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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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三十九話 《リンクの冒険書は傷だらけのデジャヴ》⑥


 シュウタも転生者だったか。

 ホッと胸を撫で下ろした。

 だが彼の話から判明したのは、オレとは転生方法が異なることだ。


 最初は色々と、彼のペースに呑まれて余計なことを知られた。

 そう思い焦ったが、彼と友好を結べた事が大きい。


 しかし、その為にシュウタには真実を語らなければならない。

 いや聞いてもらえれば、それが二人の共有の秘密にもなる。

 内密にしといてヤキモキするより、安心ではないか。



 ◇



「リンクは、どうやって転生したの?」


 興味深く、シュウタが聞く。

 オレの両肩を両手で軽く押さえながら。

 彼は「まあ座って話そうか」と柔らかい土の上に膝を着いた。

 そう促され、誘いのまま向かい合って二人は座した。


「……さて」


 どこから切り出そうかと、オレは嘆息した。


「簡潔でいいよ」


 彼の黒く澄んだ瞳が、オレを真っすぐに見た。


「うん……」

「僕が聞こうか?」


 説明は下手だと告げたせいか、気遣いの言葉で。

 頭一つ長身の彼がオレの顔を覗き込む。


「大丈夫。端的にまとめるつもりだから」


 彼はコクリと頷いて、オレの言葉を待った。


「オレは。──五歳になったある日、奴隷商人に売られた」


 黒い瞳の瞳孔が開いた。


「親が作った借金の形に取られたのさ」

「……」


 彼は唖然とし、じんわりと目を潤ませた。

 彼が何かしら労りの言葉を掛けてくれようとしたのが分かった。

 オレは彼の面前に掌を向け、「大丈夫!」と示した。


「その時点で、両親は夜逃げしていた」


 更に目を丸くしながらも、黙って耳を貸してくれた。


「三歳下の妹が同様に他の奴隷商人に持っていかれた」

「うん、うん──」


 堪え切れずか、気まずさか。

 シュウタは丁寧な相槌を打つ。


「二人はそれっきりになり──二十歳になるまでオレは奴隷で過ごした」

「グスン……」


 彼は俯き、ハンカチを自分の頬に添えた。

 涙もろい一面もあるのだな。

 転生の話題では冷静にオレの隙を衝いて来たのに。


「借財よりも、ペット化された屈辱の日々。死のうか夜逃げしようかと配達の帰り道、初老の男の声に歩を止めた」

「うん?」


 シュウタは、キョトンとした目でオレに視線を戻す。

 彼の何らかの興味物質を刺激したようではあった。


「その男にさらわれたの?」


 そうだとは言ってないのに、何故か誘拐説に切り替わった。

 好奇心の塊ですと、顔に書いてある君の瞳が話の流れを止める。


「……いや」


 昔話を切り出したばかりだ。

 質問が早すぎるよ、シュウタ。

 その疑問符は急展開過ぎるだろ。考えを巡らしながら否定するオレに、


「その場で襲われて、殺されたとか?」


 まあ、死んだ原因の話題に触れ始めているのは確かなのだが。

 その流れで死んだのなら、転生の仕方がシュウタと同じだと分かりそうなものなのにな。

 

「なぜそうなる?」

「だって死ぬんでしょ? リンク」


 ああ──さっきは鋭い勘の持ち主と褒めたばかりだが。

 なんだか褒め損をした気分だ。


「シュウタ、早合点しないで。誘拐なら、初めからそう言うだろ」

「だって説明が下手なんでしょ? リンク」

「腹パン入れていいですか?」


 彼の腹部に握り拳を軽くあてた。


「えっ」


 苦笑交じりに言い放ったから。

 そこはシュウタも、冗談で受け止めてくれていると思うが。


「そこ怒るところ?」


 確かに説明は上手くないと言ったなオレ。

 前言を撤回したい気分だ。だがそこまで酷くはない。


 大体、何の説明もなく殺されてるなら、君の洞察に矛盾点が生じるだろ。

 まったく……面白子供なんだから。


「二つの予想は的外れです。その場面で死んだら女神の元へは行けないよ」

「だって転生の女神なんでしょ。……スキルくれるの」

「シュウタ、よく考えてよ。女神は誰も知らない祠にいるんだよ。それに──」


 彼は、その言葉を聞いて眉根を寄せた。

 やれやれ。

 さっきの名探偵ぶりは何処へ行ったのやら。

 

