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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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三十八話 《リンクの冒険書は傷だらけのデジャヴ》⑤


 白い空間にいた時は、見えない痛みに恐怖した。姿なき声の主に怯えていたオレのことだった様だな、リンクってのは。


 目の前が開けるとシュウタと名乗る十五の少年と友達になっていた。シュウタはオレの抱える疑問符を一つずつ解消してくれたのだ。少しずつだが、何かが見えて来る気がした。このまま彼といれば、これまでの不安もいつかは全て消え去る気がしている。

 シュウタが敵ではないことは分かったが。彼にはまだ訪ね返して、確認したいことがあった。




 

 「それじゃ、シュウタ。今度はオレがする質問に答えて行ってくれ」

 「うん。もちろんだ」

 

 見守るような涼しい笑顔で、快諾してくれた。質問を端的にしていこうと思う。


 「まずは、その死神とはシュートリアに来る前に会っているんだよね?」

 「うん、そうだよ」

 「それじゃ、オレが一回は死んだ事実を君は知っていることになるね。その件で、オレに聞いて置くことはあるのかな?」

 「ある」

 「最低限は答えようと思っている。辛くなったら、止めるけど」

 「いいよ、それで。リンクと僕は死んだ者同士だ。でも、こうしてこのシュートリアに居る。僕の方は、転生してきたと打ち明けたよね。君の方はどうなっているの? あまり驚いていないみたいだけど。自分で何かを認識できているの?」


 やはり。


 シュウタは真実を述べているのだと思っていいだろう。そして、オレがこう聞き返さなくても、多分、この件には彼の方から切り込んで来たことだろう。地図やメモの文字だけではなく、決定的な記憶の内側にあるもので、オレの信頼を得ようとしているのが分かったから。

 彼が言わんとしているのは、恐らく。


 「転生。その言葉をオレが「テンセイって何だ?」と疑問符を投げかけず、飲み込んでいる点。試すようなことをしてごめん、と先に詫びたね。──ああ、その通りだ。オレも転生者だ」

 「そうか。答えてくれて、ありがとう。そこの部分の記憶を持っていてくれて嬉しく思うんだけど」

 

 うん? 何かマズいことを言ったのか。

 それとも、オレは何か飲み込み違いをしたのだろうか。

 これでも、結構きわどい情報を差し出した方だぞ。感謝の言葉はあるが、あまり喜んでは居ない表情と声だ。


 「そこ、答えるのは勇気のいる所だよ。この答え方だと不服なのかな?」

 「いや……そうじゃないけど」

 「死んで、転生した。そこに至った悲しい人生の理由まで言わなきゃダメか?」

 「リンク。死に至った辛い体験は、僕にもあるんだ。無理に話す必要はないと、さっき言ったはずだよ」


 それにしては嬉しそうじゃないし、たいして驚きもしない。彼の興味対象は、転生の話題じゃなかったか。でも、この件についての質問を乞うたのだ。その上で彼が聞いてきたはずだ。オレにとって死ぬほど答えたくない部分だったのに頑張ったんだぞ。

 

 「転生に関しては、この世界では他言無用なのが絶対ルールなんだよ。でも君も同じだと言うから話したんだ。不服としか思えない。ちっとも嬉しそうじゃないし……共感しないのかと」

 「リンク。誤解だよ! 嬉しくないはずないよ、嬉しいよ。そんなルールがあることも知らないのが、来たばかりの異世界転生者の僕なんだよ」

 「あ、来たばかり……そうだったね。す、すねた言い方をして悪かったよ」


 彼は、オレの住む世界に来たばかりで、右も左も分からない状態だったのだ。なんとも大人げのない事を言ってしまったものだ。


 「そのことを聞いちゃいけないかと迷ったけど。一緒に旅をして女神の元に君を連れてかなきゃいけないのに、君の記憶に僕は残されていないわけだから、もっと僕が踏み込まなきゃって」

 「うん。勇気を出したのは、シュウタの方だったのにすまない」

 「僕の方こそだよ、リンク。これでひとつ、二人の心が近づいた気がして嬉しいよ。それと、僕が澄ましたのは逆に驚きがあったからだよ」

 「えっ。あれで驚いていたの?」

 「二人で死神の前にいたんだ。だけど僕は別の世界から入って来たから、転生という経緯を辿るけど、君は元からここの住人でしょ。死にかけただけで、死んで無いかもって考えてたから、やっぱり転生だったのかって思ったけど。それならば、転生を疑問視しなかったこともそうだけど、君が転生についての話題に入ったと言う点だが驚きだ」


 うん? だからなに。どこを驚くのだ。


 「オレだけが転生しているのならまだしも、シュウタも転生しているのだから、何を驚くの? 人のこと言える?」

 「ちょっ……リンク、興奮しないで。僕が言いたいのは、転生もそうだけど、君が死の自覚を持っていることだ。転生するってことは死ななきゃならない。死神に謁見したことさえ覚えてない君に、死の自覚があることだ」


