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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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四十三話 《リンクの冒険書は傷だらけのデジャヴ》⑩

「どうだ気持ちいいだろ? リンク」

「う、うん」


 間もなくたどり着く。

 体の全神経を逆撫でされるような、おぞましい地獄の一丁目へと。

 3キロの距離をわずか30秒ほどで移動してきたのだ。

 風を切りながら、弾丸のようにその空域を貫くさまには爽快感を覚えた。


 運動神経はともかく、重労働で鍛えられた自慢の足腰を持っていたオレでさえも、この距離を全力疾走するには慎重にスタミナと相談しながら、水分補給も兼ねて呼吸の調整とクールダウンも含めて、最低でも10分以上は勝負に必要な時間だと考える。


 例えば、息継ぎなしの肉体を持っているにせよ、空でも飛べない限り、3キロの直線でも300秒はかかる所だ。それが人間の移動速度だ。

 シュウタも何度か立ち止まり、冒険書から回復食を素早く取り出し、摂取していた。そして例の時空魔法による、時短スキルのお出ましだ。それはもう空間を切り取るような勢いで、かっ飛んできたのだ。


 走っても10分、15分の距離だ。何もそんなに飛ばさなくても。


「金策とかでテンション上がってる時は、速攻で切り込むに限るんだよ」

「なんで?」

「のらりくらりと時間かけても、奴らが強靭なのに変わりはないからね」


 そして、到着した。

 魔物が集会を開いているような、死線を感じる恐々とした場面である。


「う、間近で見ると死ぬ予感しか……しない」

「でしょ?」


 オレにとっては身震いしかなかった。


「急いでやって来ても、リスクに差が出るように感じないんだけど」

「君が闘うわけじゃない。……僕だって、怖くないわけじゃないし」

「え……!」


 嘘っ!? じゃあ、なんで来たの?


「奴らの多くの仲間を僕がボコして間もないけど。さらに時間を空ければ、魔物がバカだった場合にその事を忘れられちゃうじゃない?」

「なら、シュウを見るなりきっと怒り出すから、その方が良いのでは?」

「もちろん、そうだろうけど。忘れていたら逃げ出す恐れもあるからね」

「あ……」


 そうか!


 すでに150の山賊を倒して、クヌークも150蹴散らした。

 シュウタは圧倒的に強い存在なわけだから。

 もしも脅威を感じて、あの数で逃げ出されたら、追い回すのに一苦労するな。

 クヌークの強靭な足回りは、シュウタも手を焼いたわけだから。

 どのみち全員を片付けなきゃいけないなら、いっそ怒りだして向かって来てくれる方が楽だってことなのだな。


「シュウは、頭が良いんだな」

「良いスキル持っていても、要領が悪いと宝の持ち腐れだよ」

「ちょっと、惚れてもいいかな?」

 

 オレはそう言って、シュウタの耳元に甘い息を吹きかけた。


「リ、リンク!? いっ、いまのは、からかったのか!」


 シュウタの声が急にうわずって、頬を赤らめて照れだした。

 少し、慌てた様子もあった。

 そんなウブな君も見て見たくなった。


 いつも、やたらと抱き着いてくる割に意外な一面を見せてくれる。

 こんな時にからかったりして申し訳ないけど。

 でも、あまりにも君が頼りになり過ぎて、つい嫉妬してしまったんだ。


「君の勇気が眩しすぎて、ね」

「僕の勇気が、君の惚れ薬になるなんて。だれかロマンチックとめて~」


 お道化ながら応える眩しい君がそこに居て、それがまた愛しくて。

 まったくもって奇跡のように楽しい気分だよ。

 こんなことなら、もっと早く君に出会いたかった。

 実際、会った所で奴隷男なんかに興味は湧かないだろうが。

 死んで良かったなんて感想はなにか違う気もするけど。

 シュウタ、君にしか幸せにできない者が、ここに一人居るんだよ。


「シュウ。残りの奴ら、逃がさない為の策はあるの?」

「それな。先の戦いでは一応、手傷を負わされたんだ。敵は400も居たわけだし」

「──と、言うと?」

「僕は乱入し、先制攻撃で百匹倒した。その時、インターバルがあったようだ」

「……時空魔法の、だね?」


 彼は一瞬だが悲壮感に満ちた表情を見せ、コクンと頷いた。

 それが初めての戦闘経験だったわけだ。

 彼のスキルの原型は魔法なので、一度の効力が切れる瞬間が来る。

 そこが100回攻撃の直後というわけだ。


「その間、敵と僕は同じ世界の住人になった。──魔物と非力な少年という」


 つまり、時空魔法の効力がある間は、動きは百倍で、所持魔力がそのまま破壊力になる。

 それが途切れた途端マズイ状況が展開したと言うのだ。

 それこそが山賊たちと闘う上での彼の言う、怖さという部分だったのだ。


「山賊の振り下ろすサーベルにかすっただけで、Dダメージ80は受けた」

けながらも、剣の餌食になった回数はどれくらいなの?」

「50回だったが、さらにクヌークの突進も喰らって、そのDは一撃200はあった」

「はあ!? ちょ、ちょっと待ってよ、シュウってば……」


 サーベルのD80×50匹分で、4000のHPを削られたと言っているのか!?

