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№01・レアアイテム図鑑・9

「いい? 勝負は一回きり、文句は受け付けないからね」


「わかってます」


 ぐびり、唾を飲み込む。この世界でレアアイテムをコレクションできるかどうか、元の世界に帰れるかどうかのすべてがこの一瞬にかかっているのだ。


 手がどけられる。穴が開きそうなほどじっと相手の手を見つめ、南野は息をのんだ。


 …………裏、だ。


「やった……!」


 表情を輝かせて、南野は小さく快哉を叫んだ。


 一方のメルランスはその結果に仰天したように目を見開いていた。棒を飲み込んだがごとき顔で手の甲で裏面を向けている銅貨をつまみ上げ、裏表と矯めつ眇めつ検分し、ぽかんと口を開く。


「どうかしましたか?」


 勝利の余韻に浸りながら聞くと、メルランスは驚いた顔のまま尋ね返してきた。


「……あんた、魔法……使った?」


「まほう? まさか、俺はこの世界に来たばかりですよ? 使えるわけがない」


「じゃあ……どういうこと?」


 そのまま、ぶつぶつとつぶやきながら不思議そうにコインを眺める。負けたことがよほど不服だったのだろうか、しかし完全なる運勝負だったはずだ、ここまでいぶかしがる方がおかしい。


「約束ですよ、メルランスさん、俺のレアアイテム蒐集の旅に付き合ってもらいますからね」


 約束をたがえられてはたまらない、と念を押すようにずいっと詰め寄ると、メルランスは胡散臭そうに南野を睨みつけてから、大切そうに銅貨を懐にしまった。


「仕方ない、そういう約束だからね。ただし、言った通り最初のひとつを集めるのに付き合うだけ。あんたに100集めるちからがないとわかったそのときは、あたしは下りるから」


「それで充分です」


 勝負に勝って上機嫌になった南野は、メルランスの手を両手で取って笑顔で告げた。


「しばらくの間、よろしくお願いします、メルランスさん」


「勘違いしないで、あたしはただ冒険者として稼ぐためにあんたに付き添うだけだからね!」


 ぱっと手を振りほどき、メルランスは突き放すように言った。それからエールのジョッキをぐいっと傾け、カウンターに置くとお代の銅貨数枚をバーテンに渡して席を立つ。


「明日、またここで。最初の獲物がなんなのかはわからないけど、やってやろうじゃない」


「わかりました」


「それじゃ、おやすみ」


 ひらりと手を振ってその場を去ろうとするメルランスの背に、南野はおずおずと声をかけた。


「あ、あのぅ……」


「今度はなに?」


「俺、一文無しで今夜の寝床もなくて……」


「しーらない。その辺の道端で寝てれば?」


「そ、そんな!」


「なんで見ず知らずのあんたの宿代まで面倒見なきゃいけないの。無駄なお金は銅貨一枚たりとも使いたくないの」


「薄情な!」


「なんとでも言いなよ。野盗には気を付けてね、あんたのレアアイテム図鑑がなきゃ仕事のひとつもできないんだから」


「せ、せめて安全な道端くらい教えてくれても……!」


「はい、また明日。おやすみー」


 そう言ったきり、メルランスは今度こそ酒場を去っていった。あとに残された南野は途方に暮れた顔で天井を仰ぎ、知らぬ顔をしていたバーテンにおそるおそる声をかける。


「あの、この辺で野宿するのに安全な場所って……」


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