五十話 山賊たちの初心者狩り③
「うぎゃぎゃぎゃあ……うぎゃあ────っ!!」
山林地帯に響き渡る、野太い喘ぎ声があった。
これは、襲われた旅の行商人たちの声ではない。
行商人たちはシュウタに窮地を救われて手を取り合い、大きな街へ向かった。
大きな街の名は、メドー・カイラル。
山賊の検問とは名ばかりで、ほぼ略奪に近いものがあった。
襲撃を受けた荷車などは破壊的ダメージを受け、荷崩れした台車がいくつも無残に放置されていた。
多少の金品は無事であった。
それらを抱えて顔を綻ばせながら、街のギルドへ被害を届けるために彼らは山林から抜け出して行くのだ。その足取りは少し軽やかに見えた。
届け出を済ませれば、シュウタとの談合通り、冒険者ギルドから討伐クエストが発生し、討伐隊が結成され、後に報酬にありつけるからだ。魔物の軍勢に出会い、一度は死を覚悟した。そこから脱し、被害分以上の金が手に入るチャンスに恵まれたのだ。気分も爽快であったことだろう。
「うぐぐっ。──随分と派手に暴れまくってくれたものよな」
「クヌークたちも大勢首を斬られたが、そのうち再生してくるだろう」
それは今しがた、シュウタに蹴散らされ血祭りにあげられた山賊達の悲通な声に他ならない。肩や腹を手で押さえながら満身創痍でつぶやく者も多い。
山賊の一人が不思議な言葉を漏らした。再生するとはどういうことか。
まさか自己治癒能力でもそなえているのだろうか。今は分からない。
山賊たちは二百人ほど居て、ワニ獣人のクヌークも同数を従えていた。
その内の百五十人と百五十匹の山賊とクヌークは、シュウタに斬首され、息が途絶えた。
つまり、これが残党の漏らす声なれば、残りの五十人の山賊たちの声ということになる。
その五十人と五十匹は、シュウタが意図的に生かして置いた奴らだ。
だが──
「あんの……小僧め。俺達の仲間がこうも容易く、ぶちのめされるとは……」
「──ああ、だが計画通りじゃねぇか。それに、全身の服装が黄緑色だったから手配中のガキに間違いは、ねぇだろうよ」
「やっぱり、あの野郎で間違いないのか。威勢の良いガキが行商人の前に立ちふさがった時にゃ、オレ達だってピンと来ていたさ!」
「おうよ! なにせ全身緑でよ、ドワーフのファンかよって思ったぐらい風貌が手配書通りなのだからな、ひっひっひ」
山賊たちはここ数日の間、例の奴隷商人に依頼を受けて、緑服の少年を血眼になって探していた。
その彼らの前におあつらえ向きに、シュウタが現れたのだ。
「奴隷の名前が記載されて居なかったが、オレ達はしっかりと聞いちまったよ」
「ガキが、最初に現れた時に行商人に名乗っていた。シュウタだ、と」
「そうだったな。どうせ転生者だし、生前のことを口にするとは思えない。それが今のヤツの情報なのだ」
「チビで、緑で、シュウタだろ。姿も顔もバッチリと拝ませてもらった。それさえ分かっちまえば、こっちのもんだ。ひっひっひ」
山賊たちが探していた奴隷の風貌が、シュウタに似ていた。
シュウタが完全にその者に間違われてしまっている。
奴隷の手配書は前以て入手されていたものだ。しかも転生の疑念も抱いていた。
その疑念がある為に、転生能力者の前提のもとで迎え撃たれたことになる。
だがシュウタの力量は彼らより優秀だったのか、半数以上は殺されてしまったではないか。もっともカイラルの街の南側だけの話ではあるが。北側も数百の山賊たちで溢れていたな。それも脱走中のこの奴隷探しの為に。
山賊たちは何故か、薄ら笑みを浮かべて勝った気でいる。北側の部隊が応援にでも来るのであろうか。
「……にしても、あの小僧。なかなかにずる賢い奴だったな」
「うん?」
「ギルドのクエストの件だ。オレ達もギルドの連中を全て敵に回したくはないから行商人を本気で始末しようだなんて考えちゃいねぇ訳だが……何せ、この人数だ」
