№19・フェニックスの尾羽・6
そうか、こういうのが母親というものなのか……ポテトをつまみながら、南野はなんとなくうらやましく思った。
もし自分にも母親がいれば、こういう風に誕生日を祝ってあげたかった。しかし、今となってはどうしようもない話だ。それがひどく切ない。
感傷的な気分に浸るのはやめよう。今日はお祝いの席だ。
気持ちを切り替えようとジュースを飲み干す。すでにケーキもなくなっていて、料理もほとんど平らげられている。そろそろ頃合いか。
「ほら、魔王様。お手紙、書いたんですよね?」
促すと、魔王は気恥ずかしそうに懐から手紙を取り出した。
「書いたのは書いたのだが……その、うまく書けなくてな……」
「いいんですよ、要は気持ちです。さあ、読んであげてください」
魔王が気恥ずかしそうに封を開け、中の紙を取り出す。そして、その内容を重低音の威厳ある声で読み上げた。
「『マッマへ。お誕生日おめでとう。マッマにはいつも心配かけているね。けど、マッマが我を生んでくれて本当に感謝してる。今の我があるのはマッマのおかげだよ。我は魔界の王として魔界を守って、いつか必ず、勇者に倒されたパッパに負けない魔王になって、魔界を守るからね。それまで元気でいてください。魔王より』……以上だ」
読み上げた手紙を封筒に戻してオカンに手渡すと、オカンはかすかに涙ぐんでいた。
「……この子はほんまに、もう……!」
手紙を受け取って、オカンは涙をごまかすように、ばーん!と魔王の尻を叩いて、
「安心しとき! あんたより長生きしたるわ!」
「マッマ……」
「あんたはオカンがおらんとアカンからなぁ! あんた残して死んでられへんわ!」
そう言って笑うと、オカンは大事そうに手紙を割烹着のポケットにしまった。
そして南野たちに向き直ると、
「今日はありがとうなぁ。こんな誕生日初めてやわ。この子もええ友達持ったわ」
「いえ、そんな……」
「南野よ、そしてその仲間たちよ、我からも感謝の意を示そう。マッマも大変満足してくれた。我もこのような誕生日会を開くことができてよかったと思う。やはりそなたに任せて正解だった」
「もったいないお言葉です」
「……ありがとう、南野」
魔王からそう言われて、南野の胸中に言いようのないあたたかさがにじんだ。
こうやって誰かに感謝されることが、これまで仕事をしてきてあっただろうか。仕事だけではない、普通に生活していて、こんなにも『ありがとう』という言葉の重みを感じることがあっただろうか。
蒐集癖が満足したときと同じような、いや、それ以上の満ち足りた気持ちで胸がいっぱいになった。
『やりがい』とはこういうことなのだ、と思った。
「……こちらこそ」
少し面映ゆく思いながらにっこりとそう返すと、魔王とオカンは南野の手を握ってかたく握手をした。