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№19・フェニックスの尾羽・5

 声をかけると、魔王とオカンが扉を開けて入ってきた。


 とたん、ぱんぱん!とクラッカーの音が鳴る。


「な、なんやなんや!?」


 驚くオカンを前に、南野たちは明かりをつけた。


「お誕生日おめでとうございます、お母様!」


 笑顔で拍手を送る南野たち。会場は小学生のお楽しみ会のようにチープな飾りつけが施されており、テーブルにはすでに運ばれてきていたケーキやフライドチキン、ポテトやジュースなどの料理が並んでいる。


「マッマ、お誕生日おめでとう」


 魔王が拍手をしながら身をかがめ、パーティールームへ入ってきた。それに続いてオカンも目をぱちぱちさせながらおっかなびっくり入室する。


 魔王は用意していた花束をオカンに差し出した。


「はい、マッマ」


「この花……人間界のやつやん!? 珍しい!」


「南野たちに言って用意してもらったのだ」


「オカン人間界のお花好きやわー。あー、ええにおい。うれしいわぁ」


 オカンは花束を抱きしめ、満面の笑顔で香りを吸い込む。


「それと、これ」


 続いて魔王が差し出したのは、きれいにラッピングされた包みだった。かわいらしい赤いリボンがかかっている。包みと魔王を交互に見つめながら、オカンは、


「なにこれ? 開けてええん?」


「もちろん」


 魔王が答えると、オカンは丁寧にリボンと包装紙をはがし、中身を取り出した。


「これ……?」


 広げてみたのは、白い割烹着だった。魔王を見上げると、気恥ずかしげに骸骨の頬を掻きながら、


「……我が手縫いで作った……マッマのエプロン、もう五千年くらい使ってるから……」


 エプロン、五千年持つのか。軽く驚く南野だった。


 オカンはあれこれ割烹着を眺めてから、エプロンを脱いで袖を通した。後ろで紐を結んで、腕を動かしてみる。


「ええわー、これ! これやったら家事しても汚れへんわ! あんたこれ自分で縫ったん? すごいやん! ありがとなぁ!」


 オカンは至極ご満悦の様子だ。割烹着を身に着けたオカンをテーブルへと促して、横断幕が良く見える席へと案内する魔王。席の前には大きなイチゴのバースデーケーキが置かれていた。大きな蝋燭が五本と小さな蝋燭が三本立っている。


「なんなん、これ?」


「これはバースデーケーキといって、わたくしのいた世界では誕生日にみんなで食べるものです。こうやって年の数だけ……といっても、五万三千本も立てられないので減らしたんですけど、蝋燭を立てて火を吹き消すんです」


「なんやけったいな儀式やなぁ!」


 言葉こそ怪訝そうだが、オカンの表情は楽しげだ。


 南野たちは再び明かりを消して、蝋燭に火をともした。暗闇に浮かび上がる魔王の影を見るとなんだか異教の儀式めいて見えるが、これはあくまでバースデーケーキだ。


「さあ、これからお誕生日の歌を歌いますから、終わったらお母様が一息で火を消してくださいね」


 南野が指揮を執って、あらかじめ練習しておいたバースデーソングを全員で歌い出す。


『ハッピーバースデーマッマー♪ ハッピーバースデーマッマー♪ ハッピーバースデーディアマッマー♪ ハッピーバースデートゥーユー♪』


 短い歌が終わって、オカンが大きく息を吸い込んで蝋燭を吹き消す。再び暗闇に落ちた室内に、一同の拍手の音が響いた。


 明かりをつけ直して、魔王がかがみながらオカンの手を取って、


「お誕生日おめでとう、マッマ」


「あらぁ、なんや照れるわぁ」


 至極うれしそうなオカンに、キリトが色とりどりの紙吹雪を降らせた。


「異世界やとこういう風にお祝いするんやなぁ、ケーキも人間界のやつやし、新鮮やわぁ」


「ご満足いただければさいわいです」


「南野よ、そなたのおかげで思い出に残る誕生会になった。礼を言おう」


「いえいえ、そんな。さあ、料理とケーキをいただきましょう。お母様もどうかリラックスなさってください」


 南野がへりくだって言うと、パーティーがスタートした。席についてブドウのジュースで乾杯をし、骨付きのチキンなどを食べながらなごやかな談笑タイムとなる。


「この子はなぁ、今でこそまあまあようやっとるみたいやけど、一万歳くらいのころは手が付けられん子でなぁ、オカンのこと『うるせえこのババア!』とか言うて、部屋にも入れてくれへんかってんで」


「ふふ、魔王にも反抗期あるんじゃん……」


「そっ、それは! マッマが勝手に部屋の掃除をするからであろう!」


「あんたそんなにえっちな漫画見られるのいややったん?」


「わかる、わかるぞ魔王よ!」


「思春期特有の現象ですねー」


「お友達連れてきたと思てもオカンには挨拶もさせてくれんし、カルピスも飲まへんし、オカン悪い友達と悪いことしとるんちゃうかって心配やったんやで」


「いや、だってマッマ、あれ友達とかじゃなくて手下……しかも作戦会議……」


「赤ちゃんのころはほんまに手のかからんええ子やったのになぁ。二千歳くらいまではおねしょもしとったけど……」


「もういいだろうマッマ!? 昔の話はやめてください!!」


 ばりばりの重低音で泣きを入れる魔王に、オカンはケーキを食べながら笑って見せた。

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