「シュウタが言ったんだよ。オレは死ぬことを知っていたはずだと」

「あ、そういうことか……」


 オレは彼の唇に人差し指をスッと当て「だまって聞いて」と促した。

 端的にまとめると言ったのに、話が横に逸れていくのはシュウタの責任だ。

 


 ◇


 オレは五歳の時、兄妹で親に捨てられた。

 親は二人とも、多額の借金が返済できずに夜逃げをした。


 借金の形に、それぞれ別の奴隷商人の屋敷へ強制的に引き取られた。

 妹の消息もそれっきり。

 家族の情報は一切遮断され、オレの耳にはいつまでも届かなかった。


 奴隷になって働き続けること、十五年。

 地獄の毎日だった。屈辱の日々だった。自由など無かった。


 商人だけにこき使われる訳じゃない。

 裕福な家系の子供、貧困層でも家と親のある同年の子らにまで奴婢呼ばわり。

 どんな辱めも我慢するしか無くなるまで、鞭で打たれた。

 悔しくて、悔しくて、一晩中、馬小屋で泣き明かしを繰り返した。


 いつしか涙も枯れていった。

 借財など踏み倒して夜逃げでもしてやろうと計画もした。

 要領の悪いオレは失敗ばかりだ。

 貯金もなく、財布も空っぽ。顔はすすだらけ。


 逃げ出しても必ず連れ戻され、鞭打ちに遭う。見張りを立てない程、連中も馬鹿ではない。街中の至る所に奴隷商人の検問所があった。他の街も裏社会は同様で、同業同士は密に連携していたのだ。子供(ガキ)のオレなんかがたった一人で太刀打ちできるものではない。


 幸運など微塵も持ち合わせてなど居なかったが、一縷(いちる)の望みすらことごとく砕かれていった。

 運は親が知らずに逃げた、あの日に使い切った様だ。


 あるのは隷属させ続けられた世界で、身に具わった筋肉質な肉体だけだった。

 労働でつけた筋肉と小麦色に焼けた素肌以外、何も取り得はない。


 脱走計画が幾度かふいに終わった。


 手痛いお仕置きの後、足枷を嵌められた。

 当初、木製だった枷は石製になり、やがて鉄製に変えられた。


 惨めだった。

 人間でありながら、それに見合った扱いも待遇もない。

 日々、奴隷として働く。

 稼いだ賃金は借金の返済ですぐさま全額巻き上げられていった。


 名ばかりの給金が支給される。

 

 いつかどこかで拾った空の財布は酷い異臭を放っていて、取り上げられずに済んだ。

 オレの運などその程度しか無かった。

 

 「借りた金には当然、利子がある。法外な利子って奴が」


 法外な利子は、更に法外な利子を生み続け、借財は膨れ上がるばかりだった。


 借金の仕組みなどたかが知れている。奴隷を逃がさない為のからくりだから、借金を全て返済したとしても放免された後もまた、汚い手口で罠にはめられて戻って来た連中を嫌と言う程、目にして来た。そうして金は人を悪魔に変えて行くのだ。


