロスは吹き飛びました…幸いにも彼ら二人以外には怪我人も出ずに済んで本当に良かったです…レオン君が死んでしまうという事態もありましたが、鳴治さんが蘇生してくれたおかげでどうにかなりましたので万事OKです…。
私の能力はなんでも出来ますが、いくら仲間とは言えど手の内は開ける訳にはいけませんからね。ですがこれではっきりしましたね、この世界でも前の世界と同じように異能を使うことが出来るということが…異能力さえ使うことが出来るのならば、どのようなものが相手でも対処ができます。
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それから二日後、朱雀君の部隊が無事本部へと帰還しました。彼らが帰還する途中に得た情報は計り知れず、大きな成果を得ることが出来ました。特に周辺に生息している生き物、植物、環境、この三つの情報を大量に得られた事は非常に嬉しい事です。ただ残念な事に人どころか川や湖等といった水源すら発見出来なかったという事です、まぁ正直なところ食料や水を生み出す異能使いがそれなりにいるので問題は無いのですがね。
ですが少々心配なこともあります、例えば人との遭遇です。この世界の人と接触をしたい、けれどあまり接触もしたくない…矛盾ばかりですね。嘗ての話ですがわたしは異世界転移、転生物の本を読みました。そしてひとつの結論に至りました、それは殆どが面倒ごとに巻き込まれているという事です。正直巫山戯るなと言うのが今の私の感想です、そして二つ目、我々以上に力を持つ存在がいるという可能性。
これが一番の問題ですね、可能性があると言うだけで確実にいるとは限りません。しかし以前の世界では亮仙とタイマン張った頭のおかしい化け物がいましたし、警戒をして置かなくては…。
「はてさて、今頃亮仙たちはどの辺にいるのでしょうね」
深い森の中、五人の集団が険しい道を進んでいる。
あ〜クッソ〜、マジ最悪や…。なんでこんな事になるんかなー…はぁ、本部から出発して約一時間くらいか?朱雀達の調査方向とは全く別の方向へ進んだはええけど…マジで帰り道わかんなくなってもうた…ホンマにどないしよ…。最初は迷子なってもバカでかい建物目指しゃ帰れるやろ思うとったけど、建物そのもん隠蔽しとるんやから発見出来るわけないわなぁ。その上ここに居るヤツら全員方向音痴ときおった…詰みか?こら詰みなんか?
てかここ何処やねんホンマに、ここまでの道中に異形共は居ったけどそれ以外は確認できてへんし…はぁ、帰ったら那月のやつぶん殴ったーーー
「あかん全員止まれ」
…なんや?いきなり気配が強うなりおった?…人か?いや、それに似た何かやなこりゃあ…人やったらもうちょい穏やかな気配はずや、たとえ何かに追い詰められとる場合でもこんなに異質な気配は放たんで……どこや?何処におる?草木の中か?それとも地中か?いや、ちゃうな…上か!
亮仙が空に目を向けるとそこには、巨大な廃船が浮いていた。廃船からは異質な気配を放ち、亮仙たちの周りに徐々に赤黒い霧が立ち込め始める。
なんやこの霧!?毒か!?いやこら毒やないな、だから言うてただの霧って訳でもなさそうや。とにかくアイツらが何処に居んのか確認せな、クッソこの霧のせいで気配が上手く掴めん!こういうのは苦手やねんて!
「ローリエ!聞こえとるか!?お前の異能で地形を歪み壊せ!」
…数秒後、大地が大きく渦巻き始める……そしてさらに数秒後、天に届くほどの巨大な大穴を中心に渦を巻いた巨大な山が出来上がる。大穴からマグマが限界まで溜まっており、一部の場所からはすべに垂れ流れている程である。先程まであった霧も今では無くなり、廃船は頂きにあるマグマぎりぎりで止まっている。
おいおい、こらやりすぎやろ?まさかとは思うがこれ噴火させる気か?あほか?アホなんか?いやバカや、思考がイカれとるで…確かに今の現状は俺の指示や、けどこれはホンマに…アカンで…
「亮仙!無事か!?」
「クレイか!俺は問題あらへんけど、赫霊と槐花が危ないかもしれへん。ローリエはそもそも大丈夫やし、レティシアについてはほぼ不死やからそもそも問題がない」
「亮仙様、ご無事で何よりでございます」
「うおっ!いきなり出てくんなや!びっくりするやろ!」
「レティシアか…赫霊と槐花を見なかったか?」
「申し訳御座いません、あの御二方と出会う事は不可能でした」
「ふむ、死んだか?」
「おまっ!思っててもそんなこと言うなや!」
