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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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六話 連撃の❶

《連撃のシュウタ》 連撃(レンゲキ)の 01



 ◇


 やっと念願の異世界転生が叶った。

(いつから願っていたのか自分でも分からないけど)


 実のところ、あの死神とは二度目の出会いだった。

 最初は、僕はまだ死んで無いという告知の後で現世に戻されたんだ。


 今回は「お前は自殺で死んだ、死んだ」

 とうるさいぐらい言われたが。


 前回は「お前は首吊りが失敗に終わりまだ生きとる、生きとる」

 とうるさいぐらい言われたんだっけ。

 

 あの時も、不思議な力を与えてもらっていて、僕は結構ワクワクしながら

生還を果たしたのだ。


 だが、今回と状況が似ていて。

 と言うのも、今回はリンクという妖精のお守を仰せつかった。

 前回はショウタと言う名の同い年の少年を連れて行けと言われたんだった。


 ショウタは死神さんの見習いで、魔法が使えるヤツだった。

 僕は、ショウタから魔法を教わって魔法使いになったんだ。

 その力で僕をいじめた同級生たちに仕返しに行ったんだっけな。

 それから時が満ちて。

 死神と再会した。

 彼は僕にある告白をしたんだ。


 話せば長い事だ。そこからこの度の転生に至ったのだ。


 取り敢えず、僕としてはとっとと転生を済ませてしまいたいので、リンクと共に

異世界へ GO FIGHT!


 死神さんのくれた冒険の手引き書(以下、冒険書)に向けて、ゴーファイト! 

 心の準備ができた。

 旅立つ以外の選択肢は此処には無い。

 死神の指示通りにそう念じた。


 少々声が漏れてしまったが問題ないだろう。


 冒険書から(まばゆ)い光の帯が複数発光して、ほんのりと回転が加わっていった。

 光の帯の渦巻に、僕ら二人の体がスッポリと包まれた。

 死神の部屋とは完全にお別れするのを感じた。


 行先は説明を受けていた。


【ルシルーシー・シュートリア】


 という世界の中にある「名もなき小さな森」

 そこにあると言う、コテージに到着するだろう。

 乗り物で到着するわけではない。

 魔法力で転送される感じだな。


 そこでもゆるりと回転する光の帯に包まれて現れるのだろうな。

 頭の中でそう思い(えが)きながら、実の所、転生は初体験だから不安で一杯だった。

 かすかにピュルルーンと音が聞こえた。

 それが移動音のようだ。


「うほ!」


 身体ごと包んでいた光の帯の回転が止まった。

 この身がまとっていた光はスーっと消えた。

 新緑の香りが漂っている。

 見慣れぬ場所だが、室内に居た。

 背の高い天井。大きな窓ガラス。

 高級感漂う、木造のリビングルーム。

 連なるように幾つもある窓ガラスからは、朝日が差していた。

 カーテンは全部開けてあり、外観が一望できた。

 森の中のようだ。

 空は快晴であり、太陽はまだ中天に昇っていなかった。

 どうやら無事、コテージに着いたみたいだ。


 森と言う事だったので、獰猛な獣や毒虫が出ないか不安だったが。

 コテージ自体がとてもしっかりとしていた。

 僕は安心感を覚えた。

 その手応えは、まず高級感だ。


 到着時、僕はリビングだと思われる所に立っていた。

 ザックリ辺りを見回してみる。

 目を見張る広さと高級モデルルームを見ている様な清潔感に包まれた。

 急に生活の質が向上したかの様に新鮮な感動を覚えた。


「──生前のボロ家とは段違いだ」


 高級ペンションだ。

 ドラマで見る様なセレブのタワーマンションの一室だ。

 家具は一式揃っている。

 日用品も充実している。

 これと言って買い足す必要もないだろうと感じた。


 コテージと言えば、キャンプ場にある小奇麗(こぎれい)な宿泊施設だ。

 それを連想した。

 遠くに羽を伸ばしにきたという感は、十分に得られる内装だった。

 そういう施設は一日の使用料が約20000円する所もあるんだ。

 家族とバードウォッチングも兼ねて田舎に足を延ばした事があった。


「和風ではないが、日本にいるのと何ら変わりないし」すごく気に入ったよ。


 窓から少し周囲を眺めて見たが、心地良い風が頬を()でてくれた。

 うっそうとした森ではなかった。

 自然の優美(ゆうび)さを活かした、整備されたある種のリゾートが目に映り込んで来た。

  

 近くに沢がある様だ。

 木々の合間を吹き抜けてきた風が、来客を水辺に誘うかの様に窓際へ流れ込む。しばし風に耳を預けていると、涼やかな地下水が流れる音を耳の鼓膜(こまく)の奥に読み取らせてくれた。

