№19・フェニックスの尾羽・2
「よかった、魔王様なら顔見知りだ」
「ぜんっっっっっっっぜんよくない!!」
「あばばばばばば、魔王と顔見知りって……!?」
「以前取引したことがあるんですよ。いいひとですよ?」
「嘘だ! 魔王と言えば悪逆非道、村を焼きひとを殺し魔物の餌にするようなやつだぞ!? いいひとなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、こんにちはー」
大混乱に陥るパーティをしり目に、南野は衛兵に声をかけた。例によって小さな通用口から出てきている。今度は牛の頭をした腕が六本ある衛兵が、南野たちに目を止めた。
「先日はどうもありがとうございました。南野アキラと申します。魔王様からお呼び出しを受けてまいりましたが、魔王様にお取次ぎ願えないでしょうか?」
「ああ、南野さんですか。魔王様から聞いてますよ、すぐに通すようにと。こちらへどうぞ」
衛兵はそのまま南野たちを促すように通用口へと入っていった。
「……どーすんの……やだよあたし……」
「……私だって怖いですぅ……」
「……俺はチビりそうだ……」
「……魔王……なんぼのもんか……」
しり込みする四人の背中をせかすようにせっつき、南野たちは城内へと入っていった。
相変わらず悪趣味な見た目だが、別に南野たちに敵意を見せたりはしない。ただ、檻の中に入っている正体不明のけものたちがよだれを垂らしてこっちを見ているのはいただけなかった。
城内に入ると髪が蛇の女や紙袋をかぶった紳士たちが闊歩していたり、人間の最期の断末魔を描いたと思われる絵画が飾られていたりとカオスだったが、衛兵に連れられている南野たちを咎めるものは誰もいない。
やがて一同は巨大な扉の前までたどり着いた。謁見の間だ。衛兵にかしこまるよう言われたあと、扉が重々しい音を立てて開く。
真っ赤な天鵞絨のじゅうたんの先の玉座には、天井まで届くほどの身の丈の骸骨姿をした魔王が鎮座していた。以前と変わらずすさまじい威圧感だった。が、昔相手にした半分ヤクザの取引先の社長に比べればまだマシだ。
「おお、南野か、よく来たな」
ほら、こうしてフレンドリーだ。
だというのに、他の四人は生まれたての小鹿のように膝をがくがくさせている。キリトに至っては早速腰を抜かして泡を吹いている。
「事前のアポも取らず申し訳ございません」
「よい。そなたには借りがあるのでな。それに、今回は頼みごとをする立場だ」
重低音ばりばりの声で言う魔王に、南野は深々と頭を下げた。頭を下げるのがジャパニーズ・サラリーマンの仕事だ。
「ありがとうございます。それで、頼み事というのは一体……?」
南野の問いかけに、なぜか魔王はしばらく口ごもった。
それからようやく口を開く。
「今日は我のマッm……我を生み出せし母なる存在の生誕祭なのだ。今まで毎年欠かさず祝ってきたが、いささか通り一遍の祝祭にしかならぬ。そこで、そなたに異世界仕込みの一風変わったもてなしをしてもらいたいのだ」
「ああ、お母様のお誕生日なのですね! おめでとうございます!」
「……母親、と言っても我という混沌を生み出せし虚無なのだが……別に母親とかではなく……」
「そういうことでしたら、ぜひお手伝いさせてください!」
南野が快諾すると、魔王はかすかに目を細めて笑った(ように見えた)。
「そなたならそう言ってくれると思っていた」
「それで、その……大変恐縮ではございますが、その対価としていただきたいものがありまして」
「ほう、なんだ? 言ってみよ」
魔王が鷹揚に答える。南野は魔王を見上げながら、
「『フェニックスの尾羽』を……今回はこれが必要なんです」
「『フェニックスの尾羽』、か。それなら宝物庫に山ほど積んであるわ。好きなだけ持っていくがいい」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げると、南野は早速魔王とお誕生日会の打ち合わせを始めた。他の四人はひと固まりになってがたがたと震えている。
「……本当に、これでよいのか?」
「ええ、それがわたくしどもの世界での一般的な誕生日祝いです。きっとお母様もお喜びになりますよ」
「むぅ……」
少々渋い顔をする(ように見える)魔王に会場の場所を聞くと、南野一行はそのパーティルームへと向かった。