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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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四十六話 シュウタの検証②


 商人たちからの疑問符が僕のなかでも、戸惑いとして残っていた。

 ひとりで戦うのは、救助を決めたときから分かっていたことだが。


「つい、任せるといってしまったが……」

「──彼は、いったいどう立ち回るつもりなんだ?」


 僕の背後からは、商人たちの悲壮なつぶやきが聞こえてきた。

 そして振り向かずとも分かる。

 このままもたついていれば、客商売で培ってきた商人たちの笑顔に二度と太陽が昇らなくなってしまう。


 子連れの客に風船や飴玉をおまけで差し出して、「また来てね」。その地道の連続がこのような行商人の一団を世に送り出しているのだから。

 

「はは……」


 野蛮人どもに啖呵を切って、颯爽と登場してみたものの。

 先ほど問われたように、僕は武器も盾も持たない丸腰の子供だ。

 冒険者だという証明だけが、いまは彼らとの信頼のあかしだ。

 出会って間もない子供を犠牲にして、つないだ命で彼らがその後も変わらぬ笑顔で暮らせるだろうか。


 一度は、見ず知らずの僕のために命を投げうつ覚悟を示したのだ。悔やまぬはずはない。


 この場におどり出てきた以上は、彼らの大人としての面目も守らねばならない。

 人助けというも、決して僕が窮地に立っていてはだめなのだ。

 その心配の声を打ち消す僕の唯一の武器は、この身体に宿った神域の速度だけなのだ。


 悲鳴、偵察、リンクを安全な場所へ移し、3キロの往復。この場へおどり出た。

 その間、わずか十数秒。


 やれる!


 この能力と、30万のHPなら問題なく立ち回れる。







「どうした、ぼうず? おててなんか見つめてよ! ひゃっひゃっひゃ」

「坊やが落としたのは、この金のサーベルですか? それとも銀の……あーひゃっひゃっひゃ。腹がいてぇよ。商人の跡継ぎにゃ向かねえな。芸人にでも……」


 その減らず口を二度ときけないようにしてやる。


「おい、シュウタが!? 消えたぞ!」


 声を揃えたように驚く商人たちの姿が、あっという間に遠のいて行く。

 僕は大地を蹴って、ジェットのように敵に向かっていった。


「ぐっはぁ!?」


 前方で僕を嘲笑っていた数匹の山賊が手にしていたサーベルが、不意に宙を舞った。意表をつかれるも、冷静に状況を確認しようと見回すが、攻撃対象者を目視できずに体勢を崩して、下の怪物から振り落とされたのだ。


「グギシャアアァ──っ!!」


 山賊が手放した重いサーベルは落下中に勢いよく回転が加わり、怪物の首にぐっさりと突き刺さったのだ。

 たまり兼ねた怪物がのたうち回る。

 その悶絶の痛みからの蛇行に山賊たちは体勢を維持できず、落下。激しく地面にたたきつけられピクリともしなくなった。


 どうやら絶命したようだ。


 だが怪物の方は、生命力が大きいのか首に剣が刺さったぐらいでは簡単に絶命せず、硬い表皮とぶっとい尻尾を振り回して苦しみながら暴れ回った。


「うわぁぁあああ──っ!!」


 ダメだ、躱し切れない。

 全身に激しい痛みと衝撃が起きていた。


 思わず、顔を庇って腕を交差したが、わき腹を殴打されてしまった。

 僕だって実体が存在するわけだ。


 奴らの目に止まらぬ速さで動いていても、空高くジャンプできるわけでもない。図体のでかい怪物が痛みで暴れ倒せば、不意のダメージを受けざるを得ない。


 初手で素早く怪物に近づき、そいつによじ登り、山賊の膝から肩に移動して、そこからサーベルを持つ手を狙って勢いよく踵を落としてやったのだ。

 一連の行為を数回くりかえすと、自然とこの結果に至った。


 くっ。

 