 うん? だからなに。なぜそれを驚くのだ。そしてもう少し、オレが傷つかない言い方をしてくれ。

 二人は同じ転生者だろ? 君もそうだと言ってたじゃないか。


 「シュウタ。もう少し分かる様に言ってくれないか。オレは頭には自信がない」


 一体どういうことなのだ。全く話が見えない。


 「リンク、落ち着いて聞いて。いい?」

 「うん。分かった」

 「君は、死んだ覚えがあるんだ。それも本当の天国に行く為のソレじゃなく。しかも現時点でも転生を疑問視しないのだから、この世界で自ら転生をしている可能性が浮上してくるということ」

 「なに!? なんでそこに辿りつくんだ、シュウタ?」

 「僕が思うのは、死ぬために死を選んだのではなく、何か別の目的があって、死んだ後にその身に起きる事態を承知で今に至るのではないかと」

 「はあ!? オレは……オレは答えたくない。そんなに踏み込まれたら怖いよ」


 耳を塞ぎたくなってきて頭を抱えた。迫りくる何かに身もだえしてきた。無理に答えなくていい約束なら答えたくない。


 「もう少しだけ聞いて。僕の洞察に心当たりがあるんだね。これで辻褄があう。君はさっき目を覚ました所までは、君の日常だったことだろう。だけどそこに僕の呼びかけがあって記憶を失くしている現実に直面した。君は記憶を無くしたことを知らないままでも一人で生き延びなきゃならない。──君は転生を目的として死んだんだね。そう、その逆転の発想が頭の中に浮かんだから、確かめたくなった」

 「逆転のって。しゅ、シュウタも同じだと言ったじゃないか。宝箱の転生を受けたのではないのか!」

 「頼む、落ち着いて。ひとつ言い加えると、僕が異世界と言った時も、君は動揺しなかった。異世界を知っているか、予備知識を持っているかだと察したんだ。死んだ記憶のない人が「死と転生と異世界」というワードを、知らない者から聞かされて、なんら動じないってさ。それってこの世界では周知の事実ってことでしょ」

 「う、そうだよ。他の人も沢山やっているらしい……うぐ。オレだけじゃない」


 全く話が見えて来ないが、オレの真実に、こうも早く迫って来るのはどうしてなのだ!?。オレのことを役人に突き出して金でも受け取る気か? 金持ちのくせに。


 「リンク、そんなに焦らなくていい。きっと記憶を失くしたせいもあると思う。でも、よーく考えて見てほしい。僕は死神に会って、死神の口から自分が死んだことを告げられた。はじめは悪い冗談だと思って疑ったんだよ。冷たくも、その言葉は死神の口から繰り返されて。泣きわめきながら死をじわじわと受け容れていき、ようやく死の自覚に至ったんだよ。つまり、死んだという宣告を受けない限り、その自覚に至ることはなかなか無いということさ」

 「あ…………」

 「そこだよ、リンク。女神様は君に死の宣告をしてないね。恐らく、女神も死者がやって来ると知っている事なんだろうから。君は二言返事で「女神に会ったのか」と僕に言った。おかしいよね?」

 「まあ、おかしいと言えば、そうなのか、な」


 う、もうダメかもしれない。混乱してきた。


 「そうでしょ? 僕は、神様に一緒に会ったとだけ伝えた。君のテンションは高かった。女神と思い込んだ為だとしても、なぜそんなに喜ぶんだ? 死神に会った場面の話をすでに伝えたよね。君はそこでも、ある言葉をあっさり飲み込み、そのとき頬が紅潮したのを見た」

 「シュウタは少年の転生者が目の前に現れたら、興奮しないの?」

 「そりゃ、するけどさ。そこじゃないでしょ、リンク。もう一度言っとくよ」

 「な、なにを?」

 「チート転生!」

 「いひっ! そ、それは……その」

 「僕は、格別な能力とも言ったけど、チート能力の解説は入れてない。でも君はそれを理解している。今の反応からも間違いなく。だからなんだな」

 「……」

 「わざわざ死んで転生して、これまでと同じ世界に生きて、いったい何のメリットがあるんだろうね。別人に成り澄ますだけなら、他にも手はありそうだ。なんせ魔法使いが実在するのだから。口にして思い返すのも辛い人生だったんでしょ。僕は異世界に行けと言われたとき、どうせ僕なんか生き残れないから、もう死なせて欲しいと駄々をこねたんだよ。そこに神の配慮があって、能力をもらったんだ」


 「て、転生のメリットはそれに尽きるよ。でもオレは、手順通りの転生をしていなかったから、女神の従者に選ばれて、ここに戻った。だから能力はないんだ。確かに君をあてにしてしまった。こんな状況に出くわすんだもんよ、そこは見逃してよ」

 「別に責めているワケじゃない。僕もリンクをあてにしたいた。そこはお互い様だ、安心して。──ていうか、なんで能力ないの? リンクは間違いなく転生しているよ。女神の説明受けてないの? 落ち着いて思い出して見なよ」


