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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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四十一話 《リンクの冒険書は傷だらけのデジャヴ》⑧

 

「まるで、山賊に遭って来たようなセリフだね」

「さっき、その辺りで出会ったよ。リンクは分布に詳しいのかな」

「いや……べつに詳しい訳ではない」

「ところで、急に慌ててどうしたの?」

「山賊はざっと、50は居たでしょ! ぶっといサーベル振りかざしてさ!」

「そーだな。あいつらどこかの行商人を襲っていたんだ」

「山賊だからな。誰彼ともなく犠牲になっているのが当たり前だよ」


 人が襲われている現場に居合わせたのか、それで運よく難を逃れたのか。

 その渦中、目覚めの悪いオレを懸命に起こしてくれて居た。

 ならば、この場を早く去るのが得策だ。


「能力を試すには丁度いいかもって、乱入してやったんだ」

「はあ!? よく無事で居られたね。……そ、それでどうなったの?」

「山賊自体はザコだけど、変な生き物に乗っててさ、その足の馬力が厄介で」

「シュウ。それ、クヌーク。ワニ系の獣人だよ」

「ワニには見えなかったが、確かに足が短かったな。獣人ってことは、あれは魔物なのか?」

「ああ、獣人の魔物だよ。知能もあって人語を話すタイプも居るよ」

「ふうん。乱入した時は、200匹はいたけど、連撃で150は撃退したんだ」


 撃退しただと!?

 一人で、150匹も制圧したと言うのか。


「れ、連撃。──それが君の能力?」

「うん。連続攻撃だよ!」

「手傷を負って居ない見たいだけど。どうして連撃できるの? スキを突かれたり、不意打ちもあるのでは? 相手は大勢いたはず。ずっと疲れ知らずで打ち込めるの?」

「一匹に対しては、倒せば攻撃を止めるよ。次の奴を狙う時、スキができないか、だな」

「うん」

「相手にも寄るだろうけど。僕は人の百倍、行動できる。──分かりやすく言えば、1秒間に100秒分、素早く動けるんだ。試して来たから間違いない」

「人に限らず、周囲の何者よりも高速に動く。それは、──自分の周囲だけ時間をゆっくり再生するようなものか?」

「お、リンク。気の利いた表現するね。そういう現象を見たことがあるの?」

「まあ、魔法屋に会って得た知識だけど。それ、時空魔法みたいだね」

「やっぱりあるんだな! この世界の法則に則った現象が」


 この世で最も崇高と言われる、能力。それが時空魔法で、時間操作が可能だとか噂で聞いた覚えがあった。やっぱり、能力を受ける転生の儀式の成功には、凄味と魅力を感じる。


「いわゆる、時空屋って呼ばれる高等魔法使いがいると聞いているよ」

「魔法使いが、シュートリアで言う能力者になるんだな」

「そんな認識でいいと思うよ」

「これ、時空の能力だったのか……スゲえ!」


 興奮気味に拳を握り締め、シュウタが感嘆した。能力の系統を知り、感動を覚えている様だ。

 無邪気な、と言いたい所だが気持ちはオレにも分かる。


「──それで何故、リンクは山賊の数を把握しているんだ?」

「え?」

「いや、おかしいでしょ?」

「な、なんで?」

「今あいつら、周りに居ないじゃん? 君が目覚める前に居なくなってんのにさ」

「そう言われれば、……姿が何処にも見えない、な」

「つまり──リンクは目視で確認していないんだよね」


 確かに。

 彼にそこを指摘された今、初めて気付いた。

 あれだけ物々しい光景が脳裏に浮かんでいたのに。

 気付けば……誰も居なかった。


 でも山賊の軍勢が傍に居たことは、戦った彼が証言し、明らかとなっている。

 彼の言うことと、オレの記憶は一致している。


「あ、あんなに大勢いたのに。囲まれでもしたら一巻の終わりだと……」

「そのビジョンは、何故見えたの? 目覚めてすぐに知る術があるのは不思議でしょ。もしかしたら──それがリンクの能力の可能性もあるよ。よく思い出して見て」

「あ!」


 目覚めた直後。

 その情景を顧みるなり、感嘆符と共に口をついて出て来た。それと同時にこの胸にときめきを感じた。何かの能力かも知れない──その予感に心が色めき立ったのだ。

 

「お、オレ……」

「お! なになに」

「この耳で聞いたんだ! 奴らの足音。そしたら情景が頭に入って来て、焦った。だから君が居ないと困るから、焦りで転生の話をしちゃったんだ、はは」

「うん、そうだったか。……やっぱり、その大きな耳だったか」

「うん? オレ、そんなに耳がデカかった憶えはないけど……」

「リンク、ちょっとこっちに来て。そこを覗いて見てよ」


 シュウタはスクッと立ち上がると先を急ぎ、手招きをした。オレも立ち上がり、彼の後について十歩ほど移動した。すると、彼は岩陰にあった窪みを指差して、そう言った。

 雨上がりの後か。岩陰の足元に大きな水溜まりが見えた。


「え!? あ、なんで? 子供がいる!」

「それ、君の顔だよ。リンク」


 水鏡に映える自分の顔と姿に驚いてしまった。

 目が覚めてからは、彼とのやり取りで必死だったから。

 そこに姿を変えた自分が居るなどとは、想像も出来なくて。


「お、オレ……子供に転生してたのか。シュウが十五と言う割には長身だと思っていたが。……そう言えば、確かに耳が掌からはみ出る大きさだ。世の中にはこんな子供も居るんだな」