「なるほどな。仕留めた人数をわざと伏せてクエストランクを底上げしようとしたり……知恵者だねぇ。そうなると時間とともに討伐隊がこっちにやって来ることになるぜ」
「だからこそ、ただのガキじゃねぇって証なのさ。転生前は二十歳。相当、金に苦労していたと見える。……金策が、ドぎついわ」
「討伐隊の到着にはまだ時間がある。それより小僧だ。そのドぎつい金策が仇になった訳だ。へっへ。オレ達を倒せる時に一掃して置かなかったことで、テメェはもうすぐ奴隷に逆戻りだぜ!」
ここまでシュウタの力に良いように踏みつけにされたというのに、何をそう自信に満ちた表情で淡々と奴隷捕獲に向けて話を進められるのか不思議でならない。
いや、彼らは確か。
能力者を前提に、初心者狩りをすると言っていた。
だがシュウタのことは何一つ追い込めていなければ、狩れてなど居ない。
手配の奴隷だとの確信がありながら。
──何故なのか。
確か、『一度は勝たせてやれ』とか言っていたが。それが作戦なのだろうか。
つまりは、これから逆襲に出ようというのか。
ここまでのことが山賊たちの計画通りだと言うならば、一体何のために三百体もの仲間の首を差し出したのか。
能力を見極める為という線もあるが。少し犠牲が大きすぎる気がする。
そうして、シュウタの能力を見極めてしまったのだろうか。もし、そうで無いのなら、再び対峙しても殺されるだけなのだから。
「ところで、アニキ。小僧の能力は何だとお考えですか?」
手下が不意に訊ねた。
「……あいつ、姿を消すだろ」
部下の問いに応じたアニキ分は、眉根を寄せて言った。
「消える能力っすか? あっという間に距離を詰めて来たっすからね」
「いや……、それだけだと移動速度に納得がいかねぇ。時間をかけて詰めて来たなら、誰しもそう感じ取れるはずだろ?」
山賊たちも、さすがにそれには気付いていたのか。
「言われてみれば、それもそうっすね」
「オレ達はともかく、クヌークはハナも利く。匂いで探知できてねぇのが府に堕ちねぇのさ」
クヌークの利点は鼻センサーの感度が良いところのようだ。
「つまり移動速度が半端ないってことっすよね? スピードマンかテレポーター」
その手の能力者がすでに周知されているのか。
「その両面を感じたが、おそらく系統は後者だと思うのさ」
「……ってことは」
「スピードを操るにしろ、移動系にしろ、奴は間違いなく【加速】していやがる」
「加速ってことは、つまりアレっすよね? アニキ……説明してくだせぇ」
手下の額からは、油汗が滴り落ちていた。ごくりと生唾を飲む音が聞こえた。
「じつは想像をすることすらオレも怖いんだが、緑の小僧は時間を操作できるタイプなんじゃねぇかってことさ」
アニキ分も緊張の面持ちで迫る。
「おいおい……それじゃまるで、高等魔法使いの卵じゃねえですか!」
「そうだな、高等魔法使いにしか扱えぬという、恐ろしい時空魔法の使い手の可能性があるわけさ」
「ほ……捕獲は可能なんすよね? 俺達勝てますよね?」
「能力の元は皆、魔力だからな。能力者になったばかりの駆け出しが、魔封じの術など知る由もなかろうに。だが油断は禁物だ。次は全力戦だぜ、野郎どもっ!」
やはりあの犠牲は、彼らが相手の能力を測り知るための計画だったのか。
その能力さえも周知の事実なら、対処法も存在している可能性も十分にある。
シュウタには、シュウタの考えがあるようだった。
これからリンクを連れて、この山賊のもとに再びやって来るつもりでいた筈だ。
シュウタの有するチートスキルの正体にも差し迫っている彼ら、山賊。
ましてや、リンクが例の手配の脱走奴隷なら、一体どうなってしまうことやら。
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