№22・狩人のチャクラム・1
「みんな、昨日はごめん!」
翌日、すっかり元の調子を取り戻したメルランスがパーティ全員に頭を下げて謝った。
「いいんですよ、そんな日もありますって」
「ふん、この鋼の精神力を持つ俺には到底理解できんがな」
「フニャチンメンタルのくせによう言いおるわ」
「だれがフニャチンメンタルだ!?」
誰一人としてメルランスを咎めるものはいなかった。つくづく気のいい連中だと南野はほっと胸をなでおろす。
「けど、あたしと南野で『星屑』は取ってきたよ」
「ふたりで星降る丘に行ったんか? ええのぅ、ワシも見たかった」
「まあ、成果があるならばこの件は不問にしてやらんこともないが」
のほほんと答えるふたりと違って、キーシャだけはきらきらと目を輝かせてメルランスに詰め寄った。
「それってデートじゃないですか! そんなロマンチックな場所にふたりきりなんて! それで、どうだったんですか!? なにがどうなってこうなったんですか!?」
「ちょっ、キーシャ……!?」
「その、き、キスくらいはしました!? 愛の告白とか、そういう……きゃー!」
かしましくひとり盛り上がるキーシャに、メルランスは顔を少し赤くして答えた。
「なにもなかったって! ふたりで星見て獲物取って来て帰ってきた、それだけ! あんたけっこう耳年増だね!?」
「ええ、きれいでしたよ。できればみなさんもいっしょに連れていきたかったんですけど、俺が先走ってしまって……」
今回は危険がなかったからよかったものの、メルランスだけを連れて行ったのは不用心だったかもしれない。獲物は手に入れたとはいえ、団体行動は守らなければならない。南野は大いに反省した。
そんな南野を見て、メルランスはなぜか半目で長いため息をついた。キーシャも同様だ。なにか間違ったことを言ってしまっただろうか? これだから女子のことはわからない。
「……まあ、所詮は蒐集狂の変態ですからね……」
「あたしはべっっっっつにぜんっっっっっぜん構わないけどね?」
すごく気にしている様子で、ぷいっ、とそっぽを向くメルランス。わからないものはわからないのでご機嫌が直るように祈ることしかできない。
「俺だって別にぜんっっっっっぜんうらやましくなんてないぞ!?」
キリトが対抗するように言うのもいまいちよくわからない。頭に疑問符をたくさん浮かべていると、メアが助け舟を出してくれた。
「ともかく、目的のブツは手に入ったんじゃろ? ならよか。今日の獲物はなんぼのもんじゃ?」
話がそれたことにほっとしつつ、南野は『レアアイテム図鑑』をめくった。
浮かび上がってきたのは輪っかの形をしていて手裏剣を大きくしたような刃物だった。
「ええと……『狩人のチャクラム』……『狙った獲物は逃さないという狩人の執念がこもったチャクラム。ダンジョン第四階層のどこかにある宝箱に眠っているという。これを使えばどんなものでも獲物を仕留めることができるだろう』……」
「チャクラムか。威力もあんまりないし確実性に欠けるし、どうも好きになれない武器なんだよね」
メルランスがぼやく。確かに近接武器に慣れているものにとってはまどろっこしい武器だろう。
「ふん、素人が。どんな武器でも使いこなすのが真の冒険者というものだろう」
キリトにしてはマトモなことを言った。それが癇に障ったのか、メルランスがキリトを睨みながら皮肉げに告げた。
「ふぅん、真の冒険者であるジョンさんにとってはお手の物ってわけ。じゃあひとりで探してくればぁ?」
「ジョンって呼ぶな!!……ふっ、俺ひとりでも充分だが、お前たちに俺の華麗なる冒険を見せてやろうという趣向だ。なんといっても冒険者としての経験が違うからな。俺からしてみれば、お前なぞひよっこも同然だ」
「言ってくれるじゃん……じゃあ、今回はあたしたちは見学、せいぜいキリトの華麗なる冒険とやらを拝見するってことで。危ない目に遭っても手出しは一切しないから」
「望むところだ」
妙な話の流れになってきた。これでは団体行動に支障をきたす。慌てて南野が仲裁に入った。
「まあまあ、おふたりとも。そうカッカせずに、仲良く行きましょうよ。仲間じゃないですか……」
そう言ってとりなすが、ふたりともにらみ合って耳を貸そうとしない。
「たしかに同じパーティのメンバーだってことはわかってる。けど、あたしはこいつとはウマが合わない! 前から思ってたけど!」
「それは俺とて同じことだ! 女らしさのカケラもないじゃじゃ馬に大きな顔をされるいわれはない!」
「だれがじゃじゃ馬だ! この歩く黒歴史製造機! くさいんだよ!!」
「黒歴史ではない! そしてくさいって言うな!! 俺は魔神イーグニットのちからによって修羅の道を……」
「ああもう、ふたりとも! わかりましたから! 今回はキリトさんにお願いするとして……でもダンジョンって書いてありますから、勝手な行動は各自取らないこと!」
南野が落としどころをつけると、ふたりは渋々といったていで納得して、ふん!と互いにそっぽを向いた。
やれやれ、パーティをまとめるのも一苦労だ。それも、こうも一癖も二癖もあるメンバーだと特に。
開かれた『レアアイテム図鑑』に全員で手を乗せ、目をつむる。