すると後ろの方にある磐積ガラガラも崩れ、槐花と赫霊が出てくる。二人の体には特に傷はなく、服に汚れが着いている程度だった。
「ふう、赫霊さんのおかげで助かりました」
「いやいや、槐花ちゃんが即座に指示出してくれたおかげだよ。正直ローリエちゃんが広範囲地形操作を行使した時は終わったと思ったがね、全くどこの馬鹿が指示を出したんだろうねぇ〜」
「…悪いとは思とるで…けど俺でもここまでやれ言うてへんぞ」
たくホンマに何処の誰がこんな名前に似やわぬ力を与えたんや?頭おかしいで?そもそもどうしてこんな馬鹿げた力を那月のやつは…はぁ、やっぱ無理矢理にでも隊長を断るんやったな〜、失敗やったで。
「フッ、だろうな。あいつはあの第二支部の副支部長だぞ?戦闘狂もといイカレ野郎共の巣窟だ、そんな奴が穏便に済ますわけがないだろ?」
「そらごもっとな事で…それにしてもどうするんや?これ?最悪基地の方にも被害が出るやろ」
「その辺はボスがどうにかカバーをしてくれるだろ?それで無くても基地の自動防衛機能が作動する筈だ。俺の記憶が間違っていなければ、昨日ベータのやつが修復しているはずだ」
「それなら安心だね、彼が修復をしてくれているなら問題は起きなーーー」
「ちょっと待て!それ以上言うたらアカンで!そらフラグ言うやつや!完全にアウトや!」
「そ、そうなのかい?それは済まない?ね」
たくホンマに怖いでこいつら、問題ない言うたら問題が起きる言うことになるやろうが…それにしてもベータのやつが修復したんか…それはそれで不安やな…あいつは優秀やけどマヌケや、それも大事な時に抜けとるからなぁ…やばい那月がストレスで死んでまうわ、あれ?その場合確か俺がボスになってしまうんやった気が………それはアカン!ボスとかめっちゃ嫌やわ!あんな問題児共を俺にまとめろや言うんか!?無理に決まっとるやろ!こらアカン早うあのバカ止めな最悪俺がボスになってまうやんけ!
「ローリエ!聞こえるか!?聞こえとるんならさっさと地形元に戻さんか!」
数秒の無音が周りを包む…………すると遠くの方から人影が近ずいてくる。たった一人この場で傷どころか服すら汚れていないもの。それはローリエだけである。
「なんだ?呼んだか?」
「呼んだか?ちゃうわアホかお前!今すぐ地形戻せ言うてんね!」
「なぜだ?貴様がやれと言ったでは無いのか?」
「言うたで?確かに言うた、けどここまでやれとは言うとらんやろ!」
「…?」
クッソこのバカ何一つ理解しとらん!これだから第二支部の奴らは嫌やねん!これならまだ第八支部のバケモン共の方がマシやわ!そもそもなんでこいつを連れて行かなあかのや!?他でもええやろ!?つか俺の部下動かせろやクソッタレ!こんなんになったんも全部那月の所為や!帰ったらまじ殴る!殴らり殺したるわ!
…ん?なんや?この気配?
亮仙が周りを見渡していると、叫びながら空から少女が降ってくる。
「この馬鹿もんどもがァァァ!!」
「は?なんでお前がッーーー」
げっ!あのバカ全部の異能行使してやがる!あれじゃあ俺でも防げん!異能を行使したとしても無理やりにでも破ってきおるやろうし!クッソ避けるしか選択肢が!
亮仙は少女の蹴りをスレスレで避ける、少女の蹴りはローリエの作り出した巨山へ直撃すると大きな衝撃と共に消し飛ぶ。限界まで溜まっていたマグマすら消え去り、それどころか巨大なクレーターをも作り出した。
「くっ、バケモンが!」
「チッ、避けおったか!じゃがまだまだぁ!もう一度じゃ!無回・進撃脚破!」
「クソ野郎がッ!」
少女の強力な一撃を空中で何とか防ぎ、地面へと勢いよく吹き飛ばされる。
あっぶね〜、あと少しで逝っとたで…それより何であいつが居るんや?本部で待機いう話やったけど…まさか勝手に来たんか?いやいやそらさすがに有り得へんか、だとすると那月の奴か?いやそれも無いな、こいつが人の命令を聞くはずあらへんわ。だとするとやっぱし単独行動か…帰ったら那月のやつにこっぴどく叱られるんやろうなぁー、はっはっはっ!ご愁傷様なこって!ざまァァァ!!HAHAHA!
「月見様、なぜ貴方様がここへ?」
「ん?あぁ那月に頼まれてのぉ、お主らを連れ戻せじゃと」
「HAッHAッHッ……はぇ?」
「クク…カカカカカ!お主今ご愁傷さまだとでも思ったじゃろ!?ざまぁじゃと思ったじゃろ!?お主がざまぁでご愁傷さまじゃよ!!カカカ!カーカッカッカッー!馬鹿めがあぁぁ!!」
「…ふぅえ??」
その場にはただ何が起こったのか分からず呆ける亮仙と、ただただ嘲笑う少女の姿だけが目立った。