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№05・聞き耳頭巾・2

「さあて、まずは目的のものを手に入れるとしましょうか。ま、安心してよ。無駄にお金使わせる気はないから」


「どういうことですか?」


「まあまあ、ちょっとした値引きのテクニックだよ。あれをこうしてね……」


 メルランスが南野に耳打ちする。聞いた『テクニック』とやらに南野は目を剥いた。


「そんな詐欺まがいのこと……!」


「いやなら好きなだけお金使えばー?」


「……やらせていただきます」


 今にも血の涙が出てきそうだ。こっちに来てからというもの、彼女の尻に敷かれっぱなしの気がする。見知らぬ世界を案内してもらっているのだから仕方ないかもしれないが、ちょっと不本意だ。


「ほら、あそこにキャラバンの馬車がある。ああいうところは道すがら冒険者からマジックアイテムを買い付けたりしてるからね、ちょっと見てきなよ」


 南野の腕を引き、メルランスは大きく市を開いている天幕へと向かった。彼女は天幕の中へは入らず外で待っている。


 大きな天幕の中では数人の商人たちが商談中で、だれもかれもいかにも海千山千のあきんどたちといった風情だ。


 並んでいる品物を見ていると、小太りの中年商人が揉み手をしながら寄ってきた。


「なにかお探しですか?」


「いえ、ちょっと寄ってみただけです」


 基本テクニックその1。目的のものがあっても口には出さない。吹っ掛けられる可能性がある。


 商人に付きまとわれながらあちこちの品物を見て回っていると、ふと赤い色が目に入った。『赤』というと苦い思いになるが、それは確かに頭巾だった。けものの耳をかたどった飾りがついている。


「これなんていいな。かわいい。娘へのプレゼントにいいかもしれない」


 娘なんていないけど。噓も方便だ。


「これはお目が高い!」


 商人は声を弾ませてずいっと近寄ってきた。商品を手に取って見せてくる。


「これはですね、動物の声が聞こえるといういわくつきのマジックアイテムでして。遠く砂漠のダンジョンから帰ってきた冒険者から買い付けたものです」


「ふぅん、本物なんですか?」


 基本テクニックその2。なんでもいいからケチをつけろ。


 しかしさすがプロ、気分を害した様子をおくびにも出さず、商人は大きくうなずいた。


「魔力反応はありますから、何らかのマジックアイテムであることは確かです。この耳! いかにも聞こえそうでしょう?」


「それだけじゃなぁ」


「そう言わずに。今なら金貨50枚でお譲りしますよ?」


 メルランス情報だと、金貨一枚あたり一万円くらいの価値らしい。ということは、五十万円か。なかなかいいお値段だ。


「50枚か。ならいいや、他を見てきますから」


 基本テクニックその3。即決だけはするな。逃げた客は大きく見える。


 名残惜し気な商人に見送られながら、南野は天幕を出た。


「どうだった?」


 外で待っていたメルランスが聞いてくる。


「それらしいものはありましたよ。ただ、金貨50枚もするんですよね……」


「ふふ、けっこう吹っ掛けられたねえ。でもこのあたしのテクニックにかかれば、三十枚で済むよ」


「……本当にやるんですか?」


「もちろん」


 即答されて、南野は肩を落とした。


 そのあとふたりはしばらくの間市場を散策した。メルランスが服や食べ物やわけのわからないものを買ったりするのを横目に見つつ、いい気なもんだとこころの中でぼやく。


「あんたも服、仕立て直したら? この間のダンジョンであたしを運んだ時の血のシミでしょ、それ」


 メルランスの言う通り、今南野が来ている安物のスーツはところどころまだらのシミになっていた。一応洗ったのだが落ちきらず、奇妙な模様のスーツと化している。


「……お金、取るんでしょ?」


「当たり前」


 ぴしゃりと言われて、南野はため息をついた。


 しかしこの服もこちらの世界に来た時からずっと着た切りだし、そろそろ洗い替えも欲しいところだ。血のシミだとひとに知られたら妙な誤解を受けかねないし。


 仕方なしに、南野は辺りで一番安い仕立て屋を見つけてスーツを作ってもらうことにした。生地も作りも最安値だ。安物のスーツから安物のスーツへ。それでも金貨2枚はかかった。


 服が出来上がるのは一日かかるという。『聞き耳頭巾』の方もそろそろいい頃合いだろう。


「じゃあ、手はず通りに」


「わかりました」


 天幕の前で別れて、南野は再びひとりで中へと足を踏み入れた。


「おや、おかえりなさい」


 さっきの商人がまだいる。できるだけそっけない風を装って、南野は『聞き耳頭巾』を手に取った。


「色々見て回ったんですけどね、これ、金貨25枚なら買ってもいいですよ」


「25枚!?」


 商人が素っ頓狂な声を上げる。


 テクニックその4。最初の値下げは思いっきり図々しく。


「いやあ、さすがに半額は難しいですよ。それなりの品なので……これじゃあうちが干上がっちまいます」


 額の汗をぬぐいながら、商人が言った。


「そうですか、25枚なら絶対欲しいと思ったんですけどね」


「それはちょっと……」


「待ちなよ」


 そこへ割って入ったのは、天幕の外で待っていたメルランスだった。ただし、南野の仲間であることは空っとぼけている。南野も必死で演技をした。


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