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異世界に精霊とんぼが飛び立つ頃に  作者: 凛々サイ
1章 異世界の真実
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1章 4.意味なんかない

挿絵(By みてみん)


「だいぶ離れたかな……」


 息を切らしながら手短に一言呟いた。しかしやっぱりここに来てから体が重い気がする。重たい何かが体に乗ってるような感覚だ。


 しかし一体さっきの奴らはなんだったんだ? 地球で今だにあんな甲冑を着て剣を使う国があるとは思えない。ほんとにここは地球じゃないってことか? 甲冑ファンタジー野郎達の言葉は何語かさえも分からなかったけど、俺達を助けてくれた女性は明らかに日本語を喋っていた。見知らぬ人だったけど、俺達を助けてくれた。もしまた出会えるなら……、いつかちゃんとお礼がしたい。

 

 これからどうすべきか……まん丸の月を見上げる。その周囲には満天の星空だ。まるで地球だ。月もあり星もある。ここは一体何なんだ? ほんとに別の世界なのか? そんな星空を駆けながら見上げていると、あの時の思い出が不思議と甦ってきた。


――じいちゃん、あのとんぼつかまえて!

――あのとんぼはなぁ、精霊しょうりょうトンボと言って、遠い遠い外国の地から、ご先祖様を運んで日本へ来ておるから捕っちゃかわいそうだ。ここに来なくても外国で幸せに暮らせるのになぁ。不思議だのぅ。


 夕刻の夏の終わり頃だった。俺が小学生だった頃、じーちゃんと何気なく散歩へ出かけたあの日に見たのは、無数に河川敷を飛び回る精霊しょうりょうトンボ。後で知ったけどウスバキトンボが正式名称らしい。どこを見渡してもそのトンボに囲まれていて、自由に空を飛び回るそのトンボを一匹一匹ずっと追いかけ、幼い俺は、はしゃぎ必死に捕まえようとしていた。オレンジ色のそのトンボと同じ色をした夕日もとても綺麗だった。


――ごせんぞさま?

――そうじゃ。お星様になった人達のことだ。


 とんぼの追いかけっこからじーちゃんの方へ振り向くと、その時のじーちゃんはなぜか少し小さく見えた。


――じゃあ、ぼくのおかあさんとおとうさんも?

――そうだな……、あのトンボに乗って帰ってきておるかもしれんな……。そのお役目が終わったらあのトンボはな、もうすぐ飛べなくなる。寒くなれば命尽きるからのう。


 寂しそうにそう言っていたじーちゃんの横顔を今でもはっきり覚えている。


――しんじゃうの? ……いみないよ、それ。


 そう言った時、なぜかじーちゃんの顔がくしゃっと悲しそうになったことを今でもはっきり覚えている。


 けど、そのじーちゃんの言葉を聞いた時、とてつもなく悲しくなったんだ。


 遠い外国から死んだ両親を連れてまで頑張って飛んでやってきたのに、俺は両親に会えるわけでもなく、そのとんぼはそのまま日本で死ぬ。


 それならずっと生まれたその外国(場所)で、苦労もせず幸せに暮らしてたほうが良かったんじゃないかって。 


 だから言ったんだ、意味ないよって――。


 今思えば、そんなこと言ってしまったのは、父さんや母さんがいなくて寂しかったからかもしれない。ずっと会えたいと思っていたのかもしれない。


 だけど、あの日からずっと疑問を感じていたような気がする。頑張って色んな事を続けていても、何も得るものがないかもしれない、意味なんかないんじゃないかって。何のためにやってるんだろうって。


 ずっと自分の心のどこかに引っ掛かりがあった気がする。でもずっと見ないふりをしていた。


 けれど、あの時、アイツに言われてしまった。

 だから、あの時、アイツを殴ってしまった。


 分かってたから。

 図星だったから。


 じーちゃんの仕事は俺だって誇りに思ってる。今でも。

 けどさ、俺やじーちゃんがやってることってほんとに意味があるのか?

 

 今だってそうだ。 


 じーちゃんの手紙には帰って来れるか分からないとも記されていた。生きるか死ぬかも分からないみたいな内容だった。じーちゃんは命を懸けてまで()()がやりたかったことなのか? 成功しないかもしれないのに? 失敗したらそこで終わりじゃん。死んだらそこで終わりじゃん。


 俺の両親に一体何があったのかは分からない。この世界で本当に生きているのかさえも分からない。じーちゃんの言ってたことがもし本当なら、もしかすると会えるのかもしれない。だけど、記憶も何もない両親と今更会ったとして、俺はなんて言えばいいんだ? 嬉しいのか? ……そこに意味はあるのか?


「りっきー? 悲しい?」


 いつの間にかしかめっ面をしていたらしい。きょとんとした顔で実久が前から話しかけてきた。こんな時の奴はなぜか勘が鋭い。


 なぜこんなことになってしまったのかとやっぱり思う。実久まで巻き込んでさ。けど、その当の本人は嬉しそうなのが不幸中の幸いだ。でもあの実久の父親の涙に溢れる真っ青な顔を思い出すだけで胸がチクリと痛い。

 

「あ、いや、ダイジョブ。もうだいぶあそこから離れたしちょっと休むか」

「駄目だよ、もし実久達が掴まっちゃったらあのライツニングさまが悲しむよ~」


 この夜の道筋は月明かりだけが頼りだ。入口も出口さえも分からないこの場所で走り続け、俺達の息は切れ切れだ。実久も結構辛そうだし、休ませてあげようと思ったらこれだ。もしかすると俺より一枚も二枚も上手なのかもしれないな。


 俺が辛そうに見えたのか、相変わらず真剣な表情で、半分に綺麗に切られたホームセンター杖を俺に向けて「ケアルぅぅぅ!!」と回復魔法呪文を唱えている。もちろん何も起こらない。そんな実久に相変わらずため息が出そうになるが、コイツのおかげで少し笑える気がした。

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