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№13・オーガの角・1

「『オーガの角』!?」


 『レアアイテム図鑑』を覗いていたメルランスが、がたっ、と席を立った。


 他の二人も顔を青くしている。


「そ、そんなにマズイ相手なんですか!?」


 いつもの酒場、遅い朝に集まったメンバーを見渡しながら、南野はつられて青ざめた。


「……あんまり関わりたくない種族だね」


 苦い口調でつぶやくメルランスに、キーシャがうなずく。


「私も話には聞いてますけど、ずいぶんと乱暴なひとたちらしいです……」


「オーガ……鬼とも呼ばれる種族だ。一応村を作っていて人間の言葉は通じるが、話が通じるかどうかは……」


 キリトも珍しく及び腰だった。


 ごくり、唾を飲む。


「そんな物騒な相手の角を引ん剝くなんてのは……」


「かなりの覚悟が必要だね」


 うなずくメルランスに、南野は芋の皮むきを中断して立ち上がった。


「けど、言葉が通じるならなんとか活路はあるはずです。荒事は俺の管轄ではないですが、交渉事は……」


「そういう次元じゃないから」


 はっきりと断言されて鼻白む。これまで南野の交渉術に絶大な信頼を置いてきたメルランスがこう言っているのだ、これはかなり骨の折れる案件になりそうだった。


「話が通じないの。あいつらはあいつらの都合だけで動くから。角くれって言ってもくれるわけない」


「じゃあ、どうやって……」


「襲撃して無理やりへし折って持ってくるしかないね」


 だんだん話が大きくなってきた。恐る恐る尋ねる。


「……強いんですか?」


「オーガは武闘派だ。斧や大槍を使う。からだはでかいし、戦うなら全員がかりでひとり相手に奇襲だな」


 キリトが腕を組みながらうなった。


「……全員無事ならいいんですけど……」


 キーシャまでもが不吉なことを口走る。


 なんだかお通夜モードだ。


「と、ともかく! 行ってみましょうよ、オーガの村に!」


「そうだね、『レアアイテム図鑑』にある以上、避けて通れないんだから」


「私もできるだけお手伝いします!」


「オーガか……腕が鳴るな」


「なんかさっきから膝が笑ってるけど?」


「武者震いだ!」


 あれやこれや不安材料を抱えながら、四人はこわごわと『レアアイテム図鑑』に手を置いて目をつむった。


 次に目を開けると、そこには荒野に開けた村があった。ちょうど村の入口のゲートの手前だ。吹き抜ける砂塵の中、あちこちに大きなテントが張られている。オーガたちの居住スペースなのだろう。


「これが、オーガの村……」


「とりあえず、最初に出てきたやつを襲おう。物陰から奇襲、全員でかかる。武器を抜かせる隙を与えないで」


 メルランスが指示を出し、辺りに遮蔽物がないかを見回していたときだった。


「おう! なにしとんじゃワレ!?」


「カチコミかぁ!?」


「見慣れん顔じゃのぅ、どこの組のもんじゃ!?」


 いきなり武装した三人のオーガたちに見つかった。立派な角が生えた、赤い肌をした上裸の男たちだ。虎の腰巻をしていて、身の丈は三メートルほどある。手に手に斧や大槍を構えている。


 メルランスが舌打ちした。かなりまずい状況らしい。


「あわわわわわ……!」


「おおおおおお……!」


 キーシャもキリトも恐慌状態だ。ここは南野が冷静さを取り戻さなければ。


「こ、こんにちは……!」


 なにごとも挨拶からだ。南野は三人のオーガたちに向かって頭を下げた。


 こちらの敵意のなさをわかってもらいたかったのだが、オーガたちは各々怪訝そうな顔をした。


「人間風情がなんの用じゃぁ……?」


「いえ、たまたま近くを通りかかったものですから……!」


 まさかいきなり『角をくれ』と言えるはずもない。


 ぎゅっと目をつむって、ごまかされてくれ、と念じていると、オーガたちは予想外の言葉を口にした。


「お前ら……まさか、お嬢を祝いに来たんか?」


「…………へ? お祝い?」


「……違うんかぃ?」


「そっ、そうです! お嬢さんのお祝いに参上いたしました!」


 ここは話に乗っておくしかない。まったく訳が分からないが、この場を切り抜けるには南野お得意の口八丁しかなかった。


「がっはっは! そうか! そいつぁいい!」


「わしゃあてっきりカチコミかと思うたわい!」


「めでたいことは人間にも伝わっとるんじゃのう!」


 オーガたちは武器を収め笑う。ずらりと並んだ牙が鈍い輝きを放っていた。


 四人はすぐさま円陣を組んでないしょ話を開始した。


「お祝いってなに……?」


「さっぱりわかりません」


「お嬢、とか言ってましたね……」


「オーガたちの子供か?」


「ともかく、なにかめでたいことがあったみたいですね」


「いいじゃん、奇襲は失敗したんだし、そのお祝いとやらにまぎれて……」


「お祝いの席で角なんてひん剥いたらそれこそ殺されませんか……?」


「こ、ここは一旦引き返して体制を整えて……!」


「おう、ワレども、なにやっとる? はよ宴席の用意手伝えや!」


 首根っこをつかまれて吊るされて、オーガたちは南野たちを村の中へと連れて行った。さいわいにもないしょ話は聞かれていなかったらしい。


 ここはおとなしくしていて、宴とやらに加わるしかないらしかった。


 村はかなりにぎわっているらしく、テントには素朴な飾りつけがされていて、子供たちが走り回り、女たちは忙しそうに動き回っている。


 こうして見ると、人間の村とそう変わらない。


「宴席の準備の前に、お嬢にお目見えじゃな!」


 そう言うと、オーガたちはひときわ大きなテントへと南野たちを連行していった。


「お嬢! 人間の客人がお見えです!」


 天幕をめくると、そこはかなり広いスペースになっていた。立派な毛皮が敷かれた藁ぶきの床に、囲炉裏端の火が小さく揺れている。

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