 初老の男に会うまでをこう説明した。


 ◇



「──闇金だったわけだね」


 シュウタの声が間に差し込まれた。

 オレは首を縦に振った。


「だが奴隷になった子供を易々と手放しはしない」

「……それは?」

「借金の形は元々、……オレたち兄妹だったのだ」

「元々?……実の親が子供を担保にしてかっ!?」


 シュウタが食い入るように声を大にして、憤った。


「ありがとう、……シュウタ」

「なに、が?」

「……同情なんて……生まれて初めて受け……た」


 ここに来て溢れ出す大粒の涙に、オレの顔は初めて人間らしく咲いた。

 ……気がした。

 人生なんてものをとっくに諦めて居たのかもしれない。


「生きることに疲れすぎて、自ら……人間であることを放棄して……いた」

「は……恥じるな! 自分の運命を呪って生きるなんてナンセンスだっ!」


 彼が掛けてくれるその言葉に「オレには勿体ない」と無意識に首を横に振った。

 あの時受けた凍てついた寒い心は、オレに戦慄しかもたらさなかった。

 こうして振り返っているだけなのに、感情は今でも混乱しかもたらさない。


「それを恥じることはないんだよ、リンク!」自信に満ちた力強い声が響いた。


 そう言い、恥で赤くなっているだろうオレの耳を軽く撫でてくれた。

 そのまま俯くオレの顔をぐいっと上げ、真っすぐに目を見た。


 彼の熱い視線は、オレの瞳孔を開かせた。

 目の前に居る君は、太陽の様に温かい。

 その温かい手で、オレの顔を揉み解す。

 そしてまた背に腕を回し抱擁した。

 

 少し落ち着きが戻った。

 彼の腕の中は初めてじゃないが、なぜか落ち着く。

 とても不思議な場所だった。

 

「その日、出会った男が転生の話を持ち掛けて来たんだ」


 シュウタの腕の中で当時の真相に迫っていく。

 彼の耳元で「転生」と漏らすと、シュウタはオレを抱き寄せるのを止めた。


「な、何者なの?」


 また興味物質か? 突き放すように彼は距離をとった。

 血相かえて話に食い入り、目を輝かせる。


「君が祠のありかを訪ねに行く、錬金術師だよ!」


 ここで情報の出し惜しみをしてもしょうがない。


「ま、マジか!?」

「正確には、闇の錬金術師だけど」


 誰にも知られてはならなかったタブーをついに解禁してしまった。


「闇の……闇属性なの? 暗がりが心地いいとか言う、あの」

「ちょっと、何言ってるか分かんないっすけど……」


 それが何の事かは、オレには見えないが。

 シュウタに伝えねばならない極秘情報がそいつらの存在なのだ。


「属性の闇じゃなく、闇金の方だ」


 闇の錬金術師は、闇取引の常習犯だ。

 世間の人々は彼らのことを闇金と呼ぶ。


「そいつが高利貸しの元締めか何かか?」


 金貸しは奴隷商人だ。

 まあ、悪党に変わりはないけど。


「さすがは面白子供だ。シュウタはおもしろいね!」

「いま小馬鹿にされたような……」


 シュウタは眉根を寄せた。

 そんなことはないと、彼の面前で手を横に振った。


「金貸しじゃないよ。──闇でヤバい仕事して稼いでいる連中さ」

「リンクが、おかしな言い回しをするからだ」


 シュウタが訝しげに言った。

 そんなことはないと、再び彼の面前で手を素早く横に振った。


「この世界では、彼らのことは誰もがそう呼んでいるよ。闇金って略称で」

「……つまり、違法転生屋ってことでしょ」


 ようやく冴えてきた様で何よりだ。


「さて、転生の方法だけど」

「うん、うん」


 ニンマリとしながら目を輝かせて、何度も頷くシュウタ。


「少し長くなるから、まとめると……」



 ◇



 ある日、闇の転生術なるものを初老の男が、オレに持ち掛けてきた。

 それは勿論どうにも胡散臭い話ではあったが。

 地獄の生活からの脱却に繋がると話を推されて、オレは耳を貸してしまった。


 この男はオレの身辺調査を行った上で、後を着けて来たのだ。

 精神がすでに病んでいたオレは、死んでも後悔はない。とまでに腐っていた。

 当時のオレにとっては、むしろ、都合の良い連中でもあった。

 

