№20・爪はがし機・4
「……っっ!!」
椅子の上でのけぞって、ぎりぎりのところでその衝撃に耐えた。ひょっとしたらわずかに叫び声を上げていたかもしれない。
目に涙がにじむ。チビりそうだったが、さいわいなことに失禁はしていない。
ぎぃん、と音がしそうなほどの痛みに、しばらく身もだえる。噛みしめたくちびるからも血が出てきた。目を限界まで見開いて、爪がはがれて真っ赤な血肉を晒している親指を見つめる。
いたい。いたい。そして、こわい。
雷に打たれたようにからだをこわばらせる南野を見て、拷問師はひどく満足そうに微笑んだ。
「おや、痛いですか? あはは、そりゃそうですよね。ゆっくり行きますから安心してください。時間はたっぷりあります。まだ九本も残ってますし。ささ、次は人差し指ですね。神経が集まってるからさっきより痛いかもしれませんが、耐えてくださいね」
じゃないと僕が楽しくありませんから、と続ける拷問師。
南野はメルランスに視線を向けた。
いけない、と思っていながらも、その視線はすがるような色を帯びていた。
メルランスが泣きそうな顔をする。いけない、そんな顔をしたら……
「……わかった! 話すから! お願いだからもうやめて!!」
とうとう言ってしまった。南野がふがいないせいで。痛みよりも悔しさがじわりと胸を支配した。
「おや、もう音を上げましたか。よほどこのひとのことが大切らしいですね」
拷問師はどこかつまらなさそうに人差し指にあてがっていたヘラをどけた。
「……卑怯者」
「なんとでも言ってください」
吐き捨てるようにつぶやいたメルランスに、けらけらと拷問師が答える。
メルランスは彼女にとって致命的な情報を敵に開示するだろう。そうなったら『緑の魔女』もろとも彼女は破滅する。彼女は自身の安全よりも南野の開放を願った。
「……メルランスさん……どうして……」
涙声で南野が問いかけると、メルランスは無理矢理に笑って、
「関係ないあんたが、これ以上痛い思いをする必要はない。これはあたしの問題なんだ、あんたがひどい目に遭う必要はない……仕方ないんだよ」
そう言うと、メルランスは深くため息をついた。
あきらめのため息だ。
……すべてが終わった。
それに安堵を感じてしまった自分に、南野は憤りを覚える。
「それじゃあ、上のひとを呼んできますね。いいですか、メルランスさん。こころ変わりはなしにしてくださいね。でないと、またこのひとの爪が飛ぶことになりますからね……僕としてはその方がいいんですけど」
拷問師が去ろうとした、そのときだった。
どぉん!と音がして、重々しい鉄製の扉が紙のようにひしゃげ飛ぶ。
とたん、外の新鮮な空気が薄暗い地下室に流れ込んできた。
「無事か!?」
キリトの声がする。
「あ、こら! 扉ぶち破ったのはワシじゃろがい!」
メアがハンマーで扉を破ったらしい。
「南野さん! メルランスさん!」
キーシャもそろって、駆け足で室内に突入してくる。