 これは自分の行動速度が速いため、怪物のその後の行動まで予測し切れていなかった。

 まずは前方の数匹をそのイメージで先制し、くりかえし蹴散らして行くか、と。


 脳内に描き出した攻撃を高速で実行に移した。怪物が想像以上にしぶとくて結果として僕の身体はピンボールの玉のように怪物たちの尻尾ではじかれまくったのだ。


 うまく(かわ)しきれると思ったのだが。

 ……すこし考えが甘かったかな。


 一つひとつの自分の行動の結果を待っていては、敵に自分の高速能力の正体に気付かれる可能性もある。

 一度動き出せば、一定の時間はこちらも動きを止めるのは危険だ。

 敵の能力もよく分からないのだ。

 用心に努めたつもりでいたけど、着地点の足場が暴れ出して僕もそこから滑り落ちたのだ。

 いまは、ちんたらと戦闘を楽しんでいられないし。能力分析は別の機会でいい。


 早く、この数の半数を蹴散らさねば、やつらも容易に引き下がろうとはしないだろうし。


「シュウタっ! 大丈夫か!?」

「突然姿が見えなくなったと思ったら、敵がバタバタと倒れて苦しみ出したんだ! あれは……君がやったことなのか!?」


 前方の魔物の群れの中から僕の身体が弾き飛ばされてきて、商人たちの荷車近くまで転がってきてしまった。

 訊かれたことには素直に頷いた。

 不覚を取ってしまいカッコ悪い所を見られて恥ずかしい思いだった。


「いかん! 複数のクヌークの尻尾に叩きつけられたようだ」

「俺達も山賊とは相まみえるが、クヌークがどうにも厄介でな。あいつの尻尾の一撃で肋骨をやられたことがある。職業柄、回復薬の持ち合わせには困らないがな」

 

 商人たちはそういって荷物から急ぎ、ポーションらしき瓶を取り出すと、突っ伏してぐったりしている僕に差し向けてくれた。


「大丈夫だ、まだ意識があるのはたいしたもんだ。さあ、これを口にして」


 僕の戦いぶりの結果を見て、体から震えが消えた人もいるようだ。

 外傷はクヌークの硬い表皮に触れ、ズルむけになった。

 そいつらはおそらくクロコダイルが擬人化したもの。

 ゲーム世界では、リザードマンという名称で知られるタイプの魔物だと思う。

 この世界では、クヌークと呼ばれているようだ。

 

 それよりも、これしきのダメージで意識なんか失ってたまるか。


 リンクに冒険書を便利にする使い方を教わったんだ。

 ここに来るまでに幾つか機能を追加したんだ。

 バトルが必ず起こるだろうことは想定済みだ。

 バトルといえばダメージのやり取りはとても重要だから。


 そのひとつに、削られたHPの状況。

 回数および総ダメージを冒険書を開かずとも可視化できるようにしておいた。

 イメージしただけで物の出し入れが可能だとリンクも言っていたし。

 記録があるのなら、可視化ぐらいお手の物だろうと。


 自分がバトルと認識した敵が倒れた数値。討伐数だ。逃がした数の合計も。

 その他、種族やなんやといろいろやって置いた。


 そこから得られた確かな情報がある。

 山賊は8人倒したようだ。クヌークの首すじに剣が入った数も同じ。

 だが、クヌークの尻尾に僕の身体がもてあそばれたのは、8匹以上だった。

 一匹の一回の尻尾アッタクでD(ダメージ)200喰らっている。


 しかし、合わせても2000弱にとどまっている。もちろん、躱した分もある。

 見た目には傷だらけだが、ダメージ自体は大したことはない。

 軽自動車にはねられた感覚の衝撃ではあったが。


「痛みはほとんど……ない。お気持ちだけで結構です、ありがとう」


 僕は、スクッと立ち上がった。

 衣服についた砂ぼこりをパンパンっと軽く払いながら、涼しい顔で答えた。


「な、なんだって! 痛みがないだと!? クヌークの尻尾アッタクでここまで弾かれて来たんだぞ、君は」

「そうだ、やせ我慢は命取りだ。……ひとりで戦うと言った手前カッコ悪いのは分からんでもないが。そんなこと言わずにグッと飲み干して見ろよ」


「そのクヌークって、リザードマンではないのですか?」


 耳を疑いたくなるのも無理はないけど。

 僕は外傷がかすり傷であると、その場で飛び跳ねて見せた。

 そしてこの際だから、訊ねてみた。


「ああ、その通りだが……」

「君はクヌーク族の伝承を知らないのか?」


「──にしてもどこをどう鍛えたら、そんなにタフになれるんだ?」

「しかし……自力で立ち上がったのは事実だしな。──魔力をそうとう隠し持ってるな」

「えっ?」


 いま何ていったの。


「なにをそんなに驚いておるのじゃ……」

「冒険者がタフガイだったときは魔力しかないだろよ」

「まさか強いのに、冒険初心者なんてことはねえだろうな?……」


 なんか鋭い洞察力をお持ちのようですが。


「あは……そんなわけないじゃないですか」ここは照れ笑いで受け流す。


 いや、……それが当たり前の世界か。

 この人たちも、手持ちの冒険書に何らかのほどこしをしていると考えてみれば、合点がいく。


 いつか死神がギルドの戦士にたとえた話をしてくれていたっけ。

 商人だから、戦士ほど戦うためのスキルがないのだな。

 この分だと、そこら辺を歩いている人たちでさえ、魔力やスキルの存在にある程度詳しいのだということが読めて来たぞ。


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