 オレは話に興味を示し、持ち掛けに応じる素振りを奴に見せた。

 すると男は、オレにドクロマークの刺しゅう入りの黒いフード付きマントを着せた。

 長年に渡り苦労を重ね脱出の機会を窺い、様々な策を弄するも失敗。

 そんなオレのこれまでの苦労を物ともせず、


「少し、屈んでみろ」


 言葉に従うと、男はどこからか取り出したマントでオレの体を余すことなく包んだ。

 すぐに気づけなかったが、スーッと周囲の景色に溶け込んだのだ。

 オレは、たちまち人の目に触れない状態になった。

 

 なんと透明になったのだ。


 何ともあっけない脱出法があったものだと、感嘆した。

 それは透明マントだ──男が簡潔にそう言った。


 思い返せば、錬金術師たちにはこんなに優秀な発明品があるのに闇に身を落とすのは何故か、そこは常人のオレが理解に苦しむ所ではあった。


 男もマントで透明になったが、装備した者同士はうっすらと姿を確認できた。

 二人で颯爽と街の中を風の様に駆け抜けた。

 夕暮れ時の街は仕事帰りの人々でごった返す。


 渋滞気味の人々の合間を縫う様に、右に左に体の重心を傾けるだけで誰に阻まれる事なく、グングンと推進できる。


 生まれて初めて得た爽快感だったかもしれない。


 途中に、あの憎たらしい金持ちの子息共の顔を見つけた。

 すれ違いざまに唾を吐きかけてやろうかと思ったくらいだ。

 やがて奴隷商人の検問所の真横を「ざまぁ!」という思いで横目に見ながら走り抜けた。


 そして男は、とある錬金ギルドの奥の隠し部屋にまでオレを案内してくれた。

 そこには、数人の男達がオレを待って居た。

 そこで、一通りの説明を受けた。


 闇の錬金術師たちがこう告げてきた。


『条件付きだが、お前に取っちゃ悪い話でもないだろう?』


 そう言われたんだ。

 そうだ、条件付きで受けたんだ。

 男が俺に突き付けた条件は、ひとつだけだった。


『転生後も、この世界で生きる事』

「?」


 男は何かを検証したいと言っていた。

 オレの方も知らない世界に行くことが出来ない事情を抱えていたから、利害一致で受けたのさ。


 異世界の話はそこで聞かされたんだ。

 転生後、異世界に行く者を「異世界転生者」と呼ぶ事も。

 話には聞いたけど、実際、どういう事かまでは実感が得られないまま時が過ぎた。


 だが、そこまでの苦境に立たされても、あっさり死ねなかった理由はあった。

 こんなオレにも血のつながった肉親が一人いた。


 ただ一人の肉親である妹が、別の借金取りの屋敷に幽閉されていた。


 親の作った借金の肩代わりで奴隷(どれい)のように扱われている状況にあることだった。


 それこそが利害一致の真の理由さ。

 その頃には親達を恨む気持ちも、恋しい気持ちもすでになかった。

 心の中からすっ飛んでしまう程、毎日が苦痛であり、恥辱であり、地獄でしかなかった。

 

 だが、そんな地獄の鎧を着せられた生活に終止符を打てる好機?が巡ってきた。

 それが、「闇の転生術」ってわけだ。

 

