四十五話 シュウタの検証①
僕の名はシュウタ。
転生初日、出会ったリンクと出発地点の森のコテージで半日を過ごした。
声を失くした彼は、筆記や仕草で僕の疑問をいくらか解消してくれた。
そのとき世界の詳細までは聞き出せなかった。
夕暮れに僕が床に就き、彼が翌朝からの旅のしおり代わりに地図を用意。
大きな街に向かって少しS字がかった一本道が記してあった。
道の中腹から西に外れると、小さな町が一つ、名はトアル。
そこには僕の興味を誘う店があるものと思って、翌朝まで待てずにリンクを背負って出かけたのだ。
朝まで待てない理由は、悪夢にうなされるのが嫌だったからだ。
夜中ではあったが、空は晴れていたので衣類の調達も兼ねて外へ出た。
トアルに着いたが、お目当ての『L1』という店など見当たらなかった。
夜明けを待ち、開店する店の中によろず屋を見つけて軽装ではあるが、服を調達してきた。
ゲーム世界でよくある初期装備。麻布で編んだ丈夫な村人の服。
リンクが上下を緑色に染めていたので、近い色合いで揃えてみた。
トアルを高速で探索するも、リンクが爆睡中では面白くもない。
大きな街へ向かうため、そこを後にした。
地図を見れば、大きな街へ行ってくれと言わんばかりに大きく書かれていたし、大きな街ならギルドがあるはずと自分の胸も弾んだ。
背中で揺れるリンクを起こさぬように静かに歩いていた所に、仰々しい悲鳴が聞こえてきたのだ。
リンクを背負ったまま、悲鳴が聞こえた方角へと高速移動して様子を見た。
在り得ない数の野蛮人が、善良そうな人間を囲って略奪をするようだ。
そこには、山賊たちに襲撃されようとする20人ほどの行商人が見て取れた。
蒼白する商人たち。このままでは略奪どころか皆、食い殺される可能性があった。
「あまり……猶予がないな」
すぐさま3キロ以上の距離を飛び、山林から草原地帯に出た。
彼を巻き込めない。
素早く周囲を見渡して、涼やかな岩陰を探し出した。『ズザザザッ──』足首とつま先に力を加え、軽快に駆け抜けた。半径、300メートル範囲を危険動物がうろついていまいか、確認を済ませた。
草原の窪地にリンクをそっと寝かせて、僕は行商人を助けるべく、群がる野蛮人どもの中心へと躍り出た。
◇
「おいっ! そこの野蛮人ども──」
言葉は通じるのかと思い、命が惜しければ立ち去れという趣旨の言葉を向けた。
「ひゃっひゃっひゃ。人間のチビ助が安っぽい正義感を振りかざして何か、ほざいてやがるぜ」
商人たちは、幾つかの荷車に積んだ金品を囲うようにして震えていた。
そこを背に僕が両手を広げ、ズバっと立ちはだかった。
ケケケと一斉に嘲笑う山賊たち。
「おとなしく立ち去らぬなら、天に代わり成敗してくれよう!」
左右に広げていた両腕をゆっくり上下に構えて見せ、低いトーンで凄む。
「商人の子供か? クヌークたちの餌にちょうどいい。ひゃっひゃっひゃ」
「おい君っ! いったいどこから出て来たんだ?」
「お、オジサン達だって敵わないんだ。この状況……もう、どうにもならん」
山賊は僕のことを、従えている獣の餌にすると言った。
行商人は全員、成人男性で働き盛りといった感じに日焼けしていた。
その筋骨隆々の大人たちも震えながら死を覚悟した物言い。
行商人の周囲は余すところなく、奴らに囲まれていた。
表皮の固そうな大きな獣に手綱を付けて、乗り物代わりに跨る山賊たち。
先程の調査でざっと200匹は居るだろうし、近くに来てみれば。獣というか足の短い怪物も同じ数いることが解った。人の様に進化しているのか、二足歩行の怪物だ。退化した前足は器用に長ヤリなど携えていた。
「オジサン達、荷物は無事か分からないけど、たぶん生きて帰れますよ」
「そ、そう願いたいものだが……。この魔物の軍勢に何ができるというんだ?」
「き、君の方こそ逃げて生き延びるんだよ。こうなったら、俺たちが食われているうちに……な。皆で彼を匿うんだ」
震えていた商人たちは、健気にも僕の身代わりに食われて死ぬ覚悟で身体を引っ張る。
もちろん、そのようなことをさせる為に現れたのではない。
僕は、彼らの腕を振り解いた。
「そう心配しないでください。僕は冒険者だから大丈夫なんです」
そう言って、オジサン達にそっと冒険書を開いて見せた。
「お、おう! これは確かに冒険者証だ」
「オジサン達も持っているぞ、商人だ。敵が数匹なら戦えたんだが」
「名はシュウタです、15になります」
「そうか、シュウタ。ジョブはなんだね? 見た所、丸腰じゃないか」
「ジョブは……えっとその、喧嘩上等屋っすかね」
この世界のジョブは今聞かせてもらった商人と、魔法使いと戦士しか知らない。
そのどれも、僕の好みの肩書ではないため、そう答えた。
「け、喧嘩上等って。君、相手は街の不良じゃないんだぞ」
「とにかく、殴って、殴ってボコしていきますから。僕がスキを作るので、逃げだす準備をしといてください」
「準備をして置けって、シュウタひとりで本気で戦う気なのか?」
この状況でも、商人は僕を子供だと気を遣ってくれる。
「キシャアアァ──っ!!」
乗り物扱いされていた怪物がこちらに向けて、奇声を発した。
ヘドロのような汚い唾液がプシャアーっと大量に飛んできた。
行商人たちが、恐れおののいて一斉に荷車の後ろへ飛びのいた。
「悲鳴を聞いて、わざわざ駆けつけたんですよ。とうぜんですよ!」
僕だけが微動だにもせず、一歩たりとも動かない様を見て、か。
「そ、そこまで言うのなら、信じて見ようじゃないか」
そう言ってくれると思った。
「俺たちには、どうすることも出来ないからな」
「冒険者シュウタ! 面目ねえが、た、頼むぜ」
獣が吠えかかってくれたお陰で、商人たちが僕にあっさりと命運を委ねてくれた。さすがに恐怖で死線を越えたら、大人でも人間そうなるわな。
いいぞ、そこで大人しくして置いて下さい。
「ありがとう。その方が気楽でいいです」




