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№09・大蠍の尾・4

「ふむ、なるほど……ずいぶんと面白そうなことになっているようだな」


 キリトは口の端を釣り上げて笑い、赤いマントをばさりとひるがえした。


「いいだろう、俺のちからを欲するならばこい願うがいい。この魔神のちからを宿した……」


「あ、人手は足りてるんでいいです」


「そんなこと言うなよぉぉぉぉぉぉ!!」


 あっさりと断った南野にキリトは半泣きになりながら取りすがった。


「絶対役に立つから! 俺強いしカッコいいし、パーティに入ったら絶対損はないって!!」


「ちょ、やめてくださいよ」


 必死の懇願だった。しかし男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。振りほどこうとしていたそのときだった。


「南野!」


 メルランスの緊迫した声が走る。きょとんとする南野を、今度はキリトが突き飛ばした。


「危ない!」


 声がしたのと、南野が砂漠に倒れるのと、どす、と嫌な音がしたのは同時だった。


「……キリト、さん……?」


 砂地にへたり込んだまま見上げると、キリトは苦しげな表情で肩口を抑えている。そしてがっくりと膝をつき、そのまま倒れ込んでしまった。


「『第七十六楽章の音色よ! 創生神ファルマントの加護のもと、虚空に爆ぜる無色の狂乱のごとき旋律を解き放て!』」


 メルランスが口早に詠唱すると、キリトの背後にいた瀕死の大蠍の腹辺りで空気が爆発した。からだの半分を爆砕されて、今度こそ大蠍は絶命する。


「……くっ……仕留め損なっていたか……!」


「しゃべらないで!」


 砂地に這いつくばって呻くキリトに、メルランスとキーシャが駆け寄る。


「……多少活性は失われてますが、確かに大蠍の毒が回ってます……!」


「回復魔法でどうにかならないの?」


 問いかけるメルランスに、キーシャはゆるく首を横に振った。


「体力の回復や造血の魔法ならあるんですけど、特定の毒素を除去する魔法はないんです。こればっかりは、血清を打たないと……」


「冒険者ギルドの医務室にあるかも!」


 そう言うと、メルランスは大蠍の残骸を振り返って短刀を取り出し、一撃でその鋭い尾をもぎ取った。それを南野に投げてよこす。


「ほら! 今回の目的はこれでしょ!? 終わったなら早く連れて行かないと! あんたがそいつ担いで!」


「……ううううう……死にたくなぁい……死にたくないよぅ……!」


 めそめそするキリトのからだを肩に担いで、南野は『大蠍の尾』をリュックに納めた。こうなれば、一刻も早く帰らなければ。


「大丈夫です、死にませんから」


「……うう……だって、ここから冒険者ギルドまで……三日はかかるし……」


「こっちには『緑の魔女』のちからがついてます」


 そう言って、南野は『レアアイテム図鑑』を取り出した。ページをめくり、四人で手のひらを図鑑に乗せ、目を閉じる。


 次に目を開けたときには、四人はもとの酒場に帰って来ていた。昼時とあって、昼食をとりに来た冒険者たちで酒場はそこそこにぎわっている。突然現れた四人に奇異の視線を向けるものもいたが、ほとんどは気にしていない。


「……これが、『緑の魔女』のちから……」


「そうです。さあ、早く医務室へ」


 メルランスも手伝って、キリトを酒場の隣の医務室へと連れていく。


 ドアを開けて最初に感じたのは、きつい薬品やハーブのにおいだった。隅には骨格標本が置かれ、整体院にあるような人体の筋肉図のような張り紙、ランドルト環の張り紙なども張られている。ベッドはあまり清潔そうではなさそうだったが、この際文句は言っていられない。

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