 男の説明では、死んでから気が付くと女神の声が聴ける。女神は声だけの存在で決して姿は見せないと。


 その指示に従って目の前に現れる宝箱を一つ選ぶ。

 それだけで望む異能力(ギフト)も全部手に入った状態で、再び女神ルシルの祠にて目覚める。

 新しい肉体を得て目覚めるのだとか……。


「転生だからな、元のオレではなくなる訳だ」


 そういう流れになっているからと。

 その宝箱を一つ選ぶって所だが。


「そもそも、錬金ってものが失敗も含めての術らしくてさ」


 二つのうち一つを選ぶんだが。

 どちらかにオレの遺言書に書かれた要望が詰まっていると言うのさ。

 もう片方が全くの外れ。

 外れを選んだ者は望んだものとは全く逆の貧乏くじを引くことになるのだとか。


「ロシアンルーレットより、ましな様だね」

「ちょっと何言ってるのか分かんないっす……」


 女神ルシルは転生神である。

 箱の中身については何も情報を持っていない。

 正解を聞いても無駄な努力に終わると、先んじて釘は刺されていた。


「錬金術って、なんだかギャンブルみたいだなぁ。やっぱりカジノあるんじゃないのシュートリア」

「うん、あるけどね」

「あ、あるの!」


 なぜか大人の裏世界に目を輝かせるシュウタがいた。

 ギャンブルは止めた方が身のためだよ。

 いつも痛い目見て来たから、よく知ってるんだ。


「シュウタ、それ博打だよ。それに子供は入れてくれないから」


 子供は入れてくれない、その言葉にシュウタはオレに指差しをした。

 オレがいるから何とかなるだろうと、めげる様子もない。

 何とも逞しい少年だこと。


 だが、男が検証したい内容の一部を聞いて見る。

 外れを引いた場合、つまり更なる地獄の鎧を普通は引いてしまうのだが。

 遺言書の書き方次第で、どう転んでも良いものだけを手に入れて帰って来れるんだとか。


 書き方次第、表現次第ということだ。


 裏目に出ても活用できるものなら、外れ(リスク)では無くなると言うのだ。

 いかにも闇ギルドって感じのうさん(くさ)い話だ。

 男は具体的な話を聞かせてくれた。

 錬金術師は魔法の研究も兼ねているので、簡単な魔法の説明にも入っていた。


 魔法使いは魔力を持っているが、魔法を使ってその効果を得るには口頭であれ、内唱であれ、具体的に示す必要がある。


「いわゆる呪文と呼ばれるものだ」

「呪文かぁ。なつかしい響きだな」

「さすがにそれは知っているみたいだな」


 火を付けたいなら、「燃やせ!」

 涼を取りたいなら、「凍らせ!」

 魔力を具現化するのが魔法だ。

 術者の望みを言葉で具体化するのが呪文である。


「もし呪文を唱えなければ、魔力を核とした何かが何処に向かうか知れず、下手をすれば爆発的な破壊エネルギーが自分に跳ね返ってくるかも知れないだろう」

「魔法使いの初心者の話だね」


 そのリスクも抑え込み、優位に扱えるようにしたのが呪文の詠唱だ。

 呪文の詠唱文句が長くても、それが具体的であるほど魔法の発動の精密さと、明確な効果を得るための補助になると言うのだ。


「ああ、だから呪文を唱えることは魔法使いの初心者でも、それが上達の道だと分かると言うわけだ」

「ふうん」


 上級者には詠唱を簡略化したり、あるいは無言で発動する者もいるが安全性を考えれば呪文を唱えるのがいちばん手堅いのだ。


 それを上手く創造して体外に放出するのが魔法だが、肝心なのは呪文なのだ。

 魔力は秘められた可能性であって、言わば魔法の材料に過ぎないのだ。


 魔力、創造、詠唱、放出、その結果が望む成果として使い物になるまでは、練習や検証が繰り返し必要になる。


「この錬金術も魔法の呪文のように、効果を得る過程で呪文の詠唱となる言葉による想像力(イメージ)を記した付加素材を入れ、効果をより鮮明に発揮するための補助にすると言うのだ」


