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№19・フェニックスの尾羽・3

 三階の一番眺望のいい部屋、黒で統一されたインテリアの落ち着いた広々とした部屋がパーティールームだった。


「さあ、お誕生日会の準備ですよ! 張り切っていきましょう!」


「いやいやいやいやいや! お誕生日会っていっても、あの魔王の母親だよ!? どう考えても魔王よりヤバいのしか出てこないじゃん!」


「あの魔王の母親だぞ!? どんな魔女が出てくるか……!」


「うう、私、今すぐ逃げ帰りたいです……」


 弱音を吐く三人を前に、メアだけが南野に向き合って尋ねてきた。


「まずなにするんじゃい?」


「メアさん……」


 南野が目を見開くと、メアは恥ずかしげに頬を掻いてつぶやいた。


「……どんなおぞましい魔女だとしても、母親じゃ……ワシには母親がおらんからのぅ、せめて母親に孝行したいっちゅう魔王の心意気は汲んでやりたいんじゃ」


「……ありがとうございます」


「ほれ! ワレどももしゃきっとせんかい! もう芋引くんは無理じゃ! こうなったら魔王の母親の誕生日、きっちりケジメつけて祝ったらんかい!」


 メアが檄を飛ばすと、他の三人も次第に落ち着きを取り戻してきた。


「……そうだな、魔王とはいえ今回は孝行息子として母親の誕生日を祝いたいと言っているのだから……」


「……ここで逃げ帰っちゃかわいそうですよね」


「……まあ、これで『フェニックスの尾羽』が手に入るわけだし、やらないわけにはいかないよね」


「そうですよみなさん! 魔王様の思いを届けるために、俺たちでできることをしましょう! 『フェニックスの尾羽』を手に入れるためにもなりますし!」


 南野も負けじと一行を励ます。次第にやる気になってきたのか、活気がみなぎってきた。


「よし、やるぞ!」


「気は進まないけど、ま、やるだけやるか」


「南野さん、指示をください!」


「そうでうすね、まずは……」


 南野はてきぱきと四人に指示を出した。ついでにドアの外に控えていた衛兵に必要なものを伝える。


 持ってきてもらったのは、大量の色紙と色付きのティッシュのような紙、ハサミとゴム紐と糊だった。


 それぞれ持ち場に散り、作業に入る。


 南野は色紙で鎖のガーランドを作り始めた。子供のお誕生日会でよくあるアレだ。色紙を細く切って糊で次々とつなぎ合わせていく。


 いっしょに作業をしていたキーシャがふと聞いてきた。


「そういえば、南野さんやけに張り切ってますけど、お誕生日会が好きなんですか?」


 その問いかけに、南野は思わず苦笑してしまった。


「いいえ。お誕生日会なんてやったことないです。話に聞いてただけで」


「じゃあ、なんで……?」


「俺もメアさんと同じように母親が物心つく前に死んでるんです。父親は海外を飛び回ってほとんど家には寄り付かなかったですし、母親の誕生日を祝うなんてやったことがないんです」


 色紙を次々とつなぎながら南野は続ける。


「友達もいなかったからお誕生日会に呼ばれたこともないですし。思えば、俺の蒐集癖も満たされなかった幼少時代を取り戻すために根付いたものかもしれませんね」


 自嘲気味にうそぶくと、キーシャは眉をひそめて悲しそうな顔をした。


「……そうだったんですね。ごめんなさい、お母さんが亡くなってるのに私、あのときあんな風に家族の愚痴なんて軽々しく言っちゃって……」


 あのとき、というのは『嘆きのミセリコルデ』を手に入れるときに山賊討伐をした、あのときだろう。彼女は家族に疎まれていると言っていた。


「気にしないでください。誰にだって家族の悩みはあります。俺はたまたま母親が死んでたってだけで、キーシャさんが気にすることじゃないです」


 にっこり笑いながら答えると、キーシャは悲しげな顔を改めて、俄然やる気を出した。腕まくりをして、すごい勢いで色紙を切り始める。


「だったら、なおさらお誕生日会成功させなきゃいけませんね! 異世界式のお誕生日会、興味深いですし!……魔王のお母さんは怖いですけど」


 なんにせよ、協力的になってくれたのはありがたい。キーシャはやさしい子だ。彼女が切ってくれた色紙をつなぎ合わせながら、南野は満足げに笑った。


「おう、南野」


 色紙の鎖がだいぶん出来上がってきたところで、メアが南野に声をかけてきた。


「これ、どうしたらいいんじゃ? うまくできんのじゃが」


 差し出してきたのはティッシュのような色紙とゴム紐だった。


「ああ、これ。頼んでたやつですね。コツがいるんですよ、これ」


 南野はそれを受け取って、五六枚手早く蛇腹に折った。真ん中にゴム紐を通して、開く。あとは一枚ずつ引っ張り出すだけだ。


 完成したバラの造花をメアに差し出して、


「ほら、こうやって」


「……かわいい」


「できるだけたくさん作ってくださいね」


「わかった!」


 大量のティッシュを抱えて、メアは少し離れたところで作業に没頭した。

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