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№13・オーガの角・2

 どさり、と床に落とされた四人の前には、ひとりの幼女が椅子に座っていた。肌色は赤くもなく、むしろ普通の人間よりも白い肌の色だ。現代で言うところのゴシックロリータというのだろうか、やたらひらひらした白黒の豪奢なドレスを着ている。


 しかし、人間とは明らかに違っている点がひとつ。


 額には短い角が生えていた。


「客人……?」


 鈴の転がるような声音だったが、確かに値踏みするような声色だ。真っ赤な大きい目をすがめて、南野たちをじいっと眺めている。


「へい、お嬢の成人の儀の宴席に立ち寄ったと」


「ふん、成人の儀か……祝うほどのことでもないじゃろ」


 なんだろう、見た目は十歳くらいの可憐な幼女なのに、妙な貫禄がある。椅子で足を組んで、退屈そうにそっぽを向いた。


「まあまあそう言わんでくださいお嬢。オジキも張り切りってることですし」


「あのクソ親父……」


「あのー……話がよく見えないのですが」


 たまらず南野が声を上げると、オーガたちは不審そうな目をして四人を見つめた。


「なにって、お嬢の成人の儀に決まっとるじゃろう」


「お嬢は今日で二十歳になるんじゃ」


「角も生え変わるしのう」


 どうやらオーガも人間の年の取り方とは違うらしい。


 ヤクザ堅気のオーガたちのお嬢様は今日で二十歳。そして……


「角が?」


 これはチャンスだ。うまくすれば荒事なしで『オーガの角』が手に入るかもしれない。


 身を乗り出した南野を、オーガのお嬢様は姫君のように睥睨した。


「おう、人間」


「は、はい!」


「祝宴に駆け付けた言うとったな。手土産はあるんやろうな?」


 失念していた。その場しのぎの嘘はこういうところでボロが出るのだ。


「手土産はー……そのぅ……」


 南野がしどろもどろになっていると、メルランスが、ずいっ、と一歩踏み出して言い放った。


「手土産はあたしだよ」


「ほう? 人間の小娘が?」


「そう。あたしはこいつの奴隷だからね。オーガたちの間で煮るなり焼くなり好きにしたらいいって」


 あまりにも博打すぎるメルランスの言葉に、目を白黒させた。当然ながらメルランスは貢物などではないし、そもそも何をされるかわからない。


「……大丈夫だって。隙をついて逃げてくるから」


 そっとメルランスが耳打ちしてくる。その言葉を信じるしかない。ここは話に乗ろう。


「そうなんです。この奴隷をオーガのみなさんに献上しようと参上しました」


 すると、オーガのお嬢様はドレス姿には似合わない豪快な仕草で膝を叩いて大笑いした。


「がっはっはっは! なんとも剛毅なことじゃのぅ! ワレ、ウチの組にゲソつけるつもりか?」


「ゲソ……?」


「もちろん。下足番からトイレ掃除までなんでもやるよ」


「ウチの組は厳しいからのう、途中で逃げ出されたらかなわん」


「まさか。このご主人様にしっかりと調教されてるから」


 ちらり、南野を見やるメルランス。あまりにも急展開過ぎて南野はこくこくとうなずくばかりだ。


「ま、ええわい。人間風情が祝宴に駆け付けるとは殊勝な心掛けじゃあ。普段はすぐさまタマ取るところじゃが、今日は特別じゃけ、ゆっくりしてけ」


「さあ、祝宴の準備じゃ! ワレども働け!」


 オーガにせかされて天幕を後にする。


 去り際、お嬢様の赤い瞳が、きらり、と何かを捕らえたような色を宿したような気がした。気のせいだろう。今のところ話はうまくいっている。


 祝宴に紛れて生え変わった後の角を回収して、メルランスを逃がして宿に戻る。オーガたちと事を構える面倒さを考えたら理想的なプランだ。


 オーガたちに連れ出された南野たちは酒を運んだり飾りつけをしたりかがり火の準備をしたり料理を作ったり(キーシャは一切混ぜていない)と大忙しだった。


 女子供たちに交じって準備をしているとあっという間に日が暮れる。


 夜が来て、宴が始まった。


 大きな焚火を囲み、巨大な肉をかじったり酒を飲んだりするオーガたちを横目に、南野は機会をうかがっていた。どこかでお嬢様とふたりきりになれないか。


「おう、オノレら!」


 そわそわと肉をかじっている南野の耳に、ひときわ重々しい男の声が響いた。


 見れば、他のものたちよりも一回り大きい傷だらけのオーガが酒瓶をぐびぐびやりながら機嫌よさそうに立ち上がっている。


「ワシの娘ももう二十歳じゃ! めでたいのう! はよう婿取って跡目継いでもらわにゃならんわ!」


「…………」


 その隣で、ドレス姿のお嬢様は不機嫌そうな面持ちで肉をかじっている。


「ワシらオーガは数が少ない。シマは守らにゃいかんが、もうタマの取り合いの時代は終わったんじゃ。これからはびじねすらいくな関係をむすばにゃならん。手始めに隣村の組長の息子とうちの娘の縁談が持ち上がった! これでしばらくは安泰じゃあ!」


「さすがオジキ!」


「これでワシらも安心して暮らせるわい!」


 酔ったオーガたちがわあわあと組長に群がる。


 そんなとき、す、とお嬢様がその場を離れた。酒瓶を片手にあの大きな天幕に戻っていく。


 今だ。南野はメルランスだけを連れてテントへ向かった。

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