 落ち着いて彼の話を聞き、ゆっくり考え、思い出していく。

 記憶を失くしたせいかもしれないが、失くした覚えはないけど。ここで彼に出会わなければ、自分が記憶を失くしていることにさえ気付けなかったのも事実だ。

 つまり、死んだという自覚も同様で誰かに諭されなければ、まず気付きようもないだろう。そういう話を彼はしているのだと今改めて解った、いや解らせてもらったのだ。


 オレには一部の記憶がない。その確認はすでに自分の書いた文字を見て、終えている。シュウタと死神に出会った覚えもなければ、忘れた自覚もない。そもそも、その前に眠った覚えがないのだ。自分の身に何か異変が起きたと感じたのは、あの時からだ。


 「あ、あの白い空間がそうなのか……」


 しかし、シュウタに指摘を受けてからは、どこかで記憶を失くしているのかもしれないと言う、心当たりはあった。

 それが転生を受けたからだという直感も無くはなかった。だが、白い空間での痛みの体験と、この空の下の物々しい状況にその冷静な判断力をすっかり奪われてしまっていた様だ。


 オレは自ら転生の事を話さずとも良かったのに、わざわざ彼に告げてしまったのだ。この過酷な場面で孤独に晒されたくない一心から。彼の心を得ようという焦りから、見事に自分の機密情報を誤爆してしまったのだ。


 シュウタは、確かにこう言った。

 『やっぱり女神ルシルの方か』と。

 何故、このとき気づけなかったのか。

 やっぱりオレは、とことん運の無いやつだ。情けないぜ。


 彼がそう言った後に、実は死神に会っていたと言ったんだ。つまり、オレが女神に会ったのかと訊ねると彼は、そっちじゃないと言ったのだから、そこに気付くべき箇所があったのに。墓穴を掘ってしまった。

 彼が女神に会っていないことこそ、シュウタとオレの転生の仕方は違うのだと気付くべきだったのに。シュウタはそれを見抜いたのだな。


 「オレは、死の自覚がないのが普通なのに、当たり前のように自覚している自分の不自然さを疑問に思わなかったんだな。それにシュウタが異世界転生だと言ったとき、そこにすら何の違和感も覚えず、驚くことがなかった。だから逆に悟られたのか。君はけっこう鋭いんだな」

 

 やっと理解できたよ、シュウタ。


 「リンク。あまり落ち込まないでよ。僕はシュートリアの住人じゃないから、口外した内に入らないよ! 僕の転生も公にするのはヤバイんだ。お互いに秘密ができただけだよ。前向きに行こうよ」

 「ほ、本当か! そ、それならオレ死なずに済むな。ありがと、シュウタ」

 「いやいや、死んだから転生したんでしょ。転生が誰かにバレたら死ぬって世界なら別だけど。やっぱ、面白いなリンクは」

 「──バレたら死刑になるんだよ、この世界は」

 「ウソでしょ、女神がそう言ったの?」

 「ルシルさまがそんな酷いことを、まさかでしょ! シュートリアの法律ですよ。自然の摂理を捻じ曲げてる愚行だからって」


 法律に決まっているだろう。シュウタは勘は鋭いけど、まだまだ子供だな。


 「だいたい神様がそんな酷いこと言うて極刑にするんなら、誰も転生術など編み出しはしないよ。シュウタの方が面白こどもだろ」

 「お、おもしろこども……って。リンクは年齢いくつなの?」

 「オレ? 二十歳っすけど」

 「えっ。そうなの。そ、それは失礼いたしました。ねえ少しだけ過去に触れてもいい?」

 「うん? 内容によるかな」

 「あの、リンクは生前、人間だったのかな?」

 「そうだけど、なんで?」

 「だって法律って人間の為に、人間が作った決まりだから。そうなのかなって」

 「生前もなんも、死んだ感覚は殆ど無いから。ずっと人間でしょ」

 「まあ、今はいいか。ところで──」


 生前、人間かなどと聞いてくるあたりが、面白こどもでしょ。


 「今、なんとおっしゃいましたか? その世にも奇妙な「転生術」とは何ですかの?」

 「ぐぬぬ。のわ~~ん! 一生の不覚、いや誤爆だ!」

 「もう、この際だから聞かせてよ。ルールなら僕も知っておかなきゃ」

 「わ、分かったよ。けど説明あんまり上手くないから」

 「うんうん。リンクだいすき~! 可愛いなぁ」

 「可愛いってなんだ。オレ、二十歳のおっさんだぞ! それにギュギュっと抱きしめ過ぎでしょ! ちょっと離れなさい。というか、放してくれ~」

 「しょたは、どこの世でも愛されるものだよ。遠慮しなくていいのニィ」


 何故か急に甘えた声を出して、じゃれてきた。


 「──ショタとは何だ。何のことだ?」


 翻訳とやらの事も、もっと詳しく聞いて置かねばな。

 質問ひとつで、ここまでの馴れ合いに発展するとは。シュウタになら打ち明けてもいいのかもしれないと、思い始めた瞬間だった。久しぶりなのだ誰かとこんな風にじゃれ合うのは。今ちょっぴり幸せな気持ちになっている。

 

 不思議なやつに出会ってしまったものだ。まあ、馴れ合いも悪くないか。

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