四十八話 山賊たちの初心者狩り①
「おい、オメエら。ぬかるんじゃねぇぞっ!」
「今日は城下町より南下したこの山林と草原一帯をも、しらみ潰しだ!」
「そっちはどうだ? 蟻の子一匹逃さねぇようにもっと拡散しやがれっ!」
何やら、大勢の男たちによる荒々しい声が上がる。
怒りの感情も入り混じっていて、その怒号が空域を叩くようにけたたましく轟くのだ。
それには山林の草木もまるで、怯えて息を飲むようだった。
その声は、リンクの書いた地図に記してあった『コテージの小さな森』を出たばかりの草原付近から聞こえていた。
コテージのあった森から大きな街までの間には、舗装がなされた道が一本あった。荷馬車も安心して通れるしっかりとした道だった。
大きな街に向かいながら、道を西に外れるとその山林が広がっている。
草原地帯を東に外れて行くと、海に出るのだ。
つまり、シュウタたちが大きな街に辿り着くまでは草原と山林だけが目の前に広がっていて、行動はその二つの場所で展開されるということになる。もっとも山林に差し掛かる手前に小さな町トアルがあったが、そこを少し過ぎたあたりになる。
「しかし……。城下町の南側は見晴らしの良い草原と浅い森林が広がるこの山ぐらいしかないぜ。小童ひとりが何処に逃げて、何日食いつなげるというのか……」
「つべこべ言うんじゃねぇやい! 奴隷商人からの断っての願いなんざ、そうそう舞い込んでくるもんじゃねぇ。──報酬の前金はすでに受け取っているんだ」
「そいつが何を食ってどう生きているかどうかなんて、オレ達にはどうでもいいことだ。見つけ次第、生け捕りにして奴隷商人の旦那に引き渡しゃあいいのさ」
どうやら彼らは、奴隷商人の依頼で若者の捜索に駆り出されているようだ。
「手配書によれば、歳は二十歳だが。小柄で細身で……何というか、童顔で──」
「──要するに、チビ助ってことっすね!」
「まぁ、そんなとこだ。似顔絵と服装だけしか情報がねぇんだが。全身草色のラフなウェアに身を包んでいるようだ。ほれっ、よーく頭に叩き込んでおけ!」
一人の男が、手に持っていた手配書の紙切れを仲間に手渡した。
「どれどれ、はぁん! なんだ、このヤサ顔はよ! 女か男か分からんヤツだ」
「若いヤツの顔はともかく、全身緑色の小僧を生け捕りにすりゃあ、間違いねぇっすね」
「ああ。だが油断なく誰であろうと容赦なく、通りすがったやつらを片っ端から検問せねばならん」
「街の北側部隊も我ら山賊仲間で埋め尽くしているし、こりゃ時間の問題っすね」
男達は山賊だった。
ざっと見て、200人はいるようだ。
大きな街の南北は山賊が捜索のために埋め尽くしているといった有り様だ。
奴隷商人の元から逃げ出した若者を血眼になり、探し歩いているようだ。
そして、蟻の子一匹逃がさぬつもりで山林の隅々まで、兵を忍ばせるように配置させていたのだ。
「──にしても、その小僧一人にどうしてここまでの体勢が必要なんすか?」
山賊の手下が上司と思われる男に対し、出した疑問符に、
「それなんだがよ。──ただの小僧でなくなっている可能性が出て来たのさ」
「それは、いったい……どういうことなんすか?」
「奴隷商人から、おいそれと逃げ出せる奴隷が今までに居たか?」
アニキ分にあたる男が神妙な面持ちでそう伝えると、
「いや、あいつらは俺達だって容易く頭の上がらねぇ連中だぜ、アニキ」
「そうだ。ひよっこが単独で易々と煙に巻ける物じゃねぇ。この世界は王族の息のかかった連中には勝てないようになっていやがる」
彼ら山賊からみても、逃げ出したという若者は子供も同然のようだ。
そして手下のいう、あいつらとは奴隷商人のことであるが。山賊がこれだけの数いても奴隷商人たちを脅威と見ているのだ。さらに、その奴隷商人の魔の手から、まだ子供のような若者が逃げ出した、という話のようだ。手下の疑問に答えるアニキ分は、
「……オレ達と同類の奴隷商人たちが、王族に目を掛けられるご時世になった」
しかしながら、ここまでに物々しい捕り物となるには、それなりの理由があるということだろうか。奴隷商人という存在も山賊にしてみれば厄介者。それをそのようにしているのが──山賊のアニキ分が口にする、王族の存在だという風に聞こえてくる。
「どの国も王の存在が脅威だ。王となる者は神族の守護を得て建国しているんでな。代わりに高貴な魔力は全て守護神に捧げてしまうから、世界で王とその血筋の者はに魔力がない──」
「それは何となくは知って居たがよ、アニキ。小僧はどうなったんですかい?」
「待て、そう急くな。……奴隷商人が悪どいのは周知の事実だ。王族なら民の平穏を守ってやるべき存在なのだ。だが今は王族も奴隷商人を罰することをしなくなっているのだ」
「俺達は悪さをすれば問答無用なのにな。まったく、不公平でやんすね」
「まさに、そこなのだ」
まさにそこだという男の真意は何なのか。
神の後ろ盾を得て居るのは王族であるようだが。