「錬金をする為に、錬金用のレシピがあるのは僕も知っている」


 すでに検証済みで、調合の為に必要となる素材の組み合わせが記されたメモのことである。


「そのレシピに付加素材として盛り込んで、手に入れたい結果に拍車をかける為に開発されたのが、転生呪文の錬金レシピである」


「うお! わくわくワード大好き~!」

「しゅ、シュウタさん。よだれを拭きなさい」


 気持ちは分かるが。


 100%の成功率を可能にしたレシピだが、転生に及んでは女神ルシルの力と契約するため、死後は女神のまえに座する。


 そこで何も欲しなければ、いつまで時を経ても帰れないから選ぶしかないのだ。

 転生時の契約書に闇転生が記されているため、100%成功の宝箱と、100%失敗の宝箱が目の前に置かれている。


 そんな場面に遭遇するのだ。


 ルシルは転生の女神だ。

 一般人がたやすく会える神様ではない。

 謁見するには、神以外では錬金術師か高等魔法の使い手の呼び出しにしか応じないと言われている。


 女神の祠のありかも、常人では決して探し出せない。

 闇転生などが目的であるなら、そこへの仲買人は欠かせない。

 それが彼ら、闇の錬金術師というわけだ。


 しかし、女神ルシルは公平を期する主義だ。

 悪意を感知したなら当然、条件を提示する。


 それが宝箱をふたつ、目の前に置いて、成功がふたつにひとつという命懸けの選択なら、許可できると言うのだ。


「その条件でしか女神ルシルは譲らない。

 それ以上文句を言えば、その場で魂を抜かれるだろう」


 錬金術師たちの交渉では、それが限界ということだ。

 失敗の宝箱を引いても、男達には都合の良い何かが待っている様だが、転生者は実験台だから溜まった物じゃない。


『なあに、成功の宝箱を開ければいいだけのこと。そうすりゃお前も生涯、天国モードだぞ! うははは』


 男たちは軽い口調でそう言っていた。

 願い事を記した書簡は、あくまでも本人の遺言書であらねばならない。

 これにも女神のチェックが入るのだ。

 この本人の意思による遺言書どおりに進む転生が、闇転生術だ。


『ヤミテン』とも略される。


 闇転生を行うには、自分を殺してくれる共犯者も必要になる。

 死んだ者を彼らは、一度錬金のかまかツボに放り込むのだ、レシピと一緒に。


 錬金自体は、100%成功してツボの中から女神の祠へと到着する仕組みだ。

 宝箱を選ぶのは、女神の元からまともに生還できるかの、賭けをするのだ。

 そこが本人にとっては天国か、地獄かが分かれる所になる。


 だから、オレはこの祠へたどり着く為のルートを知らないで辿り着いたのさ。

 ワープに関しては。

 それを闇錬金術では、【加速度レシピ】と呼ぶそうだ。

 つまり、オレの遺体とともにそいつがぶち込まれていたのさ。


 この世界のワープは、ワープポイントに加速度レシピの錬金効果が付与されているのだ。

 冒険書やギルドカードが操作盤になって、その錬金効果に反応する仕組みだ。

 

 俺に近づいてきた錬金術師の男たちが開発に着手し、たどり着いたものらしい。

 今回のオレの遺言書は、その加速度レシピに追記されたようだ。


 遺体となったオレの体と加速度レシピをツボの中に入れなければ、女神の祠にはワープできないからな。





「恐らくは女神の祠にもレシピに呼応する、祠ワープポイントにレシピの効力が付与してあるはずさ」


「お札の割符の様なものか。どことどこを結んだワープレシピかが決まっているんだな。違う所に飛んで行かない様にするために──すっげェ、うきうきオーバーロードじゃん」


「悪用しなければ、な。……そこに遺言レシピを追加ってワケさ」


(ウキウキしちゃって、寄り道大好きか!)


