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№100・×××××・中

「……なん、の……?」


 メルランスが呆然とつぶやく。ここまで来てこの結末か。運命は残酷すぎる。


「……うそ、でしょ……?」


「きゃはははははははは!! 私のたましいがそう簡単に斬れると思った!?」


 これも『赤の魔女』が仕組んだエンターテインメントだとしたら、彼女はきっと大物の悲劇作家になれる。


 取り残された面々はなんとかして南野のたましいを繋ぎ止めようとした。


「そうだ! 魔王に手紙を送って、『フェニックスの尾羽』で……!」


 キリトが思いついたが、キーシャが残念そうに首を横に振る。


「……死神との契約が絡んでいます。おそらく南野さんのたましいはもう消滅してしまったでしょう。ないものを繋ぐことはできません」


「そんな……!!」


 キリトががっくりと膝を突いてうなだれる。


 すべての望みが断たれた今、メルランスは死霊のような青い顔で腕の中の南野の遺体を見下ろしていた。


 せっかく縁がつながったいとしいひと。


 そのひとが、あまりにあっけなく逝ってしまった。


 残された自分たちはどうすればいいのか?


 ……考えることすらできない。


 思考停止状態に陥って、涙もこぼせず、メルランスはただぼうっと死んだ南野の肉体を抱きしめていた。


 冷たい。急速に体温が失われていく。


 ついさっきまで動いていたはずなのに。


 別れの言葉すら交わせなかった。


 自分がもっと『死神の鎌』の危険性について理解していれば……悔やんでも悔やみきれない。


 いっそのこと、南野のたましいではなく自分のたましいが消えればよかったのに。


 どうせ、作り物の肉の器……


『いけませんよ、メルランスさん!』


 頭の中でそう言われたような気がした。


『あなたは空っぽじゃない、俺の愛したこころが宿っているんですから! 胸を張ってください!!』


 きっと、南野ならばこう言うだろう。


 ……そうだ。自分ばかりかなしみに浸ってはいられない。


 悲劇のヒロインはもうたくさんだ。


 我に返ったメルランスの目には、決意の光が宿っていた。


 その場に南野の遺体を安置して、『道具箱』を探る。


 最後の升目の『やり直しの鉱石』を手に握りしめると、メルランスはちから強い声音で言った。


「ごめん、今からあたし、過去に飛ぶ」


「……使うのじゃな……『やり直しの鉱石』、を……」


 ほとんど『赤の魔女』に乗っ取られながら、『緑の魔女』の最後の自我がつぶやいた。


 うなずいたメルランスに向かって、言い含めるように、


「……良いか、一点だけじゃ……変えるのは、ただ望む一点のみ……他の歴史を変えてはならぬ……ぐっ!!」


 とうとう『赤の魔女』は『緑の魔女』のからだの中に入ってしまった。


 鮮やかな緑がより鮮烈な赤へと塗り替えられていく。


 うなだれていたおもてを上げると、その瞳は燃えるような赤に染まっていた。


「ふふ……あはははははははははははははははははは!! 残念だったわねぇ!! これでおしまいだなんて、つくづく楽しい喜劇だわ!!」


 『緑の魔女』はもうどこにもいない。ただ赤だけが心底おかしそうな笑みを浮かべるばかりだった。


「……っ……!」


 ぐずぐずしているヒマはない。南野ならきっと迷わずこうする。


 『やり直しの鉱石』を抱きしめて、メルランスは祈るように魔力を込めた。


 やがてメルランスのからだが光に包まれ、しゅん、と消えてしまう。


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