№13・オーガの角・4
「問題は、今後この子をどうするかだけど……」
腕組みするメルランスに、キーシャが申し訳なさそうにつぶやく。
「私は寮暮らしですから、連れてはいけませんね……」
「このアホについていかせたらあらぬ間違いが起きかねないし」
「失敬な! 俺はロリコンじゃないぞ!」
「どうだか」
心底メルランスはキリトを信用していない様子だった。ロリコン疑惑までかけられて少しかわいそうだとは思ったが、そもそも成人男性と二十歳とはいえ見た目が十歳の女の子がいっしょに生活するのは無理がある。
「だったら貴様が引き取ったらどうだ!」
「あたし? あたしはやーだよ。あたしのお金はあたしのためだけにあるんだもん。オーガの女の子ひとり養うのはやだ」
「ここでも『あたしのお金』か! この守銭奴!」
「うるさいロリコン」
「ロリコンじゃぬぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「あ、あの……じゃあ、俺と同じでこの宿の一室を借りるというのはいかがでしょうか? 物置はまだあるし、雑用さえすれば置いてもらえると思います」
「ま、それが妥当だね」
南野の意見が採用された。当事者のお嬢様は不思議そうな顔をしている。こうしていると年相応に見えるから不思議だ。
南野は小さな幼女の背丈に合わせるようにしゃがんで、目を見て話した。
「俺たちといっしょにいると必然的にレアアイテムを集める旅に出ることになりますが、大丈夫ですか?」
その問いかけに、お嬢様は、ふん、と鼻を鳴らした。
「腐ってもオーガじゃい、ドンパチでも抗争でもなんでも来いや!」
「それは頼もしいです」
思わず頭をなでると、お嬢様は不機嫌そうにうつむいていたが、手を払うことはしなかった。
手を差し出すと、お嬢様はおずおずとその手を握り返してくる。やわらかくて小さい子供の手だ。
「これからよろしくお願いしますね……あ、名前を聞いていなかったですね」
「メア!」
「メアさん、俺は南野と言います。こっちの女性がメルランスさん、俺の相棒ですね。こっちのローブの女の子がキーシャさん。教会学校の魔法科の生徒さんです。この男のひとがキリトさん。エルフです」
「ぷ。エルフ……」
「あ、笑ったな小娘!? 我が血族を侮辱すると許さんぞ!」
「おん? やんのかワレ?」
「……すいません、調子乗りました」
速攻で頭を下げるキリト。幼女相手にこのありさまである。
メアは新しく生えた頭の角を触りながら、感慨深げにつぶやいた。
「ワシは大人になった。大人には大人の生き方っちゅうもんがあるな」
「大人って、案外自由なんですよ」
「ワレ見とったらわかるわい」
きひひ、と笑うメア。初めて年相応の笑顔を見た気がする。
「とにかく、これからこの五人でパーティを組むんですから、仲良くやっていきましょう」
「メア、よろしくね」
「困ったことがあったら言ってくださいね!」
「うう、俺こいつなんか苦手……」
「安心せい、ワシかてワレみたいなもんは嫌いじゃ」
断言されてがっくりと肩を落とすキリト。
各々苦笑いを浮かべながら、その日は夜も遅いということでお開きとなった。
ふたり残された南野とメア。
メアは心細そうに南野のスーツの裾をぎゅっと握りしめ、上目遣いで問いかけてきた。
「……うまくやっていけるじゃろか……?」
まるっきり子供みたいな仕草を微笑ましく思って、南野はまたメアの頭を撫でた。
「大丈夫です。さあ、まずはマスターに寝床の交渉をしに行きましょう。メアさんなら女給さんが務まりますよ」
「女給……」
不安そうにする背中をなでながら、南野はカウンター裏にいるであろう店主の元へとメアを連れて行った。
……かくして、またパーティのメンバーが増えた。
この縁が一体どこへ南野を連れていくのか、まだ誰も知らない。