 それは、まるで施設を利用する者を部屋に(こも)らせないために計算された設計であるかのようだった。


 ただ、この世界は異世界で。


「やっぱり、テレビもPCも置いてないね……」


 窓から堪能できるリゾート気分とは裏腹に、室内に目をやると僕の日常に欠かせない電子機器が何も見当たらない。


 折角セレブルームの雰囲気が(ただよ)っているのだから、100インチの薄型LEDテレビ

があったら絶対毎日ドキドキするかも。

 そんな大画面で4K対応のオープンワールドのMMORPGが出来ると思うとだけで、よだれとワクワクが止まらなくなるじゃないか。


 これだけの自然に囲まれた環境に、豪邸の独り占め。

 見下ろし型のオープンワールドだと言うなら、速攻で表に出向いて森の中を散策してみようかと言う気にもなるが。外は外で楽しみもあるけど、夜も休日もあっての人生設計だと思うのだ。


「テレビモニターも無ければ、ゲーム機も無い……」


 こんな居住スペースなら、例え宮殿であっても僕は半日で興味を失くす自身がある。

 電波が飛んでいるかも不明だし。

 まあそれは、今となってはどうでもいいと思う部分もあるが。ここで暮らして行く以上はあるに越したことはない。


 家の中もあちこち見回ってみた。

 キッチンスペースを見つけた。

 別に空腹では無かったが。

 どんなご馳走が用意されているのだろうと胸を高鳴らせて、あれこれと物色したのだが。


 冷蔵庫の様な食料保管箱があった。 

 中を覗くとリンゴと(おぼ)しき果物が30個ほど入れてあった。

 透明でふっくらとした瓶に2リットルぐらい入った、ミルクもあった。


 しかし、キッチンスペースで発見した食料は、それだけだった。


 まさか? 


 この世界にはそれほど多くの食材は存在しないのでは?

 ゲーム世界の様にフルーツを食べていれば、体力回復するだけの世界か。

 ま、それならそれで構わない。

 それで足りるのなら。

 一度死んでいるからそんな贅沢を言うつもりはない。 


「それよりも」


 寝室に向かって見た。

 驚いたことに僕のベッドが置いてあった!

 いや、他の部屋を手当たり次第見て回ったら僕のベッドがあったので、そこが寝室と知っただけなのだが。


「え!? これって……」


 どうやら死神の配慮のようだ。


 あ、そうか。

 日本人って(まくら)が変わると寝つきが悪くなるって言う。

 昔からちょくちょく耳にする言葉を思い出したのさ。


「そうなんだよ」


 僕もそういう日本人の一人だ。

 ましてや僕は自殺だしな。

 転生後に安眠出来なくて不安が(つの)ったら約束の役目がうまく果たせず。

 という事も想定されていた訳だ。

 なるほど、だからベッドごと死後の世界に居たのか。


「うーん、ということは……」


 別に良いんだが。

 服装は変わらず生前のまま、ブレザー制服を着たままだった。


 異世界に関する読み物、わりと読んでいたけど。

 転生後って生前の世界の物を一切持ち込めない。と言う眉唾知識が頭にあった。


 いや、ここもそうとは限らないけど。

 もしかしたら「名もなき小さな森」の中だけ有効なのかも知れないな。


 ベッドも衣類も死神の(はか)らいであるなら、遠慮せずに頂くとするか。

 この森は確か、僕の私有地みたいなこと別れ際に告られたな。

 名前だって自由にして良いと言われていた。 

 ここへ辿り着いた時、すぐさまゴーファイトと念じ直した。

 だが、死神部屋には戻れなかった。


「ワープは無理。ここがスタート地点だな」


 現時点では、他にワープポイントは登録されていないようだ。


 枕が変わって寝つきが悪くなるなら、衣類でも同じという訳か。

 けど制服姿のまま、ぐっすり眠れるほど情緒は安定してないが。


 服装の着替えがどこかにあるのかと、幾つかあった部屋を(のぞ)いて見たのだが、

何も見当たらない。


「そういう所は……案外、ケチなんだな」


 もしかしてこの服装のまま、私有地の外へ出ても問題ないのかも知れないな。

 この世界にも、学校ぐらいあるだろうから。

 それほど案ずる必要はないかもしれない。


「うん、きっとそうに違いない」


 楽観的な思考を心掛けないとな。

 胃に穴が空く日もそう遠くないだろう。

 救急車はどうやって呼べば良いんだろうな。


「口笛でも吹いたら」


 馬がヒヒーンって飛んで来るのか?

 いや、こういう世界だ。

 口笛吹いたら飛んで来そうなのは大魔王だろう。


 笛と言えばピッコロしか連想できなかった(泣)

 そもそも電話らしきものも見当たらない。

 あ、森の中だっけか。


「ん?」

 

 ──と言うか、お金をたくさんもらったんだっけ。


 服なんて買えば済む話じゃないか。

 そうなって来ると、服屋を探しに行くことも目的に追加されるな。

 武器屋よりも、服屋が優先か? 

 そうだな、学生服じゃ森を彷徨(さまよ)えない。

 走り回って汗をかくのには向いていない。それは体操着の役目だからだ。


 もっとラフな身なりが良い。

 軽装でありながら、丈夫で動きやすい。

 夏休みに探検にやって来た冒険少年、それに見合う格好は……。


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