「居るか? そんな子供」

「だって、現に目の前に……」

「人間だったらの話だね」

「に、人間だったらって。……シュウ、いったい何を言い出すの?」

「リンク。……この際だから、思い切って飲み込んでもらおうかと、ここへ足を運んでもらったんだ」


 シュウタは意味深な物言いをして、目を細めた。

 正に今、嫌な経験しかしてこなかったオレの、人生の勘が言っている。彼は間違いなく、何か予想外の話を切り出そうとしている。

 年齢差があっても、彼はオレの心中にグイグイと踏み込んでくる勢いがある。彼の進言は然るべき時に力強く向けられる。

 恐々と身構えるオレに彼は、再び水鏡を見てごらんと指差した。

 

「君は子供に転生したのではない。妖精になったんだ」

「……人間じゃなく? お、オレ……妖精? このとんがり耳がそうなのか」

「種族が人のままじゃなくて、ショックかも知れないが、君は出会った時から妖精だった。先程からの口振りで、人間のつもりでいる様だったが、いつかは受け入れなければ、ね」


 オレは人間の別人になった訳ではなく、種族が変わっていたのか。シュウタはずっと伝えるタイミングを窺っていた事だろう。オレが傷つかないか、気を遣ってくれていたのだ。


「し、心配はいらない。……ありがとうシュウ。転生だもんな。覚悟をして自ら飛び込んだ闇の世界だし、新たな肉体をありがたく受け容れるよ」

「──肉体が妖精に転身する過程で、痛みを伴ったとは考えられなか」


 あの時感じた痛みの事か。


「なるほど、そうかも知れないね」


 顔周辺の痛みだった。耳を引っ張られた感覚もあった。思えば、生え変わるような。


「前の肉体はとっくに無いだろうが、精神は君のまま生きて居るから。新たに目覚める体の痛覚に敏感でなきゃならない。それを知らしめる場所と時間が何処かにあったはずだよ」

「そういや……あの、白い空間がそれかも知れない」

「白い部屋を体験したんだ! それ、転生の間と呼ばれているやつだ。間違いないよリンク! 君は転生に成功しているよ!」

「せ、成功って!?」


 その言葉は、ちっとも嫌な響きじゃない。嘘でも少しは希望が持てるよ。

 でもオレは……もう知っているから。自分から挑戦権を放棄した。


「……宝箱を選ばぬ者は、神への冒涜で契約違反だから……罰が」

「馬鹿か、君はっ! 水面に映った姿を見ただろ。それがこの世界のゾンビの姿なのかよっ! 失敗だったらゾンビになるんだろ!? 君が言ったんだぞ、それでも僕が嘘つきなのかよ」


 シュウタが初めて、怒った? 違う。真剣なんだ。

 わ! オレ……マジで馬鹿だな。

 その通りだよ!


「……シュウ。お、オレ……ホントのほんとに成功転生だぁあああ!」

「そうだよ! ホントの本当だよ、リンク。おめでとう……て、女神の従者がゾンビなんて普通に嫌だわっ! ど天然かよ」

 

 そうか。あの時のあれが、転生の手続きだったのか。自分が過酷な生い立ちに疲れて、苦から逃れる手段として用いた闇転生。未知数の出来事に自己責任を忘れて、起こる不具合を全て他者のせいにしていた。


 「シュウタ……ごめん」

 「リンク、良かったじゃん!」 

 「うあ!」


 今更ながら、これまで突き付けられた現実には気分が重々しい。今はそのギャップが清々しい。

 シュウタは明るい口調で囁いた。

 そしてまた、オレの髪に指を通し、そっと頭を撫でた。


 「身体は若々しいし、中身は君なんだから。──それに、その妖精の耳が広範囲の収音に優れ、結果として手に取る様に頭の中に情景が浮かび上がるなんて。能力だよ! 生前には出来なかったんでしょ」


 そうだ、その通りだ。


 オレ自身が初めから気付くべき事だったのに。生前には成し得なかった不思議な現象だ。体得している自分の中にまるで違和感が起きない。


 シュウタは更におめでとう、と言わんばかりにオレの体を抱擁した。

 今は嬉しい気持ちと同時に、生まれ変わったと言う寂しさが相まっている。


 君には本当に頭を下げてばかりだ。

 そんな切なさを見透かしてか、髪を撫でて抱きしめてくれた。

 共に喜んで、目の前にある幸運に祝杯を上げ、俯く必要などないのだと諭す様に。

 温かな笑みから漏れる、君の吐息がオレの冷えたこめかみに熱を吹き込む。同時に心の中に何かが芽生えた感じがした。


 生まれて初めて、友愛と言ったものを感じる。


 「しゅ、シュウ……あったかい。何だか、いい気持ち」


 彼の頬に吸い付くように甘えた。

 今はそうしていたい。自然と涙が零れて来た。

 吹き来る風が二人に冷たく絡む。吐息は一層心地良く、この耳元で友愛の調べを奏でていた。

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