№06・スライムゼリー・5
「さ、まずはこのスライムをすりつぶします!」
むんずとスライムをつかんだキーシャはすりこ木とすり鉢を用意してスライムをすりつぶし始めた。時折ぶちぶちと何かがちぎれる音がしたり、ぐじゅるぐじゅるとうごめく音がするが気にしないでおこう。
メルランスが煮溶かしておいた寒天らしきものにすりおろしたスライムを投入すると、青色の粘液がこぽりこぽりと鍋で煮えた。まるで魔女の釜だ。
しばらく煮てからバットに流し込み、氷室へと運ぶ。小一時間待って、ようやく完成だ。
「できましたー!」
じゃじゃーん!とバットを差し出すキーシャだったが、まだゼリーがうごめいているような気がする。スライムが死んでいないということはこれはこれでいいことなのだろうか。
「スライム自体に毒性はありませんから、食べても問題はないですよ!」
そこはさすがに魔法学生、モンスターにも詳しい。切り分けて、半分をもとの瓶に戻しておく。
「あの、賞味期限とかは……?」
「スライムが生きてる限り大丈夫です!」
南野の問いかけに、キーシャは快活に答えた。
残り半分のスライムゼリーを前にしていると、彼女は屈託なくそれを差し出してくる。
「せっかくですし、食べてみませんか?」
「え? 俺が?」
「ええ、さっきも聞きましたけど、異世界のゼリーとなにが違うのか感想を聞きたいです」
氷室で冷やしている間に南野の素性はあらかた話し終えた。作り手としてはわからないでもない心理だ。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
スライムゼリーのひとかけらをつまみ、口に運ぶ。
次のリアクションまでは秒だった。
「おrrrrrrrrrrr」
南野は盛大に吐いた。吐き散らした。胃の中のものまですべて床に嘔吐する。
「大丈夫ですか!?」
「…………まっず…………」
蚊の鳴くような声でつぶやくと、キーシャは首をひねる。
「おっかしいなあ。ちゃんと作ったのに……あ、そうだ、お砂糖とか入れなかったからですかね?」
「……そういう、もんだいじゃ、ないとおもいます……」
えぐみと酸味と苦みと生臭さが絶妙なハーモニーを奏でて、これまで食べたものの中で一番のマズいものとなった。ここまでマズいものは食べたことがない。
「メルランスさんもいかがですか?」
「あ、あたしお腹減ってないから……」
微妙に目をそらすメルランス。話題を変えるようにしてキーシャに向き直る。
「と、とにかく! 一応スライムゼリーはできたから、条件はクリアね。まあ、魔法は使えるらしいからこいつよりは足手まといにならないでしょ。けど自分が探索初心者だってこと、忘れないでよね」
「はい! ありがとうございます!」
嬉しそうに頬を染めて微笑むキーシャ。可憐な笑みだが、なんとなく危ないにおいのする子だ。しかし、南野の蒐集行にとっては心強い味方ができたと言えるだろう。
「これからよろしくお願いしますね!」
右手を差し出してくるキーシャに、ようやく胃が落ち着いてきた南野が握手で応じる。
「うん、よろしく、キーシャさん」
……かくして、南野一行に新しい仲間が増えた。
これが良い方向に転ぶのか、悪い方向に転ぶのか、まだ誰も知らない。