 その上、漏れなくクヌークの突進Dが一撃で200付いてくる×50匹分で、10000のHPを削られるって話なんだよね。


「いや、もちろん回復食ひとつ口にすれば全回復できるから、さ」

「お、オレが言いたいのは、どんだけの魔力を内包してるのさ? キミ」

「魔力? HPじゃなくて?」

「なんだ知らないのか。シュートリアでは、生命力と魔力は同一のモノでHPと表記されるんだ。【命を保つ力】の意味でホールド・パワーの略称になるんだよ」

「そう言われれば、魔力がスゴイと神に言われていたのを思い出したよ」


 それを神様に言わせるってことは、計り知れない魔力の持ち主なのではないか。

 どれだけ身体に内包しているのか知りたいオレは、シュウタに冒険書で確認するよう促した。


「話がすこし逸れてしまうけど、是非とも聞かせて欲しい情報だね」


 君と喋っていると、どうにも本筋から話が逸らされてしまうがオレのせいじゃないよな。オレだって好奇心をくすぐられたら、どうにも止まらなくてな。


「な、なるほど。ステータス表示というわけだな。ま、別に見なくても知ってるけどな」

「オレが見たいの、だから早く、オーップンして見てよっ!」

「オーップンって、えらく興奮気味だな。そんなに見たいなら、見るがいいっ!」


 オレは、ドヤ顔でけ反り気味のシュウタの差し出した冒険書を手に取った。

 シュウタの方に書を掲げるようにして向けた。

 だが、彼はキョトンとしていた。


「早く、オーップンって言って開示命令を出してよ!」

「お、おう。ステータスオープンっ!」


 すぐさま画面をのぞき込んで見た。

 目に飛び込んで来た、在り得ない文字列にびっくり仰天してしまった。


「え、ええええっ!? なんじゃこりゃ──っ!!?」


 彼の顔を見直すと、彼は相変わらずのドヤ顔をして、


「子供のくせに、えっちな冗談するから仕返しだよ」


 舌の先をペロっと出しながら、

 ちっちゃい声で呟いたつもりだろうけど、オレには丸聞こえだからな。

 しかし、この表示はシュウタが仕込んでやったと言うのか?

 ちゃんとしたのを見せてよと迫ったら、書をのぞき込んだ彼も目を白黒させているではないか。


「な、なんだこれは? めちゃくちゃバグっているぞ!?」

「シュウが仕込んだんじゃないの?」

「どうやってさ。これ数値が表示枠に収まってないようだけど……」

「扱い方は記憶のあったオレに教わったんでしょ?」


 また彼がキョトンとして、会話を止めた。


「──だから、魔力を注げば自在に書式を書き換えられることでございますよ、旦那しゃま!」

「え、マジで!? そんなの初耳学だよ。魔力吸い取るの、冒険書って。道理で言うことを聞いてくれる訳だよな。そんで取られた魔力は無くなるのか?」

「そりゃそうでしょ。冒険書はマジックアイテムだからね」


 例に挙げれば、食べ物の所持数を一桁増設すれば、魔力1000を吸われる仕様だ。


「シュウの冒険書の初期値が不明だけど、それほど多くの書き換えをしたわけでもないでしょ? 一回要求する度に1000消費すると覚えておけば良いよ」

「けっこう書き換えた気がする。10個ぐらいだったかな。魔力10000も減ったのか」

「元々、いくら持っていたの?」

「いや、神が言うにはなHP300000だったんだが、29万に成っちまったか」

「それはけっこうな数値だね。でも、30万なら普通に表示されるはずだよ。オレ、奴隷で接客も沢山させられて色んな客に会ってきた。中には高等魔法使いも居て、HP53万のステータスも目にしたことがあったよ」


 あれ、シュウタさん?

 なんだか目が点になってるけど、どうしたのかな。

 君の魔力だってたいしたものだよ。中等魔法使いと並んでいるよ。


「所持魔力が30万なら、フルパワーで相手をワンパンでボコしたら、その一発で30万のDダメージを与えたことに相当するんだ。シュウタも充分スゴイよ。頑丈なクヌークなら5000も与えれば死ぬ」


 神様からもらった自慢のHPが、この世界でいかほどかを知ってしまい、ガッカリしているのだろうか。それとも冒険書が魔力の消費で成長するアイテムと知って、減った魔力が戻らないので気落ちしたのかも。


「シュウタ。いい機会だから、良いこと教えてあげるね。これからは書に注ぐ魔力は、魔物から奪えばいいよ。ギルド冒険者はみんなそうしているんだよ」


 あは。

 元気がなさそうだったけど、黒い瞳に明かりが灯ったようだ。


「リンクっ! やっぱり君は頼もしいな」

「書に命じるの忘れないでね。魔力は闘う相手から吸収する、と。すでに倒した300匹からは取れなかったけど、そこに居るやつらからは回収できるからね」

「山賊は1000で、クヌークは5000で、もらえるギアと同等のDダメージで倒せて、同等の魔力が回収できるって解釈でいいのかな?」

「飲み込みが早くて嬉しいよ。──あと、魔力1000は1メガという単位に換算できるから、ついでにその表示も追加してみると整理しやすくなるよ」

「へっ? 今なんとおっしゃったのですか?」


 どうしたんだ。

 またオレの説明が下手だったのかな。


「つかぬことを聞くけど、もしかして1メガは1000メガになると1ギガという単位になったりする?」

「シュウタは、オレの思考も読めるのか? いま説明する所だったんだが」

「やっぱりそうなのか! 僕の世界にもその表現があったんだよ」

「それでか! すでに知識を持っていたのか」

「ギガの上はあるのか?」

「それはないけど。そっちにはあったの?」

「あったけど、こっちにないならそれでいいんだよ」


 なんだ所々、お互いに知らない事があって補い合うことが出来るみたいだな。

 シュウタの世界の知識をもっと知りたくなってきた。

 行く事は出来ないのだろうけど、不思議と繋がっていて、シュートリアの栄光のための重要な鍵がそっちにあるような気がしたんだ。


 あは。


 きっと、オレの思い過ごしさ。


「ねぇそれで、あいつら一匹も逃がさない策はあるの?」

「あるよ。回収した山賊のサーベル150本で無双してやるから」


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