№24・道具箱・下
「当たり前だ!」
南野が言おうとしていたことを、先にキリトに言われてしまった。キリトは偉そうに胸を張りながら、ふふん、と笑う。
「なんといっても『仲間』だからな」
「そうですよ! 『禁呪』がどうであれ『赤の魔女』がどうであれ、メルランスさんひとりに背負わせるつもりはありません!」
「これも乗りかかった舟じゃ、助太刀のひとつもしてやらんとのぅ」
「……と、いうわけです。誰もメルランスさんのことを見捨てたりはしませんよ」
『……恩に着る』
「ちょっと! あたしは『守ってくれ』なんて一言も……!」
「メルランスさん」
南野はメルランスの肩を両手で握りしめると、笑って言った。
「俺たちは何度もあなたに助けられてきました。今度は俺たちの番です。守り、守られるのが『仲間』でしょう? ひとりで抱え込もうとしないでください。俺たちを信じて、どうか守られてください……あなたの重荷を、分けてください」
その言葉に動じたのか、メルランスの瞳が揺れる。
それから、ふてくされたような顔をして、ふん!と横を向く。
「……わかったよ。けど、あたしはあたしの好きにさせてもらう。今までと変わらない。守られてるって大げさに恩義に感じることもないからね」
「はい、それでいいです」
どっちにせよ、レアアイテム蒐集の旅はこれまでと同じなのだ。いきなりがっちりメルランスをガードすることもないだろう。
『そうじゃ、そういえば南野よ、そろそろ集めたレアアイテムがかさばるころじゃろ』
思い出したように言うと、フクロウは足に括り付けた小包を蹴ってよこした。
「これは……?」
『開けてみよ』
言われるがままに紙の包みを開けると、そこには一抱えほどのコレクションボックスが入っていた。木の枠のガラスケースで、ちょうど100の小さな仕切りがある。蒐集狂にとってはなじみ深いアイテムだ。
『『道具箱』じゃ。それに入れれば、アイテムは仕切りと同じような大きさに縮まる。お主も成果が目に見えてよかろう。言っておくが、それもレアアイテムの一部じゃからな』
そんな便利なアイテムがあったとは。きらきらした目で箱を眺める南野は、ふたを開いたりガラスを袖で磨いたり、すっかり夢中だ。
「ありがとうございます!」
『うむ。これからも励むがいい……今の妾にできるのはこれくらいじゃ。そろそろお暇するかの』
役目を終えたフクロウは大儀そうに身を起こすと、開け放たれたままの窓の外へとはばたいていった。
その後ろ姿を見送って、一同はようやくほっとした。
「結局、すべては今まで通り、ってわけですね……」
「レアアイテムを集めながら『ギロチン・オーケストラ』と戦う、それでいいじゃん」
なんでもないように言うメルランスだが、今回の話は彼女にとってかなり重い話のはずだ。
「まあ、あれだけヘタこいた後じゃ、当分は向こうさんもおとなしくしとるじゃろ」
「……だといいんですけどねー」
「ふん! 安心しろ! この俺がついているのだからな!」
「あんたが一番不安だよ」
「なにを!? 俺のどこに不安要素が!?」
「いやー……全体的に?」
「くきぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
小ばかにするように言われて、キリトは地団太を踏んだ。
いつも通りだ。
しかし、以前とは決定的に変わってしまった。
南野たちは世界の終末の一端に触れてしまったのだ。
『ギロチン・オーケストラ』はこれからもメルランスと『緑の魔女』をつけ狙うことだろう。
その追撃をかわしながら、『赤の魔女』の思惑通りにレアアイテムを蒐集する……かなり難しい道行きになりそうだ。
しかし、やらねばならない。
もしも南野がこの世界に送られてきたことになにかしらの理由があるとするならば。
「……みなさん、これからもよろしくお願いします」
南野が改まって頭を下げると、一同は軽く笑ってうなずいた。
今できることをやるしかない。
そうこころに決めて、南野は『道具箱』を抱え直した。