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№17・ヤードラの槍・2

「そ、それなら話は早いです。その『ヤードラの槍』、俺たちに譲ってもらえませんか? どうしてもそれが必要なんです。お邪魔した上に申し訳ないのですが、何卒よろしくお願いいたします」


 南野が頭を下げると、ヤードラじいさんは、ふむ、と鼻を鳴らした。なにやら考え込んでいるらしい。


「……考えんでもない。儂にはもう必要ないものじゃからな」


「! だったら……!」


「じゃがな、条件がある」


 人差し指を立てて、ヤードラじいさんは、にやり、と笑った。


「最近からだがなまってきておってなぁ。ここらでひとつ、昔を懐かしんで槍を手にしたいと思うんじゃよ……要するに、儂と勝負をして、勝ったら『ヤードラの槍』をやろう」


「……勝負?」


 妙な話になってきた。いくら元凄腕の傭兵とはいえ、相手はお年寄りだ。乱暴するわけにもいかない。


「あのね、おじいちゃん。そういうの、年寄りの冷や水って……」


「誰が年寄りじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 大音声の反論に、さすがのメルランスもたじろぐ。


「いくら年を食って腕がなまったといっても、まだまだ若造相手には負けんわ! 儂はヤードラ! いくつもの死線をくぐってきた元傭兵じゃ! さあ、勝負せい!!」


 これは言っても聞かないタイプのじいさんらしい。ヤードラじいさんはやる気満々だ。ここはひとつ、メルランスに頼んでさくっと倒してもらおう。


「わかりました。その勝負、受けます。こちらが勝ったら『ヤードラの槍』をもらい受ける、それでよろしいですね?」


「おうともよ! 外で待っておれ、今槍を取ってくるからの!」


 そう言って、ヤードラじいさんは意気揚々と厩舎を出て行った。


「……どうすんの、これ?」


「……まあ、相手はお年寄りですから、できるだけ穏便にお願いしますね」


「ワシがやる! あのじいさん、タダモノじゃなさそうじゃけえ、楽しめそうじゃ!」


 メアが巨大ハンマーを掲げて言った。


「じゃあメアさんに任せます。いいですか、本気を出しちゃダメですからね、相手はあくまでご老人ですから」


「わかっとるわい!」


 メアは楽しそうに厩舎を出て行った。それに続いて南野たちも外に出る。


 外は柵に囲まれた牧草地になっていた。そよ吹く風が草のにおいを運んでくる。遠くには麦や野菜を育てているらしい農地が広がっていて、本当にヤードラ翁は現役を退いて乳しぼりと農作物で生計を立てているらしい。


「待たせたな!」


 南野たちが振り返ると、そこには農夫姿の上にブレストアーマーをつけて、長大な槍を携えたヤードラじいさんが立っていた。武具をつけるとからだが一回り膨れ上がったような威圧感がある。歴戦の傭兵というのは伊達ではないらしい。


「おう、ワレ、多少の怪我で済ましたるけんの、とっととかかって来いや」


 ハンマーを構えるメアに、ヤードラじいさんは渋い顔を向けた。


「待て。儂はおなごと戦うつもりはない」


「おおん!?」


 気勢をそがれたメアがハンマーを下ろす。ヤードラじいさんは槍を肩に担ぎながら、首を横に振った。


「儂はおなご相手に手を上げたことはない。それが矜持じゃ。相手にするなら男しか認めん」


「そんな……!」


 唐突な条件の追加に、南野がうろたえた。当然ながら南野には武術の心得はない。ということは……


「おい、そこのお前、エルフの小僧」


「お、俺!?」


 水を向けられて、当のキリトも困惑している。辺りを見回し、自分を指さす。


 ヤードラじいさんはうなずき、不敵に笑った。


「その腰の細剣、飾りじゃなかろう? 男なら儂とひと勝負せい!」


「え、でも俺……」


「お願いしますよ、キリトさん。あなたしかいないんですから」


「……わかったよ……」


 渋々といったていで前に出るキリト。両手の細剣を抜けば、勝負の始まりを告げるかのようにひと際強い風が牧草地に吹き抜けた。


「その意気やよし! 手加減はせんぞ、お前も全力でかかって来い! 魔法を使っても構わんぞ!」


「そっちこそ、あんまり気張ると怪我するから……」


「でえええええええい!!」


 言い切る前にヤードラじいさんが槍を構えて飛びかかってきた。


 老人とは思えないほど速い。年季の入った構えで薙ぎ払われた槍の穂先に、ぼ、と炎の色がともる。


「くっ……!」


 予想外の攻撃に、寸でのところで後ろに飛び退って穂先をかわしたキリトが細剣を握りしめた。


 腕がなまった、などというのはとんでもない。老人は今でも現役の傭兵に引けを取らないほどの腕を持っている。

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