「リンク。その遺言書を女神はどうやってチェックするんだ? 二度死ぬのか」

「いい質問だよ」


 そのために二度も死ぬわけがない。

 まあ、疑問点なのは分かる気がする。

 オレも最初はそうだった。


「……遺言チェックと転生のために? そんな分けないでしょ。地上にも神殿があるんだよ。そこへ行って変わらぬ遺志を伝えるのさ」


「ほう、神殿で死んでんじゃねぇと言うやつか!」

「ちょっと、何言ってるのか分かんないっす……」


(茶々入れを止めてくれぬか、説明が逸れるから)


 だが、曖昧なのは駄目なんだとか。

 ハッキリとした言葉を添えることが大事。

 例えば、手短な単語を選んでみて次のようにしてみると。


「『不死身』と書いて逆の宝箱を選んだ場合、即死というより、結果的にゾンビに成るそうだ。

 一応、転生するのでゾンビ人生が待っていたりするんだってさ」


「げげ! アンデットってそうやって生まれてんのか、恐ろしい世界だな」


「ああ。オレも危うくソレにされていたかも。……超運悪いから」


 アンデッド系などは、違法錬金術の失敗作だったりもするのだとか。

 錬金は、錬金窯などにレシピと一緒に素材を入れるのが、一般的な錬金だ。


 だが転生の場合はそこにプラス、死んだばかりの死体が要る。

 ただのご遺体じゃ駄目だ。

 意思の疎通のままならぬゾンビなどは無効なのだとか。

 遺体になる前の本人が転生の女神の元、契約しなければならない。


「いい予感はしないけど、いったい何の契約なの?」

「残りの寿命が、天寿の半分は残っている者でなければ話にならないと──」


 初老の男が言っていた……なんか納得がいく。

 と同時にオレは、まだ随分と生きられる運命だったんだな、と感慨深げにうつむいた。

 

「転生神という存在は、寿命を捧げると喜ぶのだ。錬金術師らとは古くからの腐れ縁だ」


 今のオレたちにとっては、どうでもいい話だ。

 二度も死んでたまるか!



 ◇



「説明が長くなった。すまないやっぱり下手くそだった」

「気にしない、気にしない。僕が要約してあげるから」


 そう言ってシュウタは、オレにメモを見せた。

 話しを聞き取りながら、書いていたのか。



 ☆


   【ヤミテン必要手順】


 ① シュートリアの転生は、錬金術に於いて執行される。

   闇の錬金術師が違法に行う転生術である。


 ② 転生希望者は遺書を書き残し、神殿に行く。

   そこで女神に意志を示し、認めてもらえば再び術師のもとに帰還する。


 ③ 撲殺の準備が整えられているとも知らず、帰って早々、殺される。


 ④ 欲ボケした術師たちは、独自開発した転生用呪文乗せレシピを身勝手な欲望

   の生贄として転生希望者の遺体とともに、錬金ツボに入れる。


 ⑤ 錬金ツボは女神の祠まで直行するワープ効果が付与されている。

   ワープ効果が発動する錬金レシピは【加速度レシピ】と称される。


 ⑥ 女神の祠には、運命の宝箱が二種用意されている。

   一方を天国、もう一方を地獄。希望者は前者を引き当てたい。

   失敗すれば、ゾンビとして地上に蔓延るも、何かしらのスキルは有する。






「どう? なかなか簡潔でしょ。リンクの宝箱転生術の説明会」

「確かに手短だけど……オレは宝箱を選択しないまま今に至っているから」


「はあっ!? じゃあ、前述の会話はいったい何だった……のよ」

「いや……全くもって面目ない……」

「僕はね、リンクにどうやって転生をしたのって聞いたつもりよ」

「う、うわああ。ちょっと、シュウってば!!」


 オレの下手過ぎる説明にシュウタは、プチ切れした様に間合いを詰めて抱き着いてきた。

 頭から、顔から、胸や背中やらをぐりぐり、もみもみしながら。

「え~い、しょたはこうしてやるんだから!」と、満面の笑みで悪ふざけの刑を執行した。


 だから、そのショタって何なんですか~~ぁ!


「すべすべお肌のここをこうしてやる~! はぐっはぐ」

「ご、ごめんなさぁい。もう一度、チャンスをくださぁい! ひいぃ」


  

 とんでもない速度で動き回るから、実際何をされてるか不明なのが「怖いよ~」

 

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